『2010年宇宙の旅』 作者: アーサー・C・クラーク
大ヒットーーーそんな在り来たりの言葉では言い表せない不朽の名画『2001年宇宙の旅』。その続編はあり得ないと長年言い続けていたアーサー・C・クラークが、1977年の引退宣言、そして1979年の作家復活を経て、ついに1982年1月に発表したのが本作である。
『2001年宇宙の旅』は、映画版と小説版では多少筋書きに違いがあるのだが、本作に於いてはクラークは前作の小説版を無かったことにしている。完全に映画版からの続きとして執筆しているのだ。
主人公は、前作の冒頭で登場したヘイウッド・フロイド博士である。前作で四名の宇宙飛行士が死亡し、デイビット・ボーマン船長が謎の失踪を遂げたまま放置されている宇宙船ディスカバリー号を調査する為に木星に向かう、というのが本作の大筋である。
設定として面白いのは、アメリカは調査船としてディスカバリー2号を製造していたのだが、それに先立つ完成が確実となったロシアの宇宙船にフロイドや、ディスカバリー号の操艦を詳しく知るエンジニア、そしてディスカバリー号に搭載されたコンピューターHAL9000の設計者であるインド系アメリカ人の三人が同乗、二大国家が協力して冒険旅行に赴くことだ。
クラークの作品の特徴として、プロセスと科学考証をしっかりと描き込むというものがある。そして、本作の場合、前半の殆どを主人公フロイド博士の視点でキッチリキチキチと描き通すので、その几帳面さはややもすると地味な展開という印象を与えることとなる。
だが、木星到達後からは様々な視点からの物語と様変わりする。それはオーバーテクノロジーとの接触によるが、それが木星や地球人類にどの様な影響を及ぼすのかが後半の見どころとなるのだ。
また、作品上では9年若しくは10年後ではあるが、執筆の方は14年も経っての続編である。クラークの作風にも変化は見られる。前作と大いに異なるのは、登場人物にキャラクター性が表れていることだろう。詩的な比喩も多々見受けられる。
ただし、そんなキャラクター性は物語の解釈の手助けをするだけに留まっており、状況自体が主役となって展開していくのは、やはりクラーク作品らしいところだろう、
本作は、ピーター・ハイアムズの製作・監督・脚本により1984年12月にアメリカで公開された。
クラークは、『2001年宇宙の旅』での盟友スタンリー・キューブリック監督が参加しないことを条件に本作の映画化を認めたと言う。
しかし、クラークはキューブリックを決して忌み嫌ってはいないとも言う。本書に於いても誰よりも先にキューブリックに謝辞を述べているのだ。それでもしかし、『2001年宇宙の旅』の製作時の苦労はとんでもなかったので、もう二度と御免こうむるということなのだろう。
結果として、クラークは本作の映画版をいたく気に入っていると言う。
大変めでたい。
そして、本作は『2061年宇宙の旅』へと繋がっていくのである。
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