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ハルピン【日記12/13】

近所の中華料理屋へ歩いていく。
呑むためだ。
今日はへべれけに酔っ払いたい気分だった。
10台くらいしか止まらない駐車場には、珍しく車が何台も止まっていた。
さすが日曜日だ、今日は混んでいるんだな、と思って店内に入るが、他に客はいない。
窓際奥の席に座ろうかと思ったが、感染対策で席と席の間に立てられた衝立のせいでテレビが見えない。それにひやっと底冷えがした。
なのでテレビの前の席に陣取った。
最初は迷わず千円の酒とつまみ二種のセット。
私は生中、彼はりんごサワーを選び、つまみはエビチリ、フライドポテト、ゲソ揚げ、カニ玉を注文した。それと無料と書いてあったキムチも頼んだ。
まず飲み物がきて、その後にエビチリ、ポテト、ゲソ揚げがきた。キムチを忘れられていそうだったので、もう一度頼んだ。
冷たいものを飲んでいたら、だんだん寒くなってきた。歩いてきたのもあって、席に座ったときはそれほどでもなかったのだが。前に来店したときに、エアコンをつけてほしいとお店の人に言ったら、席のすぐ横にあったリモコンをとり、なぜつけないんだろうと怪訝な顔をされたのを思い出したので、自分でとってつける。しかしピッと音はすれどもどうにもつかない。
「寒いですよね」
カニ玉を持ってきた店主が片言で声をかけながら、エアコンをつけてくれた。どうやら距離が遠すぎたらしい。ごおおーっと温かい空気が流れてくる。他に客がないので申し訳なく思い、早く食べて帰ろうと思った。
ところで、エビチリに衣がついていなかったことを、ここで特記したい。なんと言うか、茹でたエビにチリソースをかけたようなものが出てきたのだ。そのほか三品はまあごく普通だったのだが。
ちなみにこの店、ツマミ2品のメニューの中の焼き鳥を頼むと、隣のスーパーで買ってきたような焼鳥が出てくる。高くつくのではないかと、かえって気を遣ってしまったことがある。
つまみも食べ終わり、酒も飲み終わり、2杯目とシメを注文する。
私は中国酒とジャージャー麺、彼は何かのサワーとにんにくチャーハンと餃子を頼んだ。
中国酒は、ゆうに200ccは入って(もっとあるかもしれない)500円である。中国酒としか書いていないので、なんのお酒だか分からない。いや、もしかすると前に来たときに聞いたかもしれない。老酒と言っていたような気がするようなしないような。透明で刺激臭があり、飲むとカァッと喉が熱くなるお酒である。
ところで、この店についてもう一つ特記したいことがある。この店は、汁のある麺類が不味い。スープがシャビシャビなのだ。だから頼まないことにしている。
ちびりちびりと飲み食べしていたのだが、ツマミがなくなった。中国酒はあと半分も残っているのに。
その頃には大概酔っ払っていたので、夢を語りながら酒を呑んだ。海の見えるところにカフェを開きたいこと。親が岐阜で健在なので親元から離れたくないこと。岐阜は海がないから海への憧れがあること。寄った頭ながらも、そんなことを話したことを覚えている。
ようやく飲み干して店を出るときには八時を過ぎていたと思う。2時間ほど滞在してしまったことになる。
会計の時、店主は「中国酒、飲んだ?」と驚いていた。あ、そういえば何酒か聞くのを忘れた。
「台湾?」と聞くと「うーん違う」と言う。「中国?」と聞くとうなづいた。「どの辺?」と聞くと「ハルピン」と言う。ハルピン…聞いたことあるが…どこだ?とりあえず「遠いところから、ようこそ」と言っておいた。
うちに帰ってハルピンの場所を調べると、どうやらロシア寄りの中国で、朝鮮半島からまっすぐ北へ来た辺りらしい。シベリア鉄道着工の際、ロシア人の職人が沢山入ってきたこともあり、ロシア風の町並み、聖ソフィア大聖堂などがあるらしい。
日本に出店しているハルピン料理店もあるらしいが、そこはどうも中華料理とロシア料理の混在したものを出しているらしい。
そうか!と私は思った。
実はこの店の料理には、以前から疑問を感じていたのだ。不味いというわけではない。確かに不味いものもあるが美味しいものも勿論ある。冷やし中華に並々とスープが入っていたのは、あれは日本の食べ物だから仕方ないと思っていた。だが、そもそも、普段この店主は中華料理を食べて生きてきたわけではないのだろう。
今度店を訪れたら、ハルピン料理を作ってほしいと頼んでみるつもりだ。

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