安全に採血をしてもらうためにあなたができること
看護師になって11年目
医療や処置に関して
SNS・プライベート問わず
質問をうけることが多いです。
中でも、もっとも多く聞かれる質問が採血。
たとえば
採血し終わったあとの絆創膏っていつはがせばいいの?
血管が見えないって言われるけど、私のせい?
点滴と採血って、刺す針に違いはあるの?
できるだけ痛くないようにするには、どうしたらいいの?
患者やご家族からしたら不安で不安で仕方のないことですよね、わかります。
誰だって、痛い思いはしたくないですよね。
わたしたち看護師や医師も、できるだけ痛くないように努めているつもりではありますが、痛みは個人差のあるもの。
針を刺すという行為ですから、痛みの絶対値を0にすることはできません。
でも、わたしたちのスキルや経験、そして、患者であるあなたの協力があれば、最小限に抑えることは可能です。
今回は、患者からみた採血の流れに関して、徹底にお答えしてみます。
もちろん、不安なことがあったらお近くの医療者にお尋ねください。そして、各医療機関の指示にしたがってください。
これを読んだあなたが安全に、スムーズに、できるだけ痛くなく、採血を終えれることを願って。
採血の前日って、お酒飲んでもいいの?
控えてもらったほうがベターですが、大人の皆さんはいろいろありますよね。
そもそも、採血と飲酒がどう関係しているのかというと、採血で得られる肝機能という情報項目に影響を及ぼすからなんです。
肝機能とは、そのまま肝臓の機能をあらわすもの。要は、代謝。
採血の項目でいうGOT(AST)、GPT(ALT)とかその辺りです。
この数値が高いと肝機能障害、肝硬変やアルコール性の肝障害を疑われることもあります。
そのため、控えたほうがベターというわけ。
実際のその人のアルコール分解能なんて調べてもわからないので、なんともいえませんが
数値が高い場合、再検査や要精密検査になったりするので、健診で引っかかりたくない人は飲まないほうが無難かな、と思います。
採血前にご飯を食べてはいけないって本当?
採血のとき、必ずお聞きするのが
最後にお食事をとったのはいつですか?
という質問。
理由は、多くの採血で必ず項目に入ってくる血糖値が関係しているから。
ご飯を食べると血糖値があがります。
そのピークはだいたい食後2~3時間後。
対して私たち医療者が知りたいのは、お腹が空いてる状態の血糖値(空腹時血糖)
ほら、人間だってなにも身に付けていないときに本性が出るじゃないですか、ああいう感じ。
そのため、採血前にごはんを食べてしまうと血糖値が爆上がりしているので、正確な値がわからないんです。
血糖値は糖尿病のスクリーニングにおいて、とても重要な項目となります。
ここで引っかかると、1日に何回も採血する検査や血糖値を周期的に測り続ける検査を受ける場合もあります。
正確な空腹時血糖をはかるためにも、採血の際はご飯を食べないでいらしてください。
どっちの腕で採血してもらえばいいの?
これは血管の出やすいほう!といいたいところですが
利き腕じゃないほうがオススメです。
採血したあと、その部位へ負荷をかけたくないからです。
例えば、採血した側の肘で重たい荷物を持つ、なんて最悪ですね。
再出血することは滅多にありませんが、針を刺したあとの皮膚を刺激することになるので、内出血みたいになることがあります。
患部は安静が基本。
内出血も1週間くらいすれば治りますが、それでも、ちょっとなんかあれですよね。
いずれにせよ、採血したその日のうちは刺されたほうの腕を酷使しないほうがベター。
採血の手順を簡単に教えてくれない?
もちろんです!
まず、使う物品はこんな感じ。
皆さんが覚える必要はまったくありませんが、この器具ってこんな名前ついてるんだ…!と思っていただけると。
針の高い・安いについてはこちらを参照してください。
つづいて手順はこちら
1、駆血帯(ゴムみたいなやつ)で二の腕を縛られる
2、手のひら、親指を中にしてグーで握って力を入れるよう言われる
3、肘の真ん中あたりをアルコールで消毒される
4、針を刺される
5、血を抜かれる(検査項目によってスピッツの本数は変わる)
6、駆血帯を外される
7、針抜かれる
8、絆創膏貼られて、おわり
なんだか、わかるようなわからないような感じだと思うので、ここからは採血の手順に関して、よく聞かれる項目をピックしていきます。
なぜ肘(ひじ)のあたりを刺すの?
いい感じの血管が通っていて、安全に速やかに取れるからです。
手の甲や手首の周りにも、見た感じわかりやすい血管がありますが、刺すと大変痛いんですね。
この辺りは神経が多く通っていたり、痛覚(痛みを感じる感覚)のポイントが多い、つまり痛みを感じやすいため、それに比べたらマシな肘(ひじ)を第一選択にすることが多いんです。
たまに、肘の血管が見えない人や肘に太めの血管が走っていない人は、手の甲や手首付近を刺すこともあります。
高齢の患者さんの中には、もう静脈なんてないんじゃ…って人もいます。
そういう人は、採血に適した部位を無視してとれるところから採血をとるんです。足首とか(痛い)手の親指の付け根とか(痛い)
だって、採血が取れないと
・今の身体の状態がわからない
・治療の効果がわからない
・治療や薬の副作用が出てるかわからない
治療の評価も出来なければ、現時点での身体の状態もわからない。
前へ進めなくなってしまうんです。
これだと、治療の意味がないですよね。
だから、わたしたちは必死になって採血をとります。
健診も一緒です。
スクリーニング、そしてそれを継続していかないとデータが溜まっていきません。
個人的な話を少ししますと、私は白血球という項目がいつも10000を超えてるんです。これ、標準値と照らし合わせると高い値なんですが、大人になった頃からずーっとこう。
ちなみに、白血球が高いというのは、なにかと戦っている戦士が多いことを意味します。炎症おきてる…?という推測が成り立つんです。
初診の医師がみたら、風邪ひいてませんか?炎症が起きてそうなんですが…といってきますが、いつもみてくれてる医師からすると変わりないねって見解になります。
継続的に定点観測することの意義は、こういうところにあらわれるんです。
なんで手のひらグーにして握るの?
縛るだけでよくない?
それがね、良くないんですね。
グーにして握ってもらうことで筋肉にぐっと力が入ります。
そうすると、おのずと周りにいる静脈たちも浮き上がってくるので採血する血管が見えやすくなるんです。静脈は、筋肉の周りにあるからね。
たとえば、筋トレしている男性はぐっと握ってもらわなくても、駆血帯を縛る前から血管が見えているのでクリアなんですが
色白でぽっちゃり、運動の習慣がなくて低血圧な人なんかは、グーを握ってもらわないとちょっと厳しいかな…って感じです。
もちろん、リウマチやその他の病気、障害などで腕に力を入れにくい人は、無理しなくても大丈夫です。意識ない人とか、無理だからね。
採血のたびに貧血になってしまい困っています…
うんうん、ありますよね。
ふわ〜って意識が遠のいていく感覚ね。
まず、それ本当に貧血なの?という話からさせてください。
おそらく、みなさんが貧血だと思っている現象は、貧血じゃなくて低血圧です。
採血で貧血になってたら、献血が成り立たなくなってしまいますからね。みんな意識飛ばしながら献血しているなんて、ちょっといろいろアウトな気がしますし。
では、なぜ低血圧になってしまうのかというと
・針を刺す時の痛み
・採血が怖いという不安
・過度な緊張による身体のこわばり
などの理由で
神経の反射が起こって一気に血圧が下がり、めまいや吐き気、意識消失などの症状を引き起こしてしまうんです。
そのため、一度でも採血で具合が悪くなったことがある人は、ベッドで横になって採血してもらってください。
こちら側の本音を言わせていただくと、大の大人が倒れると重たいですし、ストレッチャーにのせるのも一苦労ですし、頭なんて打ったら採血どころでは済まなくなります。
だから、倒れてもいいように最初からベッドで横になっててほしいんです。意識飛んでも寝ているから安全ですしね、あなたもわたしも。
このあたり、こちらのnoteで別の方向からアプローチしています。
よかったらぜひ。
血液ってどれくらい取られてるの?
ここでちょっとおさらいです。
採血のときに使う筒状の物体をスピッツ(採血管)と言いました。
1本のスピッツに取る血液の量は、おおよそ2ccから7ccほど。
(調べたい項目やそれぞれのスピッツの特性によります)
健康診断レベルの採血であれば、スピッツ5本ほどで15ccくらいが妥当じゃかいかと思われます。
約大さじ1杯と考えると、アレですよね。
献血ではMax 400ccの血液をとるので、採血でとる血液量くらいでは貧血になりませんし、血が足りなくなることもないので安心してもらいたいです。
ただ
だいたいの人が、スピッツの中に採取された血液量をみて多いなと感じているように思います。
あれ、実際量より多く見えるようになっているんです。
スピッツの多くが2重構造でできています。
光の屈折率が外側のそれと、内側のそれで違うので、実際に採取した血液量よりも多くみえるというわけ。
今までとってきた静脈からの採血、Maxでも40ccほどだったので、お玉1杯分にも満たないと覚えておいていただけると、ちょっとは救いになるかもしれません。
消毒のアルコールでかぶれるんだけど、どうしたらいいの?
アルコール以外にも、他の消毒薬があります。
一般的に、エタノール(アルコールの一種)で採血する部分を消毒するんですが
アルコールアレルギーの方もいるので、代わりにヘキシジンという消毒薬を使うことがあります。
他にも、消毒薬はたくさんあるので、かぶれる、かゆい、赤くなる、肌にしみるなどあったら医療従事者に相談してください。
出来るだけ痛くないように採血して欲しいんだけど!
はい、お待たせいたしました。
皆さんの願いはこれですよね?
私たちだって、出来るだけ痛くなく、1発で取ってあげたいと心の底から思っています…!
さすがに、皮膚に針を刺すのでまったく痛くない!っていうのは難しいのですが
いろいろと方法があるのでひとつずつ紹介していきますね。
刺されて痛くても、動かさない
たまに、刺されると痛いため腕を引っ込めようとする人がいるんですが、危険なのでやめてください。
静脈に刺した部分から針がずれて、神経や動脈を刺してしまう恐れがあります。
こっちのほうが痛いですよ~
神経を刺してしまった場合、部位にもよりますが一時的にしびれたりすることもあります。
肘の弱いところをぶつけると、腕から小指にかけてじーんとしびれてしまうこと、ありますよね?
あれと同じ原理のことが起こります。
そして、動脈を刺してしまうと血を止めるのに、とても時間がかかります。
脅すつもりではないんですが、動脈からの出血は吹き上げるほどの圧があります。
もう金田一少年もびっくりです……
痛くて怖い気持ちもわかりますが、腕を動かしてしまうことのほうがリスクです。
動かさずに、じっとしていましょう。
勢いよく刺してもらう
じわじわ刺されるよりも、一気に刺してもらった方が痛くありません。
石川五右衛門が使ってる斬鉄剣と一緒。
スパッといってもらった方がその瞬間の痛みは少ないんです。
新人看護師とかね、おそるおそる刺すので痛みを強く感じることもありますが、もうしょうがない。
わたしたちも患者さんを選べないし、患者さん側もベテランナースを選べるわけではありません。
ここで採血を失敗するのは、私たち医療者が下手くそなせいなんですが、それ以外の要素もあるので簡単に説明しておきます。
血管が細いのは体質や加齢のせい、あなたのせいじゃない
たまに、自分を責める人がいるんですが、その必要はまったくありません。
細くても血管がしっかりしている人もいれば、体格ががっちりしているのに血管が細い人もいます。
おそらく、厳密にいえば、筋肉のつき方や血管の走り方など遺伝が関係してくるので、もうどうしようもないです。
もし、方法があるとすれば筋肉をつけること、筋トレですね。
筋トレすると、あいだに通る静脈も浮きあがらざるを得ないので見えやすくなります。
ただ、これも採血を一発で確定させる要素にはならないので、あくまでも補足です。
そのうえで。
私が血管を見やすく&探しやすくするために、患者さんにお願いしていること、やっていることを書いておきます。
エビデンスに乏しいので、本当に参考程度にしてくださいね。
その1:あたためる
血管を見やすくするためには血管を広げることがポイント。
ということで温タオルやあんかで腕を温めておきます。
30分くらいするとうっすら見えてくることがあります。
ちなみに、わたしは献血の際に温められることが多いです。
献血では、通常の採血よりも太い針を刺しますしね。
その2:心臓よりも針を刺す場所を下げる
これはベッドに横になってる人限定でしょ?と思われるかもしれませんが、健診でも使える方法です。
腕を縛られたあとに、その腕を心臓よりも下に下げて、採血する静脈血を手のひら側に強制的に増やします。
ちょっと手がジンジンするかもしれませんが、いつもよりも血管がくっきり浮かび上がってるはずです。
その3:手のひらをグーパーグーパーする
これも賛否両論ありますが、血管が見えやすくなる一つの方法です。
ただ、駆血してから手のひらをグーパーグーパーすると、筋肉が刺激をうけてしまいこれから調べるK(カリウム)の数値に影響を及ぼすと言われています。
脱水や心臓・腎臓の病気のためKを厳密に調べる場合には、控えるべき手法だと言えるでしょう。
絆創膏はいつ剥がせばいいの?
止血が確認できれば、いつでも大丈夫です。
むしろ、長く張っていることで痕がついてしまったり、かゆくなってしまうこともあるので、止血が確認できたらとっとと剥がしてしまってください。
動脈からの採血でも、特殊な絆創膏で圧迫止血して1時間で剥がします。
ちなみに、絆創膏のゴミは、家庭用の燃えるゴミでOKです。
家庭では感染ゴミのくくりなんてありませんから。
採血って、できるのは看護師だけ?
いいえ、違います。
採血できるのは
・医師
・看護師、准看護師
・臨床検査技師
の資格をもつ人が可能です。
医師が採血することもありますが、他にも手術や診察、検査など多忙を極めているので、看護師もしくは臨床検査技師が採血することが多いです。
採血も検査の一種。
ということは、臨床検査技師も人体に針を刺すことが可能なんです。
ですが、ここで、看護師や医師と大きく異なる点が1つあります。
私たち看護師は医師の指示のもと点滴や静脈注射、筋肉注射、皮下注射など、患者さんの体内に何かを注入することができますが、臨床検査技師はこれが出来ません。
つまり、臨床検査技師は身体から抜き取ることはできても、体内に何かを注入することは出来ないんです。
ちなみに、医師は上記の看護師ができることに加えて
・動脈からの採血
・中心静脈の穿刺(針を刺すこと)、カテーテル留置(点滴よりも長くて長持ちするヤツ)
が可能です。
これらは私たち看護師に出来ないこと、医師だけの独占業務です。
まとめ
ここまで書いてきてアレなんですが、私もいまだに採血を失敗しますし、どうしてもダメな時は医師に頼んで動脈から採血してもらうこともあります。
そして、採血を失敗された患者さんに対しては、本当に申し訳ないと思います。
採血されても痛くない魔法の針!とか、麻酔効果もある消毒薬!!とかご紹介できたらいいんですが、無理よね。
だって、針を刺してるんだもの。
けれど
私たちナースの熟練の技術と患者さんからの理解と協力があれば、痛みや不安を軽減することができます。
この記事はそんな思いで書きました。
患者さんも医療従事者もお互いに協力して、速やかに、安全に、出来るだけ痛くなく採血を終えられることを願って。
たいせつなのは、採血が終わった次のフェーズですから。
貴重な時間を使い、最後まで記事を読んでくださりどうもありがとうございます。頂いたサポートは書籍の購入や食材など勉強代として使わせていただきます。もっとnoteを楽しんでいきます!!