日記82 離れるふたり 長明とラ・ロシュフコー

 いま並行して読んでいるのは、鴨長明『方丈記』と、『ラ・ロシュフコー箴言集』である。鎌倉時代の歌人・琵琶奏者と17世紀フランスのモラリスト、場所も時代も隔たるが、ある程度共通している面はあると感じる。とはいえそれはほぼ1点のみでのことで、それは人間から距離を置き、世間よのなかのことを見つめていたというところなのだが。
 人付きあいからはなれ、日野の山中の方丈の庵で隠遁した長明と、社交・交際について優れた箴言を残したラ・ロシュフコー。ラ・ロシュフコーの性格は知らないからいかんともし難いが、彼らの対蹠的な立場とは裏腹に、それぞれの冷めたような、独立して彼らのものの見方を述べるあり方は、まったく同じようなトーンで僕には届いた。人間への諦めと、社会への省察。それを受けて、彼らは各々の身の処し方を明らめた。長明は隠遁し、自分だけの世界の庵に生きた。ラ・ロシュフコーは人びとの、自己愛や私欲に満ちているのを満足させる社交の仕方を表明した。ゆく方向はぜんぜんちがうけれども、そこに至るまでのあり方や心がまえは、そう遠く隔たらないと感じたのである。

(2023.11.16)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?