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畑を借りる技術

前に畑の話を書いたのですが、私が畑を借りたいと思っているYさんのお宅へ行ってきました。12時半くらいに行くと、とちょうど納屋から手押し車を出そうとしているところ。私が「Yさん、Yさん!

Yさーん!!」

と回り込んで行って、やっと認識してもらえました。久しぶりでしたがわりに顔色もよくて、言葉もハッキリしてます。耳は相変わらず遠いけれど大きい声で話せばわかってくれます。このところ腰を痛めて畑に行ってないYさんに近況を色々聞いて、体の状況など話しつつ、そう言えば、と切り出します。

「畑、草だらけやなぁ」
「もうな、エライで畑はしやん(もう、大変だから畑はやらない)」
「そうなんや、けど、よくなるかも知れんやん。せやからいつでもYさんが畑に戻れるよう草刈っとこか?」

Yさんは苦笑しながら縁台に腰かけて弱々しく首を振ります。

「そんな、もうようならんて(もうよくはならないよ)」

もうエライ目(大変な目)はたくさんした、だからもう畑はしない。と言います。どうしてもやらずにはいられない、という訳でもなさそうです。そりゃ、畑はある程度の力仕事だし、その通りです。

「アンタやらへんかん、畑(あなたやらない?畑)」

って、Yさん言うかな~。私に言うかな~。と期待をします。けれど、言いません。あれれ?この間甥御さんに言ったのに、私の話聞いてない?仕方ないので流れ的に

「アンタやってんかん、畑(あなたが畑やってちょうだいよ)」

そう言いやすいよう、話を持って行くことに。

「けど、あんまり草がエライ(大変だ)し、あのまま放っておくとどんどん太い草になるから、私刈るわ」
「アンタ刈ってくれるんかん(あなた刈ってくれるの?)」
「うん、刈る刈る。あれだけの広さやし」
「せやけどアンタ、ワシこれ(指で丸を作ってお金のこと)よう渡さんに(渡すことができないよ)」
「ううん、いいのいいの、そんなのは」

「そしたらもうそのまま畑やってもらえるかん(そしたらもうそのまま畑やってもらえるかしら)」

って!

言わないんです。

ああ!言わないんですよ~!

めっちゃ言いやすいようにしてるのに!なんで~!

私はしゃがみ込んでうんとYさんよりも下から話してるのですが、そうこうしているうちに雨が降ってきました。パラパラと納屋の前の軒に雨が当たります。

Yさんは近所に住む甥御さんに畑をやってくれと言ったそうなのです。甥御さんは大変だし断ったとか。だったら私借りれるかな?ってその時甥御さんに言ったんですね。Yさん私に貸してくれるかな?って。なら聞いてみたら?甥御さんは私に言いました。あれから日も経っているし、少しは甥御さんからなにか聞いてるかも知れないわけです。もし、それを聞いていてこの態度なら、完全に私に貸したくなさそう(少なくとも今は)。けど、このままのYさんの態度では判別しかねます。いつまで経っても「Yさんは私に畑を貸してくれるのか、くれないのか」が分からない。

「畑、貸してもらえんかな?」

ああ!とうとう待ちきれなくなって核心に触れてしまった私。私の声は聞こえたはずでした。少しを置いて頭を振るYさん。あ、アカン断られた。そう思ったと同時に、

「いや、もう畑はやらん」

え?やらん?やらんって、どういう意味?アンタにはやらん?いや、私は欲しいのじゃなくて借りたいだけで…

「もうな、畑はエライ…」

あ!そっか!私は心の中で慌てて打ち消しました。さっき言ったことナシにして。「貸して」って、私言ってないから。言ってない、言ってない。

なぜなら、ここでYさんに「畑は貸さない」と言わせてはいけないのです。それは決定的な言葉で、一度「貸さない」と言えば、それ以降はなんと言っても借りることがむずかしくなる。私が最初から「貸して」と単刀直入に言わないのもそういう訳があります。貸してと言われれば答えはイエスかノー。でも、イエスでもノーでもない。様子を見たい。ということがあります。だからと言って

あなたはまだ信用できないから今は貸せないけど、信用できると分かったら貸してあげなくもない。けどやっぱり貸さないかも知れない。

なんて、田舎のおばあちゃんが言えるわけないんです。だからそういう時はノーと言うしかない。例えそれがイエス寄りだとしても。だから、相手には十分な余裕を渡す、それが「貸して」と言わないことで、結果、ノーと言わせない技術となります。(冷静に考えて技術でもなんでもないが)

これって、よくある古民家、空家関連でも言えることで、いきなり貸してと言うと話がうまく行かない。要は最初の信頼関係から構築する必要がある。それを見極める時間を相手に与えなくてはなりません。田舎超あるある、です。

そういう意味で、Yさんは、私が言った「貸して」を聞いたけど聞いてないふりをした可能性もあるのです。最終的に私は畑の草を無報酬で刈る権利だけを勝ち取りました。まあまあの広さと労働量。次の作戦はこのまま草を刈り続けることで最終的に

「アンタ、ここでなんか作りない(あなたここで何か作れば?)」

って言われるのを待つわけです。まあ、言われなくてもいいや。借りられること前提で草刈りをするのもなぁ、と、いったん気持ちはリセット。雨の中、借りられなかった畑を見て、草刈りの算段をする私なのでした。タイトルがアレなのに全然借りれてなくてメンゴ!


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