『ショート・ピース』 作者:大友克洋
その頃、中学生だった私にとって、大友克洋という漫画家の登場は革命的であった。その絵、その表現方法等は、漠然と漫画家を志していた私にとんでもないショックを与えたのだった。
『ママとあそぼう!ピンポンパン』の酒井ゆきえお姉さんが好きなタイプであった大友克洋の漫画の初見は確か、マイナー系のSF雑誌『マンガ奇想天外』に掲載されていた『宇宙パトロール・シゲマ』。まだまだ短編をぽつらぽつら描いていた頃だ。
そして程なく、その『宇宙パトロール・シゲマ』も収録されている、初の単行本の自選作品集『ショートピース』を手にした。
その頃の大友克洋の作風はアングラっぽく、ややシラッとしたムードが漂うものであった。そいで、絵も白かった。
人物とかの書き込みは細かいし、緻密っぽいんだけど、コマ内に大胆な余白を設けちゃったりして、なんか総じて白っぽい。
「大友以前、大友以後」という言葉があるくらいで、大友克洋の登場は、漫画の表現史に多大な影響を与えたものだったのだ。
デッサンも確かでリアルっちゃリアルなんだけど、ピンポンパン大友克洋の描く人物たちは、押し並べて美男美女ではなく、極めて普通の地味目なアジア人顔。
描写についても、『ショート・ピース』に続く、『ハイウェイスター』、『さよならにっぽん』などの、初期に於ける”市井の人々の日常”を題材とすることが多かった時期は殊更に、劇画的なドラマチックさを廃していたので、ドライな作風がひねり出されていた。
当時劇画といえば、線の太さにメリハリが出るGペンを使うのがフツーだったにもかかわらず、大友克洋が使っていたのは画一的な線を描き出す丸ペンだったりしたのも、これまた独特さを際立たせた。
っつうことで、大友克洋はなんともユニークな存在として私の目に映えたのだった。
『気分はもう戦争』、『童夢』などの長編作なんかも描く様になるに従い、それはやっぱり派手さ、ドラマチックさも作品に加えられていき、いい〜塩梅を醸し出していた。
だが、私が大友漫画を溺愛していたのはこの頃までである。
急激に興味を失わせたのは、『AKIRA』の連載開始であった。
益々の画力の見事さとは裏腹に、そのハデハデ大袈裟っぷりが段々と鼻に付く様に感じだしたのだった。
あのしらっちゃけた雰囲気、微妙なユーモア感覚、そういった曖昧さみたいなところこそが、大友漫画の魅力だったのだ。うん、まぁ、少なくとも私にとっては。
お腹いっぱいになっちゃった私は、それから大友氏には興味を失った。もうビックリするくらいにパッタリと。
逆に、『AKIRA』以降からの読者にとっては本書は受け付けられないかもしれないが、当時はそらもうビックリな一冊だったのだ。