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春の月【ショートショート】

夜更けに一人、花見に来た。川べりのソメイヨシノ。堤防道路沿いにはなぜ桜を植えるんだろう。車一台ようやく通れる道沿いに桜並木がトンネルを作っている。

桜の上には朧月。見上げて思う。あの人も同じ月を眺めているんだろうか。月並みだけど、あの人とこの桜を眺めたかった。

堤防からぼんやりと川を眺める。今日の月は大きい。ゆらゆらと川面に浮かんでいる。

あの人と見上げた空はいつも美しかった。夕映えの空がどんどん藍色に溶けていったり、夕焼けが見たこともないような薔薇色だったり。

なぜだろう。あの人といる時間が幸せだからそう見えるのかな。空に祝福されているのだったらいい。

その時、水面を走っていく何かが見えた。いや、ぴょんぴょんと跳ねている。目を凝らしてみると水面に映っているようだ。

見上げると、月からたくさんのうさぎがやってくるところだった。一羽また一羽と着地しては、仲間が来るのを眺めて待っている。

月明かりの下、たくさんのうさぎが集って、まるで宴のようだった。

僕も月を通ってあの人のところへ行けたらいいのに。

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