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外国人が街にやって来て1泊した、それだけで大騒ぎして警察沙汰になる国、中国

人口、領土、経済、テクノロジー、もはや誰にも止められない巨大な力を持ち、強烈な存在感を放つモンスター国家。

その激変ぶり、急成長ぶりは、想像を超える。
ここ20~30年たいした進化もなく停滞(衰退)してきた日本では、中国に対しても一昔前のイメージで「中国人とはこういうものだ」というステレオタイプを頑なに持ち続ける人が多い。

しかし、国も人間も変わっていくものだ。
現代において中国という国はその最たる例で、少なくとも僕は「中国とはこういう国だ」と一蹴する気にはなれない、今後もその変化を注視し続けたい。

中国旅行の楽しみは、やっぱり中華料理。

メニューが書かれている店なら、漢字を見てイメージして、指さしで注文できる。

中国旅行で困るのは、絶望的なまでに英語が通じないこと。
文字のメニューがない店では、厨房に連れて行ってもらって食材を見せられ、「どれ食べたい?」、「これとこれとこれ」とジェスチャーでやり取りする。

すると、あっという間にそれらの食材を混ぜて炒めたものが出てくる。

なんとも大ざっぱに無造作に出されるのだが、食べてみると、これが感動的なまでにうまい、さすがだ。

なんかおもろい中国人サイクリストがついてきた。

意外に中国ではサイクリングがさかんで、荷物を積んで国内を長期ツーリングしている人なんかもめずらしくない。
誰もが僕を中国人だと思って中国語で話しかけてくるのだが、「Do you speak English?」と返すと「あっ・・・」と驚いて、とたんにしゃべるのをやめて去って行ってしまう人が多い。
でもこの時ついてきた彼は、自転車をこよなく愛する人で、言葉がわからなくても自転車好き同士なら通じあえるさとばかりにフレンドリーに接してくれた。

昼食もごちそうしてくれた。

中国旅行で困るのは、ネット規制。
我々になじみのあるSNSなどは軒並みブロックされて使えない。
VPNを使えば接続できるが、おそろしくスローになるので画像や動画の送受信などは根気がいる。

共産主義は宗教とは相容れず、毛沢東による文化大革命で寺院や歴史的建造物はことごとく破壊され、街は新しい建物ばかりが並んでいる。

現在の中国には、信仰も伝統もない。
社会主義国家と見せかけて、実は金と欲望にまみれたバリバリの資本主義。
逆に日本は、資本主義と見せかけて実は隠れ社会主義だったりする。

楽しそうでなによりです。

現代アート?

ではなさそうだ。
歴史的大地震でも起きない限り、これは倒れちゃいかん柱でしょう。

中国旅行で最も困るのは、やはり「外国人宿泊拒否」。
ウイグル自治区の時もこれに辟易したが、人口希薄で野宿しやすいウイグルと違って、自然がなく人だらけのこの辺りでは宿に泊まらざるをえない。

ある程度の規模の街では、宿は豊富にある。
拒否される覚悟で、安そうな宿から一軒一軒あたってみるが、やはりことごく拒否される。
外国人宿泊不可のルールを知らない従業員も多いようで、最初はうなずいていたのに、チェックインの手続きの途中でゴチャゴチャもめだして、上司に電話して、数十分も待たされた挙句、「没有」(No)と言われたりする。

宿のレセプションで接客するのはたいてい若い女性で、僕が現れると、
「なんか言葉が通じない客が来ちゃったんだけど・・・」
みたいな感じで、一時騒然となる。
外国人の来客など、有史以来初めてのことのようだ。

僕は、あらかじめスマホに読み込ませておいた中国語フレーズを見せたり、旅行会話集のコピーを見せたり、筆談してみたり、小学生でもわかるような基本英単語を言ってみたりして、あの手この手で必死に意志の疎通を試みる。
それに対して、彼女たちはまともに答えようともせず、僕から目をそらして奥に引っ込み、従業員同士でゲラゲラ笑ってしばらく僕を放置する。
中国語を話せない人間の存在がそんなに面白おかしいですか。

さんざん苦戦させられ待たされて、結果「没有」。

どうしようもない時は、外国人も宿泊可能な高級ホテルに泊まるハメになる。
高級ホテルでも英語はまったく通じず、英語で話しかけると「アァ!?」と言われ、手続きにもそれなりに時間がかがり、価格に見合ったサービスもなく、ただ建物が立派なだけで、お得感は皆無。

そんなある日のこと。

小さな田舎街で、安いボロ宿に投宿。
この時も、たくさんの人だかりに囲まれて、僕に中国語で話しかけては、「ほら、言葉通じないでしょ」と面白がり、スマホで翻訳した画面を僕に見せつけて、未知なる宇宙人との遭遇を皆で楽しんでいた。
ともあれ、受け入れてくれる安宿があってホッと一安心。

しかし、かすかに嫌な予感はしていたのだが、まさか夜10時に公安が部屋までやって来て叩き起こされて、署まで連行されるとは思ってなかった。

たいていこういう小さな街には、外国人宿泊可の宿はない。
この安宿は、外国人宿泊不可のルールを知らずに僕を受け入れてしまったようで、それが発覚してしまったのか。

パトカーに乗せられて署まで連行されたものの、警察も誰一人として英語を話せないので、何のやりとりもできやしない。
しばらく待たされて、英語を話せる警察官と電話がつながり、どこの何者か知らぬがその者に電話で質問攻撃された。

「中国に何しに来た? どこの国境から入ってきた? 今日で滞在何日目だ? 」

といった質問ならまだわかるが、

「日本では何の仕事をしている? 英語はどこで何年勉強した? 中学高校で6年? 英語を6年も勉強して英語を話せるのになぜ仕事もせず旅行している? 家族はどこにいる? 妻子は? 独身? その年齢でなぜ結婚していない?」

なんじゃこの質問は?

夜11時、怒涛の質問攻撃が終わり、警官3人がかりで車で僕を宿まで送った。
ようやく解放かと思いきや、部屋まで来て今度は3人がかりで家宅捜査が始まった。
バッグをひとつずつ開けて中身をチェック。
ラップトップ、タブレット、スマホ、カメラの写真をチェック。
引き出しの中、ベッドの下までチェック。

宿のおばちゃんも訝しげな目でドアの隙間から部屋をのぞきこんでいる。
おばちゃん、もしかしてあなたがタレこんだのか?

田舎街に外国人が1泊しただけで、この騒ぎ。

僕は、拘束されて自由を奪われると人一倍イライラしてしまう性格なのだが、この時はなんかおもろくて、落ち着いて冷静に状況を見つめていた。

国によっては、街を歩いていて「外国人だから」というだけで職質されることもめずらしくない。
所持品チェックをされることもある。
ふつうそういう時は、ドラッグや凶器などを所持していないかをチェックされるのだが、ここでかれらが探していた物は、ダライ・ラマの写真とか、天安門の写真とか、その手のものかな。

ラップトップとタブレットには、インドで撮ったダライ・ラマのポスターの写真が入っているのだが、数万枚もある写真をすべてチェックされたわけではないので、大丈夫だった。
もしそれを見られていたら、もっと面倒なことになっていたのかな。

一応フォローしておくと、警官も、電話の向こうの英語話者も、決して高圧的ではなく礼儀正しかった。
「業務上やむをえないことなので気を悪くしないでほしい」という態度で接してくれたので、僕としてもあえて「ムキーッ」となる気も起きず、おとなしく従った。

社会主義。
格差のない平等社会を理想とし、国内に存在するあらゆるものは国有のものとして国家が管理しようとするため、必然的に独裁化する。
国家の統率を維持するためにも、外国人に自由に旅行させることは好ましくないことなのである。

マルクスが掲げた平等社会の理想(共産主義)は、今や誰も覚えてやしない。
理念は廃れて強力な独裁体制だけが残り、革命もクーデターも起こり得ないほどガチガチに仕上げられた。

僕は生まれてこの方、アメリカ率いる民主主義国家の繁栄と勝利を見てきた。
日本はそのアメリカの膝元でぬくぬくと平和に生きてきた。

しかし現代、特にこのコロナ禍では独裁が効果てきめんだ。
中国は、有無を言わさぬ強制力と最先端のITを駆使して、コロナの封じ込めに成功している。
一方、自由と人権が大好きな欧米人たちは、マスクをしない自由、外に遊びに出かける自由、などを貫いた結果、ご覧の通りの壊滅状態となった。

中国の友人にメールで様子を聞いてみたら、こんな返信がきた。

「政府は迅速に合理的に状況をコントロールしている。欧米のメディアは中国政府が自由と人権を侵害しているといつも批判するが(彼はVPNを使って欧米側のニュースも見ている)、政府がやっていることは我々の命と健康を守ることだ。十数億のほとんどの中国人はそれを理解して従っている。自由や人権を追い求めることと、生き抜くこと、どちらが大事なのかも我々は知っている。」

独裁が勝利し、民主主義が敗北する日もそう遠くないかもしれない。

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