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現実を思い知った日

ワインバーをしていた時、実年齢よりも10歳くらい若く見られることは珍しくなかった。まあ、店の中が暗いって言うのもあったけど、自分でもちょっとそう思っていた向きもある。若く見られることに慣れていたし、普通だった。そんな私が、髪を染めなくなったある日、店に銀行の営業がやってきた。若い男性だ。ひとしきり、世間話をしたあと、彼は言った。

「ところで、Yukiさんって、何歳なんですか?」
「えー(やだなー、どうせまたその年に見えないって言われるよ。うふふ)」
「いやー、年齢不詳だなぁって思って」
「そう?45歳」

私は待った。

「マジですか!そんなに見えないですよ。めっちゃ若いじゃないですか」

という言葉を。多分、そう言われることを予測した顔をしてたと思う。それに対する返事も用意していた。だが彼が言ったのは別の言葉だった。

「え?え?案外若いんですね」

今度は、私が「え、え?」ってなった。何を言われたか一瞬分からなかった。
つまりこうだ。彼は私が45歳よりもうんと年上だと思っていたのだ。多分、10歳くらい。
私の髪はかなり白かった。すべて白いのではないが、トータルで言うと、グレーだ。にも、関わらず、まだ「若く見える」と、白髪になっても思っていた私。本当に恥ずかしい。別に若く見られたくもないわ、なんて言って、染めていないワケ。なのに、若く見られるつもりでいた己を思い知る恥ずかしさたるや。自分の現実を突きつけられたとは、まさにこのこと。頭が白いと、こんなに年寄りと断定されるんだ。頭では分かっていたし、多分、自分もそう。それが身に沁みて分かった。髪というのが印象のかなりの部分を占めるということも分かった。
見た目でこんなに評価が変わるんだ。なんて面白いんだろう。

それ以来、

「何歳なんですか?」

と、聞かれたらしわがれ声で、

「ワシはな、こう見えても15歳なんじゃ、魔法で婆さんにされているんじゃよ。フォ、フォ、フォ」

と、言うことにしている。言う機会、全然ないんだけどね。





※トップ画像はHuffPostのなので、リンクも張っておきますね。

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