この上なく惨めな夜④

11時15分。早く着きすぎた。期待していると思われたくない。
「お待たせ。ごめんね。遅刻したかな」
これまた早く着きすぎた加本さんが登場。
「いえ、今来たところなんで」
本当だ。
「じゃあ、入ろっか…」
と、そこへ。
「待ったーーー!」
池田が。
「え?なんであんたがここに…」
「ずるいなあ、なんで誘ってくれないんですか?同じサークル仲間じゃないですか」
「なんでここ、わかったの?」
「だってあのとき僕いたじゃないですか」
「だって酔いつぶれてるかと思って…」
「まあまあ」
加本さんが言った。
「三人でランチしよう」

「で」
席につくなり池田が言った。
「お二人は付き合ってるわけじゃないんですよね」
「え?いや、まあ、そう、だけどね」
加本さんは真面目に答える。あたしは黙って聞いていた。
「よかったー。僕、大学んときから、榎田さんのこと、ずっと好きなんですよねー。だからお二人が付き合ってたらショックだなあって思ってー」
だからって、あたしは池田と付き合う気はないけどね。
「まあ、とりあえず何か頼もうか」
加本さんは大人だ。池田に振り回されていないようだ。
加本さんはパエリア、池田は牛肉トマト煮込み、あたしはマッシュルームのアヒージョとパンを頼んだ。
人は食べ始めると静かになるものらしい。みんなもくもくと食べ始めた頃、入り口のドアが激しく音を立てて開いた。
三人とも一斉にドアの方を見た。するとそこには、ものすごい形相の絵梨花が立っていた。
「え、絵梨花」
加本さんは何かを察したらしく、それだけしか言えずにいた。絵梨花は私達のテーブルにツカツカと詰め寄る。
パチン!
一瞬、なんの音か分からなかった。目の前で見ていたのに。それは加本さんが絵梨花にビンタされた音だった。
「やっぱり沙織とできてたのね!」
加本さんは何も言わない。言い訳をしたくないタイプなのだ。
「絵梨花、別にデートってわけじゃ…」
「あなたは黙っててよ、私は加本さんに聞いてるの!」
黙った。結果的に三人にはなったが、元々デートするつもりだったわけだし。
そうしたら、意外なところから口を挟まれた。
「あの、事情はよくわかりませんが、ここ、美味しいし、よかったら座って食べませんか?」
池田だ。彼は周りが気まずい雰囲気なのに、驚いたことに、意にも介さず食べ続けていた。
池田は隣の席をポンポンとたたいている。座れということなのだろう。
なんと、絵梨花は、池田の妙な空気感に気圧されてしまったのか座った。
それを見てほっとしたように、店員がやってきた。
「私、このスペイン風オムレツとコーヒーください」
彼女は料理の注文までした。
「これ、食べてみる?牛肉のトマト煮込みなんだけど、美味しいよ」
また、池田が空気を読まず絵梨花に勧める。絵梨花の返事を聞かず、彼女の取り皿によそう。
パクっ。食べた。
「おいしい」
「おいしいもの食べると気分よくなるでしょ。もうちょっとしたら、えーと、絵梨花さんだっけ?のおいしいオムレツ出てくるから」
池田はなんだか上手に絵梨花の毒を吸いとっていっている。
「なんか飲む?」
「ビール」
「お姉サーン、ビール一丁、あ、やっぱり2丁にしてー」
私や加本さんが、昼間っから?と思う前に、池田は注文してしまった。ちゃっかり自分の分もだ。
色々聞きたいことはあったが、絵梨花はおいしいものを食べ始めてすっかり落ち着いているので、聞くのはやめた。
おいしそうにたべている。おいしそうに呑んでいる。
「加本さん、私達も呑みませんか?」
というわけで、私はカシスオレンジ、にしようかと思ったけど、みんなと対等に酔いたかったのでビール、加本さんは迷わずビールを選んだ。


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半端なところですが、ここから先を続けると、少し長くなりそうなので、今日のところはここまでにしました☺

あと一回で終わるかなあ…当初は今回で終わるとおもってたんですが…。

思ったより長くなってスミマセンm(_ _)m


それから、いつも読んでくださってありがとうございます(^o^)
励みになります(✪▽✪)


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