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農民社長のための経営入門 1

正月から田んぼをトラクターで耕した。田んぼは面白い。8年、米を作って飽きてない。毎年収穫までドキドキする。台風でコケないか、とか、すごい数のカメムシがやってきて食われないか、とか考える。でもまあだいたいうまく取れるものだ。収穫量が少ないことはあるけど、それでも年々収穫量は増えてきた。上手に作れるようになってきている。

田んぼの仕事と言うのは田植えと稲刈りだけではない。むしろそれ以外のほうが多い。田んぼの作業とはすなわち「冬場の土木作業」と「夏場の除草、畔の草刈り」がメイン。

夏場の畔の草刈り
春先の畔つけ
冬場のトラクター作業

私は田んぼの仕事が好きだ。真冬のトラクター作業でロータリーにこびり付いた土を剝がすのは手が凍るような冷たさだし、影もない炎天下で草を刈ると問答無用で汗が噴き出してくる。それでも、そういうことのほうがパソコンを見ながら延々と受注処理をしているよりもうんと好きだ。

新卒で就職した名古屋の東急ハンズを5カ月でやめ、伊勢の実家に帰ってきてすぐ稲刈りを手伝った。足踏み脱穀機をワシワシと踏んで実った稲を突っ込みながら私は言い放った

「これが!これが真の仕事っちゅうもんや!」

ビルの中の仕事で相当病んでいたわけだけど、とにかく土に近いところで働きたい性分なのは確かだ。だが、悲しいかな、稲作を業にしようとすると大変なことになる。これを書くと終わらないから今日は割愛するけど、お金を得るには別の仕事をしなくてはならない。

私の仕事は菓子(クッキー)の製造販売だ。材料を仕入れて作り、製品にして店舗や卸、ウェブで販売している。この仕事をして10年以上で、最初は私自身が作っていたし、なんでも自分でやっていた。そこから人が増えての現在だ。

私はいまやっている仕事をなるべく自分ではなくて人にやってもらいたい。私じゃなくてもいいような仕事は人に頼んで、私じゃなきゃアカン仕事だけをやる。それが世にいう社長というものなんだけど、私はどうもあれこれとやってしまう。息子に言わせると「やりたがり」なんである。

これがよくない。分かってはいる。だが実際のところ私がやらないと仕事がはかどらない。なぜって働いている人が全員パートさんで、時間がくればみんなさっさと帰ってしまうからだ。そうすると残った仕事を片付けるのは私しかいない。みんなが帰ってから受注処理の続きをやったり梱包したり、熨斗を作ったり、商品の用意をしたりする。翌日みんなが出勤してきたとき仕事しやすいように整えたりする。12月はこれを終電までやったりしていた。何日も。

しかし、これは本当によくない。そもそも私の給料が壊滅的に少ない。私自身の働きをちゃんとタイムカードで入力したら完全にパートさんのほうが時給で高い。それに、私の働き分は製品の値段に乗ってないことになる。これは本来おかしい。社長の「ほぼ無償のような労働奉仕」が従業員にいい影響を与えるわけがない。

私は経営者という意識があまりないままここまで来てしまった。自営業の延長線で気づいたらスタッフが10人を超えている。そう、今までみたいなわけにはいかないレベルに来てしまった。ちょっと私の手に負えないから、人を半分に減らして、売り上げも減らしましょうよ、って…

まあならないよね。

だって、自分が考えて作り出したものが売れて人の手に渡っていくことって楽しいし嬉しいし、やっていて達成感がある。なにより、お客さんが期待して喜んでくれるのが嬉しい。当然スタッフみんなも嬉しい。だったらこの商売をもうちょいちゃんと見直して、しっかり自分にも給料を出して、無償の時間外労働をしなくてもいいように、仕組みを作って、スタッフみんなが自分のポテンシャルを最大限生かして働ける職場にしていかねばならん、そう、私が田んぼを続けるためにも。

そう思って導入したのが、まずフリースケジュールだ。パプアニューギニア海産の武藤さんがやっているのを真似して始めた。これは何がいいかって、まず

シフトを組まなくてもいい

ということ。この世でシフトを組むという作業がどれだけ大変か、どれだけ時間を取られれるか。心身ともに疲弊するか。組む時点でも大変だし、運用するのも大変だ。最小限の人で最大限働いてもらおう、と言う仕組みがシフトなわけだけど、果たして本当にそうだろうか。

人は機械ではないから、体調も崩すし、不測の事態も起こる。シフトを組んで完全にそのように出勤できるとは限らない。けれど、シフトを組むとそのシフトに期待をするようになる。「シフトの通りに人が来るもの」と思い込んでしまう。そうなると、何らかの事由で人が来れなくなったとき落胆してしまう。これは精神的にもよくない。

だったら最初からシフトなんてないほうが精神衛生上いい。よくも悪くも期待しない方向に舵をきるわけだ。それだと「出勤してくれて嬉しい」となる。「今日来てくれた!やった!」となる。

でも、それだと仕事が回らないんじゃないのか?という心配がでてきる。例えば

すでに注文が来ていて、今日作ったものを明日発送しないと間に合わない。

と言う場合。これだとフリースケジュールは無理。どうしても今日3人は必ず出勤して作ってください、となる。今日何人来ても大丈夫なようにするには、ある程度商品のストック(=在庫)が必要になってくる。しかし、クッキーは食品だ。うちはあんまり在庫を持たずに売ってきた。果たしてそんなに在庫を作れるだろうか。


※これは前回の連載「6人の工房で実現させたフリースケジュール」の続きです。私(Yuki)が社長をやりながら田んぼが作れるのかという話を書いていきます。それが終わったら、今度は社長が長期の旅をするためにどうやって仕組みを作っていけばいいかを書きたいと思ってます。社長だけど田んぼも作るし旅も行くぞ!


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