夜の向日葵
「お月様が笑ってるよ。」
空を見上げ、彼が言う。今年の夏は、イベントが何も無くて、ただ、夜空を見上げるだけになった。
しかし、私の右手を繋いで歩く彼は、
今日は、君を離さないぞ!という無言のメッセージを手の温もりともに、私に送って来る。
街灯の少ない港を歩く。静かな波音だけが囁くように耳に伝わった。
港の端に灯台が見えた。
漁を終えた船が、錨を下ろして何層も泊まっていた。
彼は、私の手を離し、その中の小さなボートに飛び乗り、ロープを解くと、手を伸ばした。「夜の海を見に行こう。」
私の手を引っ張り、ボートに座らせて、エンジンをかけた。
黒い海に波飛沫が上がった。しばらくすると、彼は、エンジンを止めた。そこは港から随分離れた位置だった。だから、私は少し不安に駆られた。
「俺は、船舶の免許持ってるから安心して!」黒い海から、輝くものがぴょんぴょん飛んでいた。
「トビウオも俺たちを歓迎してるぜ!」
空と海は、宇宙のように見えた。
彼は、腕時計を見る
「あと1分。」
私は目を瞬かせた。
「あと10秒。……空を見てみな。」
ドカーン!
夜空に咲いた向日葵だった。
ただ一度だけの向日葵。
「誕生日おめでとう!」
「どういうこと?」
「俺からのサプライズプレゼントだよ!今年は、花火大会もなかったから、知り合いの花火師も、暇してたんだ。あいこの笑顔が見たくて頼んだんだ。」
「ありがとう!」
「ううん、あいこの向日葵のような笑顔が俺の幸せなんだ。来年は、花火大会行けるといいなぁ」彼は、少し照れ笑いした。
「あっ!」夜空の彼方に流れ星が見えた。
「来年も彼と一緒にいられますように!」
一瞬の光の中に願いを込めた。
今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。