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『中山先生の「心の問題を共有する会」』 (未映像化台本)

(背景設定)
中山 イヤミの無い理性派。
晴美 ぽにょぽにょした女子。
マチ子 新妻。うつになりかけ。
李さん 中国河南省出身。カンフーマスター。


Zoom。
中山、晴美、マチ子、そして、李さん。
中山の背後には、『心の問題を共有する会』の張り紙みたいなのがある。

中山「はい。本日はお忙しいところご参加くださいまして、誠にありがとうございます。わたくし、この『心の問題を共有する会』の主宰を務めさせていただいております、心理カウンセラーの中山と申します」

李さん以外の他の皆、なんとなくペコリとかしつつ、
晴美「こんばんは」
マチ子「よろしくお願いします」

中山「今回、皆さんが参加されているカウンセリングは、グループカウンセリングです。日本ではちょっと馴染みが薄い様ですが、欧米では割と一般的なものです。お互いのお話をシェアし合う集団カウンセリング療法でして、見ず知らずの他者の悩みや苦悩を聞くことで、意外とご自身の解決策が見つかったりします。また、自分と同じ様に心に迷いがある人がいる、実は孤独ではない、一人ではない、と知り、安堵を得ることもあるものです」

じーっと、中山の言葉に耳を貸している皆。中山、それを確認し、

中山「さ、それでは、早速ご自身の悩みを、私を含めた皆さんに聞かせてください。そうですね、晴美さんからではいかがですか?」

晴美「え、あ、はい。じゃあ・・・わたし・・・あの・・・・・」

中山「あ、ゆっくりで大丈夫ですよ。トップバッターだけど、落ち着いて」

晴美「はい。・・・わたし、あの、簡単に言うと、対人恐怖症と言うか、人と話すのが苦手なコミュ障で」

中山「はい」

晴美「こういうオンラインだと、まだ平気なんですけど、面と向かって話をするのがどうも・・・二人っきりなんて、もう怖くて怖くて・・・」

中山「不安障害と言うのは、周りの目が気になってしまうために起こるものですが、それは結局、自分に自信を持てないことからの」

李さん「深呼吸よ!」

中山、晴美「は?」

李さん「しっかり吸って、吐く。腹式呼吸で落ち着くあるね!ちゃんと話せるあるね!」

中山「はぁ・・・」

李さん「中国四千年の歴史、信じるある!スローな動きと「深く長い呼吸」が太極拳の特徴あるよ!」

(この台詞の背後では、晴美は深呼吸してみている)

中山、戸惑いつつ「ご親切にありがとうございます。ええと?」

李さん「わたし、李さんある!」

中山「李さん。李さんですね。あのですね、こういう場合、太極拳はあんまり」

晴美「分かりました!」

中山「えっ?!」

晴美、晴れやかに「深く長い呼吸、試してみます!」

李さん「腹式呼吸ね!四千年ね!」

晴美「はいっ!」

中山、茫然としていたが、「・・・大丈夫なんですか?もういいんですか?」

晴美「はい。次の方どうぞ!」

中山「じゃあ・・・こちらの女性の方、マチ子さんですか」

マチ子「(うつになりかけで暗く、言うこともまとまっていない)はい。わたし、半年前に結婚したんですけど、姑と上手くいってなくて。何かと言うと、チクチクと文句ばかりで。結婚する前はあんなんじゃなかったんですけど、もうアレコレと。口ごたえするのもどうかなって、我慢ばかりで」

中山「ご主人にご相談されてみてはいかがなんですか?」

マチ子「しました。でも、女同士のことはよく判らないって、それだけです。逃げてるんです!・・・だから最近では主人のことまで憎らしく思えてきて、ああ、もうやだ・・・」

中山「まず、お義母さまと貴女はまるで別の存在だということを意識することですね。そして、そんな相手にちゃんと対応している自分をほめてあげる様にすれば」

李さん「挨拶ね!」

中山、マチ子「おーっ?!」

李さん「太極拳では、你好(ニーハオ)から始まって、謝謝(シェイシェイ)で終わるね!貴女、ママさんに普段からちゃんと挨拶してるあるか?!してないあるね?!」

マチ子「えっ、あ」

李さん「心を込めた挨拶を心がけることね!」

マチ子「・・・・・」

中山「李さん。李さーん。今はそう言う話じゃ」

李さん「そして、試合の最中は、常に相手との間合いを測ることね!これ大事なことね!」

中山「試合って」

マチ子「分かりました!」

中山「はいー?!」

マチ子「わたし、お義母さんのことを心の中で非難してたんだと気づきました。きっとそれって伝わっちゃうんだ。相手に変わって欲しいと思うんじゃなくて、自分から変わらなきゃダメってことですね?」

李さん「四千年ある」

マチ子「はいっ!」

中山「・・・・・いやー・・・そう来るか・・・」

マチ子「お義母さん、お、お、お」

中山「あの・・・」

マチ子「(ものすごく平坦に)おはよーございましゅー」

中山「う、うん(咳払い)・・・済みません。ちょっとそれはお一人の時にで良いですか・・・」

マチ子「はっ!やだ!ごめんなさい」

中山「いえ!!だ、大丈夫です」

(晴美は、それまで皆の様子を見つつ、深呼吸をしていたが、「間合い」の話辺りから、ちょっとモヤモヤしていたという背景があっての、)

晴美「ええと・・・良いですか?」

中山「えっ? ああ、晴美さん、どうしました?」

晴美「やっぱり、なんか、こう・・・深呼吸だけじゃ心もとないっていうか・・・ちょっと不安で・・・」

中山「・・・!(内心、李さんに対して勝利した気になって、笑みを浮かべ)ほーう、そうですか。では、改めて言いますが、不安障害と言うのは」

李さん「アチョーーーー!!」

中山、晴美「わあっ!!」

李さん「気合いある!」

中山「ビックリするでしょ!」

李さん「気合いある!自分より強い敵、とてつもなく強い相手と闘う時は、気合いで負かすあるね!」

中山「もう、李さん、無茶苦茶な」

晴美「アチョーーーー!!」と、派手にカンフーポーズ!

中山「えっ?!なに?!」

晴美「分かりました!」

中山「嘘だ!嘘でしょ?!」

晴美「カッコいいです!明日から、わたし、気合いで行きます!」

中山「あ〜あ〜」

李さん「四千年ある」

晴美「はいっ!」

中山、く〜〜〜って感じでうつむき、右の手の平で両目を覆う動作から、いきなり憤然と「李さぁぁぁぁん!!」

一同、目を凝らし、「・・・!」

中山「李さん!」

李さん「(たいしてビビってないけど、一応警戒してる)・・・なにあるか?」

中山「わたしはっ!!心理カウンセラーを始めて2年なんですが・・・最近、自分はちゃんと相談者の悩みにキチンと答えてあげられているんだろうかと思うことがあるんです。クライアントは本当にボクの言っていることに納得してくれているんだろうかって考えてしまうんですよね」

李さん「(なんだか冷静に)踏み込みあるね!」

中山「な、なんて?」

李さん「八極拳の極意は足の踏み込みにありある!踏み込みが弱いと技は効かないあるよ!」

中山「太極拳だけじゃないんだ・・・そうか!ボクは、カウンセラーとしての手法に囚われていたのかもしれない。相談者の心の奥底、悩みの根本を探る努力を怠ってきたんだ・・・。分かりました!李さん!」

李さん「四千年ある」

中山「はいっ!」

李さん「そしたら、わたしの相談も聞いてくれるあるか?」

中山「ああ、そうか。李さん、貴方ほどの方が、一体どうしてここに参加されたんですか?」

李さん「ハイ!わたし、どこか、初心者にも優しく教えてくれる、カンフー教室を教えて欲しいある!」

中山、晴美、マチ子「アチョーーーー!!」

終わり

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