見出し画像

『No cognizance』 その7 (未映像化台本)

 主人公(M)「再生・・・再び生まれた・・・。その時の俺と姉にとって、如何にも相応しい言い方に思えた」
 ベッドに横たわる主人公、そして姉。

 主人公(M)「なんということだ。俺は財団から職を得ていたばかりか、命までもを救われていたとは。実の姉を殺ろ・・・手にかける羽目に貶められたことには憤懣遣る方無い、憤怒の想いでしかないが、しかし・・・・・」
 安らかに伏し、眠っている主人公の顔に寄る。

11.主観ではない回想
 施設の一室。テーブルと椅子が数脚の簡易的な部屋に、父親、姉、主人公の三人。テーブルを挟んで父親と、主人公、姉が対面して座っている。
 父親は制服然とした姿を、姉、主人公はタンクトップにパンツルックといった軽装。左こめかみにメカは無い。
 父「すまん・・・・・」目を伏せる。
 姉「言わないで。悪いのは私だから・・・・・。感染してしまったばかりか、細菌を撒き散らかしてしまって。自分の無知が恥ずかしい・・・・・。何も・・・弁明出来ることは何も無いです・・・・・」
 主人公、見かねて「う〜ん・・・・・。こうやって息して、喋ってる。俺や姉さんが今、生きていられているのは紛れもなく父さんのお陰だ。なっ?」と、姉に問う。
 姉、うっすらと眼に涙を泛べながら「・・・・・」
 主人公「おいー」
 姉、ふっと口元を緩め笑みを見せる。
 姉「うん・・・・・そうだね」
 黙っていた父親、うつ伏せ気味にようやく目を開く。
 父親「だが・・・・・やはりこれはエゴだ。父親としてのエゴ・・・・・」
 当惑の目で父親を見守る姉弟。
 両肘をテーブルに立てて、両手の掌で自らの顔を覆う父親「ああ・・・。そのエゴがどんな結果をもたらすのか。それは予測し得たのに・・・・・なのに俺はお前たちに・・・・・」
 姉「お父さん」
 主人公「と・・・」
 コンコン、とドアにノック。
 ガッチャリ開かれるドア。ドクターAの一人とそれに従う衛兵三人。
 主人公「え・・・・・」
 父親「・・・・・う・・・・・」と両手をテーブルに伏せ、体を屈める。
 姉(承知の上)、父親の手をギュッと握る。
 ドクターA「すみません・・・全くの不本意です・・・・・」
 父、ドクターAに顔を向け「ああ・・・・・」
 衛兵A、前に出て、主人公と姉に向け「二人とも移動していただきます」
 主人公「えっ、どこへ?」
 衛兵A「質問は無駄です。返答の用意はありませんから」 
 主人公、訝しみ、やがてむっと身を固くする。
 主人公「なんですか。その言い方って」
 目を向けるのみで口は挟まない父と姉。この後の行く末にただ怯えているのだ。
 衛兵A「いいから、黙って従っていただきたい」
 抗議の目を父に向ける主人公「父さん!」
 その声に俯いてしまう父。手を握り続けるのみの姉。
 主人公「父さん・・・? 姉さん・・・・・」
 衛兵A「さぁ、いい加減立っていただこう」
 主人公「ちょっと黙っててもらえませんか!」
 衛兵A、続けて他の二人の衛兵も銃を構える。
 衛兵A「立ってください!」
 主人公「うっ」思わず椅子から立ち上がる。
 衛兵A「これでもこちらは御父上に敬意を払っている積りだ」
 衛兵Bは主人公に、衛兵Cは姉に迫り寄る。
 姉も立ち上がる。
 主人公「・・・・・・(汗)」右の拳を握る。
 姉、そっと主人公の右手に手を添える。
 姉「駄目、抵抗しては」
 主人公、姉に振り返る。
 姉「お父さんの立場を考えなさい・・・」
 主人公「・・・・・」
 主人公、父を見る。
 父は、苦渋の表情ながら、主人公と姉にじっと目をやっている。
 主人公「判った。二人とも承知なんだな。・・・・・それならいい・・・・・」
 衛兵A「さぁ」
 主人公、従って歩む。姉も続く。
 ドアに向かう主人公、姉、衛兵A、B、C、ドクターA。
 ドアを出ていく一行。最後のドクターA、ドア際で止まり、踵を返して父に体を向ける。
 ドクターA「残念です・・・・・」
 一人残った父親、ただただ座ったまま一行を見送る。その姿に「ガチャリ」と閉まるドアの音がかぶる。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?