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『エイント・チャウ』 作者: 作・狩撫麻礼、画・弘兼憲史

ここまで執着するとは、我ながら呆れた感は確かにある。狩撫麻礼の追悼本『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 』 を読んでから、蔵書を改めて読み返し、それに飽き足らず未読の書を買い求めて漁り散らかした。そして、デビュー当初の本書にまでぶち当たってしまった。
俺が狩撫麻礼を知るよりか前に発表されていた作品。しかも、作画はまだ若き頃の《島耕作》弘兼憲史。

歓楽の街”新宿”で、若いルポライターの卵、室容平と裏街道を征く人々とが触れ合う姿を描いた漫画作品だ。
憧れの外タレに会いたいという、殺人未遂手配中の捨て鉢な家出娘。
用心棒に身を崩しているにもかかわらず、いつかいいボクサーを育てることを夢見たまま夭折してしまった元ファイター。
老いてもなお現役にこだわり、舞台に上がり続けるストリッパー。
正月の一週間を寂しい者同士で共に過ごそうと、部屋へ訪れてきた娼婦。
草野球のリリーフ要員の雇われピッチャーとなっていた、高校の同級生との再会。
ジョン・コルトレーンに憧れていたジャズマンの死と、その弔い。
上記の如く、狩撫麻礼らしいモチーフに溢れたヒューマンドラマ。
何かとよく行動を共にする先輩ライターの岩田(ガンさん)や、行きつけのバーのママ、バーテンダーのダイス、スタッフのマリ子、それからゴールデン街に巣食うおカマちゃんなどといった街の連中と容平とのやりとりも、らしい感じだ。
だが、だからこそだろうか。最終二話で、容平は或る踏ん切りをつける。リセット・・・・・・まるで、安定とはイコール罠、とでも言う様に。
青臭く、バタ臭く、ウェットな人間臭さが漂う八編の逸話たち。
つくづくというか、モロに狩撫麻礼らしい一冊で、どうして今まで読む気にならなかったのかなぁ?

なお、ain’t chow = 「我、食用犬ニ非ズ」の意。関西弁「ええんとちゃう」のハーレム俗語というのは、作者の注釈によるものだ。


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