『機甲猟兵メロウリンク』 作者:高橋 良輔
本作品は、テレビアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の外伝として、世界観と時間軸を同じくして制作されたOVA作品のノベライズである。
1988年3月に、『レッドショルダードキュメント 野望のルーツ』がリリースされ、ボトムズ本家様のOVAとしては、「いや〜、これ以上は作りようがないっしょ」と、一旦の完結を迎えたものの、新たなボトムズ作品の登場の切望に応えた形で、1988年から1989年にかけて発売されたのが『機甲猟兵メロウリンク』全12話だったのだ。
この作品の肝は、生身の主人公 VS. A・T(ロボット)という機軸である。
え〜、一応解説しておきますと、約4mのアーマードトルーパーことA・Tが主力兵器として展開しているのがボトムズの世界で、ほんでまた、この人型戦車とも言えるA・Tという代物は、汎用性の高さと反比例し、気密性も装甲性もないがしろで、また、引火性が高く発火し易い動力を採用されていたりと、パイロットの生存率なんてものを考慮していない設計思想から、「鉄の棺桶」とも称され、その乗り手は最低扱いの兵士として、「ボトムズ野郎」と揶揄された。
それが番組名にされているのだから、それもどうなの? ってお話だったのだが、本作で言う「機甲猟兵」とは、その最低の兵装であるA・Tすら懲罰的に剥ぎ取られ、対A・Tライフルという長尺の銃を一丁持たされて戦うことを余儀なくされた連中を指すのだ。
因みに、この対A・Tライフルは全長2,050mm、重量30.3kgと重くて扱いにくい。さらに、なかなか捻ったメカで、銃身の下部にパイルバンカーと呼ばれる特殊合金製の槍を液体火薬の爆発力で射出するユニットを装着しており、この長槍でメロウが復讐の相手をA・Tごと貫くのが毎回のクライマックスとなる訳だ。
とまぁ、設定云々は置いといて、ロボットアニメなのに主人公がロボットに乗らないで、ライフル一丁で立ち向かうというのが異色でしかない。
思い切っている。
OVAだからこそ成立出来た、スポンサーありきのテレビアニメじゃ作れなかった作品なんじゃなかろうか。
作劇としては、タイトル名にもなっている主人公 メロウリンク・アリティ一伍長の、説明も無しにいきなり始まる復讐劇を縦軸に展開する。
メロウリンクが復讐を誓わずにはいられなかった出来事とはなんだったのか。
彼の行動にリンクする様にして行動を共にする複数の人物たちは、物語にどう関与していくのか。
そんな横軸を孕みつつ、生身でありながらA・Tに対して創意工夫及び、執念で戦い抜くメロウの姿を描いていく物語だ。
で、小説版は、出だしこそOVAをなぞっているが、次第に独自の展開を見せていく。
本家本元よりかは少し手前の期間に於けるクメンを舞台にしてからは、アニメ版では登場しないゴウト、バニラ、ココナ、そしてアッセンブルEX-10のゴン・ヌー将軍、カン・ユー大尉のほか、ブリ・キデーラ、ポル・ポタリア、ル・シャッコらの傭兵たちをも含む、ボトムズ御本家ではお馴染みの面々もこぞってご出演、さらにはブルーA・Tまで登場と大サービスだ。
なお、アニメ、小説版共に、メロウが雨を凌いで野宿した際に薪として使ったチェコブという樹木のトゲの毒の作用で、過去の悪夢を見てうなされるという描写があるが、実はこれには元ネタがある。
それは、テレビ放送中当時のアニメ雑誌でのボトムズ特集で、高橋監督が書き下ろした短編小説だ。
この小説では、メロウではなくキリコ・キュービーが毒に当たって、あの小惑星リドに於ける謎の作戦と、そこで遭遇した「素体」を夢に見るというものであった。
機会があればそちらも読むと妙味が増すかもしれない。
さて、なかなか筆の運びも結構で面白い本作であるが、残念ながら第一巻が発刊されたのみで未完である。
高橋氏は、クメンを描いて、もう満足してしまったのだろう。多分。
この続きはOVAで愉しむしかない。
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