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選ぶ意味

初めての国政選挙、と言っても町議会議員の補欠選挙。

私は、都会の学校に通っている。住民票はこちらにあるので、選挙はこの町ですることになる。

なんかわからない。が、18から選ぶ権利があるらしい。

コロナで学校は、6月からスタート。短い夏休みをダラダラと過ごすのは幸福だ。

「あんた選挙行かんの?」

母が言った。

「興味無いし。暑いし行かん。」と私。

ただの田舎の補欠選挙、これに行かなくてもこの世の中は回る。

選挙と言えば、中学の頃を思い出す。何故か私は生徒会長に立候補していた。

事の発端は、クラブ活動が嫌で仕方なかった。田舎の学校は、部活動はソフトテニス部しか無かった。それも強制的にみんな入らされる。

運動神経が鈍い私は、苦痛で仕方なかった。

そんな私の意見に賛同する者がいて、応援してくれた。

ところで、あと一人立候補した。男子がいた。

彼は学年一の勉強ができる奴だった。

生徒の自主性に任せると言いつつ、それとなく、教師は、彼を推している。

選挙演説、私は思いの丈をぶちまけた。

「選ぶ権利がこの学校にはありません。人間は、好きなことも嫌いなこともあります。運動の好きな子もいれば嫌いな子もいるのもそれと同じです。あなたが、私を選んでくれるなら、その時は、部活をしたくないと言えるようにします。」

シーンとなった体育館。後ろで、思い切り拍手する人がいた。

サトルだった。

彼はもう1人の立候補者だった。

それにつられるように、みんな拍手する。

その後の彼の演説は、素晴らしいものだった。

結果は見えていた。

過半数で彼は会長の座に着いた。


あの時ミラクルが起きて私が会長になっていたらどうなったのだろう?

ソフトテニス部は廃部になっていたかもしれない。


生徒数の激減で統廃合され、今はもう母校はない。

選ぶ意味するもの。

自分に降りかかるものの大きさに比例する。

暑いうだるような午後、母は汗を拭きながら、選挙から戻ると、冷蔵庫から冷えたビールを出し一気飲みしていた。

「誰に入れたん?」と尋ねると

「白紙投票」と答えが返ってきた。

「なんのために?」

「無駄やと思うやろ?でも、権利があるから使わな損、損」

「同じアホなら踊らにゃ損みたいな言い方」

「そうや、そんな感じで、最初はいいと思うで。秋の国政選挙は行きや!あんたも飲むか?」

「あのぉー私まだ未成年なんですけど。」

私は冷蔵庫からグレープフルーツジュースを出してコッブに注いだ。

「選挙は18から、飲酒は、20歳からってなんだかおかしいなぁ」

母は2本目の缶ビールのプルタを開けた。

「乾杯しよか!明るい未来に!」

「もう酔うとすぐ乾杯したがるんやから!」

選ぶ権利。この世の中の事がわかるまでもう少し先延ばししたくなった。

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