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慣れている人から、慣れていない人へのお手紙だと思って読んで欲しい

ありのすさんのこのnoteを見た瞬間、心がズキンと痛くなった。

ありのすさんはもちろん、息子さんについても心配はしたが、それよりも、私たち医療者が当たり前と思っていることと患者家族が思っていること、それは大きく異なるということをあらためて考えさせられたからだ。

よく、手術で傷が痛いと叫び荒れて医療者にあたってくる患者がいるのだが、こちらから言えば、そんなの当たり前だ。

人工的に麻酔薬を使って痛みを飛ばし、お腹に10cmを超える傷を作ってきているのだ。大昔ならそれだけで死んでいたんだから、むしろ生きていることに感謝しては?などと思いながら、真顔で鎮痛薬を投与する。

病院や病棟宛あてにこういう感想や意見をいただくことはよくあるし、クレームになってしまうケースもこういうことが基盤にある。

すべては、コミュニケーション不足、または、コミュニケーションエラーに尽きる。


しかし、現場にはそのコミュニケーションの溝を埋め、壁を超えていくような労力や時間は残されていない。

こっちだって限界なのだ。
(医療費5割負担にして、お給料倍にしてください)

今回のありのすさんのケースも、自律神経の乱れで酸素が脳までいかなくなってと説明されているが、たぶん、はい、そうですかと納得できる人なんてごくわずかだと思う。

自律神経ごときで、死にかけてたまるか!と思うだろう。
私も看護師じゃなかったら、そう思ってる。


そこで今回は、こういうケースに慣れているナースあさみから、慣れていない人のためにお手紙を書いてみようと思う。

あくまで、お手紙なので私的なものだ。
決して、看護師が言っていることだから安心!などと、安直な考えはしないで欲しい。

たとえるなら、牛肉で作る肉じゃがが基本だけど、豚肉で作っても美味しいし、塩味ベースしても美味しいよ、みたいなものだ。

これを読んで何を作るかはあなた次第だし
作って美味しいかどうか判断するのも、あなた。

私はあくまでも、選択肢を増やすためだけの妖精だと思って欲しい。


===


今回のありのすさんの息子さんのような事例。
実は、私も過去にやったことがあるし、何度も患者で見たことがある。

わかりやすいもので言うと、12歳のとき。

インフルエンザにかかり、起き抜けでトイレに入っておしっことうんこをした瞬間、目の前に黒いカーテンがかかっていき、意識が吹っ飛んでいた。

気付いたらおしり丸出しのまま部屋に寝かされていて、両親が私の顔を覗きこんでいるところで目が覚めた。

その後、おしり丸出しのまま救急外来にかかり、おしりが出てるからという理由でそのままおしりに解熱剤の筋肉注射を打たれ、おしりを揉まれ(筋肉注射ではこれがデフォルト)、痛さに叫びつくし、院内中の注目を集めながら帰路についた。もちろん、おしりをしまって。


いったい、わたしは、noteで何を書いてるんだろうね。


もうひとつ。


胃は強靭なのに腸が虚弱という体質をもつ私は、よくお腹をこわす。

そのときに、トイレが寒いと、もうダメ。
寒気が悪寒に変わり、冷や汗が出てきて、これまた意識が吹っ飛びそうになる。

ちなみに、このときもおしり丸出しである。

だから、お行儀が悪いと言われるかもしれないが、私はスマホを持ってトイレに入る。一人暮らしでトイレで倒れてしまったら、助けを呼ぶ術がスマホしかないからだ。

もし、おしり丸出しで救急搬送された女性のニュースが出たとしたら、99%の確率でわたしだと思う。不名誉極まりない。


ありのすさんの事例も合わせてみれば
もう、みなさんおわかりだろう。


共通項がうんこであることに。
実は、こういう身体の反応って、私たち医療関係者の中ではよくあることなのだ。


ここで、うんこが出る仕組みを簡単に説明させてほしい。

うんこが南下してくると上にある内肛門括約筋から神経を通じて脳に「うんこキテる」と指令がいき、下にある外肛門括約筋ゾーンまで降りてくると、いよいよ身体もうんこしたい欲を感じ、うんこを我慢したり、うんこしたりするという流れとなっている。

ここで排泄に関して重要な役割を努めるのが、自律神経のひとつである骨盤神経だ。

自律神経について説明していると、それだけで新書1冊分の文章になってしまうので割愛するが、文字通り、身体の自律を支配する神経だ。

体温も呼吸も血圧も、眠たいな、食べたいな、出したいな(排泄も性的欲求も含む)も、すべて自律神経の支配下にある。

だから、ここがやられると具合が悪くなるし、場合によってはショック状態(死ぬ一歩手前)に陥ってしまうし、ここにアレルギー反応や感染症が加わると嘘みたいに死んでしまうのだ。

自律神経失調症、という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれないが、これ。

自律神経のはたらきで、体には陰モードのときと陽モードのときがあるのだが、その切替がうまくいかなくなってしまう病気だ。

不眠症
便秘症
食欲不振

これらの病気も、自律神経の失調に起因していることがほとんど。
なんで薬で治せないんだ!って思う人もいるかもしれないけど、こればかりは生活の中で整えていくしかない。相手は神経だもの。

それほどまでに、自律神経のバランスが取れていることはとても良好なこと、そして、それが乱れたときの身体へのダメージは凄まじいものがある。


ここで、もうひとつ事例を紹介したい。

あれは、看護師になって2年目。
当時働いていた病院では、術前の患者さんに浣腸をかける決まりになっていた。

(詳細はブログをどうぞ)

患者さんを浣腸室へ案内し、横になってもらっておしりに浣腸をぶっこむ。

最初はなんともありません〜って言ってた患者さんが、冷や汗をかきはじめ、みるみるうちに顔が蒼ざめ、眼球上転(白目をむくこと)して意識を失ってしまった。

マ〜ジ〜か〜〜

と思いながら、緊急コールで先輩を呼んだら

あ〜、うんこショックね
足上げてしばらくしてると治るから

と、サラッと対応していた。
え?うんこショックってなに??

足をあげてベッドに寝かせる。
先輩の言っていた通りすぐに意識が戻って
予定通り手術へ向かっていった。

でも、着ていた浴衣は絞ったらしたたるほど汗をかいていたし、その患者さん、結構ガタイがよくて、うまく言えないけれど、ちょっとやそっとのことで倒れてしまうような人じゃないように見えたのだ。

バタバタが落ち着ついたあと
先輩にうんこショックの解説を求める。

なんていうのかな〜

ほら、うんこ関連の神経って骨盤神経が支配してるでしょ?
だから、緊張していたり脱水だったりしているところに浣腸をかけると、一気に血圧と心拍が下がってああいうふうになってしまうことがあるのよね。

診断風にいうと、迷走神経反射による血圧低下に伴うプレショック、って感じかな。

便秘の人が一気にでかいうんこするときもそう。
大きな便塊が身体の外に出るということは、温度と質量のあるものを失うって身体は捉えることがあるので、ショック状態に近い状態になることがあるの。

これは、ノロなんかの重篤な下痢も一緒ね。一気に水分を失うから極度の脱水が進行してしまい、血圧低下からのうんこショック。

手術に不安がある人とか、浣腸がはじめての人とか、もともと不安に弱い人なんかはそういう傾向が強いから、十分注意して浣腸かけてね。

ちなみに、私はこれをうんこショックと教わって以来、うんこショックって呼んでる。

なるほど。
私もそう呼ばせていただきます。

そういえば、あの患者さん、手術がめっちゃ不安で、浣腸もはじめてって言ってたし、めっちゃ緊張してて不安だったんだろうな〜

もっときめ細かいプレパレーションや密なコミュニケーションしておけばよかった〜!

と、ものすごく反省した。

迷走神経反射という聴き慣れない言葉を出してしまったが、長時間座ってたあと一気に立ち上がるとめまいがしたり、過度な緊張下にあるときにお腹が痛くなったりする、アレだ。

身体と心は繋がっている。
このうんこバージョンが、うんこショックというわけ。


ここでひとつ補足を。

浣腸の液体の量は、体重当たりのグラムで決まると言われている。
普通の浣腸の場合、体重60キロの人は60ccくらいが基本。
消化管の術前の場合は、うんこをきれいに流したいので倍量の120ccになることもある。

ということは、体重15キロのお子さんの場合、わずか15cc(大さじ1杯)が適量ということになる。

未熟児で生まれてしまった子も、うんこがでないときは浣腸をかける。
体重1000gなら1ccを注射器で吸って投与するのだ。

これくらい、浣腸って実はデリケートなもの。
薬局で買えるし、おしりにぶっこめばいいんでしょ?ってものじゃないの。


看護師になって10年になるけど、こういう浣腸で具合を悪くしてしまう患者さん、半年に1回は遭遇するし、うんこ関連で具合が悪くなる人は毎週のようにいる。

ちなみに、もうひとつ補足をすると、うんこするときってう〜んっていきむので、一時的にめちゃめちゃ血圧が上がる。

たまに、上の血圧が200を超えてしまう人がいるんだけど、これって女性が出産するときに到達する人がいるかいないかのレベルなので、相当血圧が高いと思ってほしい。

いままでお花に水をやるために水圧でよかったのに、同じホースで屋根の上を掃除しますレベル。屋根がきれいになるのが先か、ホースがちぎれるのが先か。

そりゃ、頭の血管切れるよねって思う。

そのあとすぐに立ち上がって、たとえば真冬の寒い廊下を通って部屋に戻る、となると今度は一気に血圧が下がる。

冬の朝に血管系の病気を発症する人が多い理由、なんとなくわかったんじゃないかな。



ここまでうんこに付随する身体の反応について書いてきたけど、これってくしゃみみたいなものだから、残念ながら治しようがない。

くしゅんみたいなかわいいくしゃみをする人もいれば
え?テロ?みたいなくしゃみをする人もいるよね。

もし、解決策があるとすれば

・うんこするときに深呼吸すること
・便座を含め、トイレを適温にしておくこと
・便秘や下痢に傾かなないような食生活を心がけること

くらいかな。


そして、最後まで読んでくれたあなたならもうわかると思うけど、トイレで座ってうんこができるって、元気じゃないとできない行為。

だって、インフルエンザのときや具合の悪いとき、うんこでなくない?

救命救急センターにいる患者さんも、うんこが問題になることなんて、ほぼないもの。それよりも循環と呼吸が大事、うんこは五の次。

寝たきりの患者さんとか、筋力がないのでまず自力で出せない。
怒責をかけれないから、下剤を飲ませてうんこを柔らかくして出す、というか私たちが出させるって感じ。



いつもは元気にみえる人でも
筋トレでムキムキな人でも
すごく偉くて強い人でも

人は容易に弱るし、倒れるし、寝込むし
そういう、壊れ脆い存在なんだということが伝わったらいいな。


では、トイレいってきます。



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