『装甲騎兵ボトムズ II クメン編』 作者:高橋良輔
「気の狂うような熱さと湿気、熱病と死を運ぶ虫共、緑に塗り込められてはいるが・・・・・・ここは地獄に違いない」
映画『ブレードランナー』の街並みを模した様なウドの街から一転。今度の舞台は、映画『地獄の黙示録』がモチーフと判然できる。
だが、そのクメン王国での戦争は、ベトナム戦争というより、カンボジアの内戦に近い。
反政府ゲリラとの内乱に揺れるこの王国では、傭兵部隊も一大勢力として幅を利かせていた。
ウドを離れてまる三ヶ月。追跡者の手から逃れながらこの地に辿り着いたキリコ・キュービーは、傭兵部隊アッセンブルEXー10に身を寄せた。
硝煙と死臭の中でしか生きられないキリコは、いずれきっとここに来る。そう睨んでこの地で待っていたのは、ゴウト、バニラ、ココナであった。
しかし再会したのは彼らとだけではなかった。
作戦中、凄まじい動きを見せたブルーの敵機に、キリコは確信する。
「この反応速度、ただの人間では決してない。相手は間違いなく彼女だ。ウドで別れたきりの、俺のフィアナだ」
さて、『ウド編』では、キリコ・キュービーは、軍と謎の組織の両方から狙われ続けながらも、何故自分が追われるのかを知ろうと、謎の組織に対して逆襲をかけ、「素体」とも「プロトワン」とも呼ばれる一人の女性に迫った私闘であった。
キリコを遥かに凌駕する戦闘能力を持った彼女は、戦いのためだけに生まれた「パーフェクト・ソルジャー」。
いつしかキリコは、無意識のうちに彼女を「フィアナ」と呼んでいた。
その彼女はもう敵ではなかった・・・筈なのに・・・。
『クメン編』では正規軍ではないが部隊に所属する。つまり、私闘から戦争に身を転じる兵士へと還った。戦いの内に紛れた方が身を隠し易いからだったが、その戦いの中で彼女と再び出逢ってしまったことで、傭兵として作戦に参加しながらも、またも私的な思いからの行動も起こす。物語は複雑な展開を見せるのである。
『クメン編』の見どころは、部隊に所属しているが故に垣間見える人間ドラマにもある。
生き生きとした登場人物たちのやりとりは、なかなか巧みにして妙味。読みながらしっくりとくるものがある。
また、『ウド編』では主な相手が治安警察だったので、毎回A・T(ロボット)同士が戦う構造ではなかったが、小規模ではあっても『クメン編』は戦争だ。実は、しっかりロボット物をやっているのだ。
そして、ここへきてのライバル登場。
戦いのライバル、そしてフィアナとの愛のライバル、イプシロンである。
そんな、テレビ版の14話から27話までのノベライズは、意外にもエンターテイナーに徹した内容となっているのである。
次回『サンサ編』。
スペースオデッセイの幕が開く。
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