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私とタケPとシシャモとモロキュウ

私は20年間夫婦だった元夫と一緒に仕事をしている。元夫、通称タケP。
タケPはほとんど働いたことのない、絵ばっかり描いている人で、20代のころはいくらかバイトしたことがあるらしいけど、就職したことはない。20代の半ばにニューヨークに渡って、8年過ごした。その頃のことは私はあまり知らない。最初はバイトしてたけど、すぐにその時の彼女も渡米してきて、彼女が働いて収入を得てくれたので、自分は絵ばっかり描いて、本読んで、音楽聞いて、あとは遊んでいたようだ。80年代のニューヨークだから、まあ遊びと言うのもかなり際どい感じだったと思う。

現代アートに憧れて渡米したけど、現場を見てかなり想像と違っていたようで、逆にヨーロッパ風のクラシックな画風に移行。テンペラとまでは行かないが、中世風の油絵やドローイング、エッチングを作っていた。

当時、私は日本にいて、地元ローカル紙に毎月連載されているタケPの絵と文章のファンだった。絵はどっちかと言うとちょっとおどろおどろしくて、文章は澁澤龍彦風の「である調紋切り型」。もうシビレちゃってねー。その時私は22歳の地方サブカルアート憧れ系腐女子だったから、なんか、もう「この人すごいわ〜♡」なんて、すぐにファンになっちゃったワケ。

それで、ファンレター出して、返事が来て、というくだりは前に書いたけど、最初会った時は私は遅れて来た80年代コンサバもどきでしょ。相手は片耳ピアスに指輪いったいいくつ付けてんだー、しかも半ズボンにエジプト人みたいなサンダル、タオル地のジャケット、そして髪型は南田洋子のようなピスタチオヘア。見るからに田舎の地元人じゃありません、って感じよ。

で、まあ、夕ご飯に近くの居酒屋にでも行きましょうか、てなって、駅前のパチンコ屋の2階の「あじっこ」へ。もちろん店内に入る時はレディーファーストでしょ、いやー、すごいわー、ニューヨーカーだわー。私レディーだわー。席について、お品書きを見ながら、タケPは私にひと言。

「君の好きなもの、なんでも頼みなよ」

きゃあ、さすが紳士だわ、見た目アレでもやっぱ違うわ、私は嬉しさと緊張でドキドキしっぱなし。

「は、はい。それじゃあ、ですね。えーと、シシャモと、もろキュウと、それから、揚げ出し豆腐」
「ははは、結構シブい注文するんだね」
「あ、...ははは、そ、そうですか?」

タケPは、すいませーん!と店の人を呼んだ。

「えっと、生ビールを2つと、唐揚げ、大根サラダに、それから...うん、このお好み風山芋って言うの、もらおうかな」

はい、かしこまりました、と店の人。

あれ?私の頼んだものは?


あのー...私の、頼んだものはーーー???


生ビールが運ばれ、乾杯をして、料理が運ばれてきたけど、

「はい、実は君の言ったものはちゃんと紙に書いて渡したんだよ」

なんてサプライズはナシで、唐揚げと大根サラダと、鉄板に広がって焼かれた山芋しか来ませんでしたよ。その後、店にいる間、もろキュウもシシャモも、揚げ出し豆腐も、タケPが注文することはありませんでした。

ここでひとつ。

なぜ、その時に気付かない...あなたバカなの?(From 未来の私)

いや、違うんです。いや、そうです、バカかも知れません。でも、そうじゃないんですよ。私が言いたいのはですね、

そんな人でも結婚できる。(ちなみに結婚は私で2回目)

世に言うデートのノウハウとか、なんだかんだとか、もう完全に逸脱してますから、彼の場合。それでも、私は憧れの人だったし、当時付き合っていた、ほぼ結婚するであろうであった人をひどく振ってまで、駆け落ちしてしまいました。まあ、その後、このエピソードを裏切らない展開が目白押しでしたので、ネタとして満足と言えば満足です。そんな、タケPの最近の作品を最後にご覧下さい。

The charming death _2016
" Eumeces japonicus " ニホントカゲ
a series of nature morte(死せる自然)
© Takeshi Nakatani

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