アサイシンペイ

小説を書いています。 書き溜めたものを発表したいと思いnoteを始めました。

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  • アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ

    自作の小説です。

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【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ エピローグ

 どれくらいの時間が経ったのだろう。再び目を覚ました時、おれは悪夢から生還していた。全てが嘘だったかのような、遠い昔の出来事だったような、そんな錯覚をした。  無機質な部屋だった。患者に何の影響も与えないよう、綿密な設計がされているのだろう。部屋に置かれているすべての物が、淡いクリーム色をしていた。  病室には、爽やかな風が吹いていた。微かに冷たいその風を感じた瞬間、おれは自分の感覚が戻っていることに気が付いた。感覚だけではない、執拗に痛めつけられた身体も、全て元通りに治って

    • 【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 21

       それから先のことは、よく覚えていない。血で真っ赤に染まったソファを眺めながら、おれはうつ伏せになって倒れた。視界がぼんやりとして段々と狭くなっていった。  しばらくすると、瀬戸熊がおれを担いで、薄暗い階段をとんでもないスピードで駆け上がっていた。ずっと大声でおれに話しかけていたが、最後まで、何と言っているのか分からなかった。  ギリギリで繋ぎ止めていた意識がなくなり、目の前が真っ暗な闇に包まれた。  目を覚ますと、そこは集中治療室だった。医師や看護師が周りに集まって、こち

      • 【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 20

         おれはいつでも部屋を出られるよう、扉を半開きの状態にして、中へと入った。 「すいませんね。お二人とも、こんなところに来ていただたいて」  黒木にはこれといった特徴がなかった。身長も、体型も、顔も、声も、服装も、何一つ引っかかりがなかった。どこにでもいるごく普通の男。個性をあえて排除しているかのようだった。 「わたしのことを知っていますか?」 「……さあ。殺人犯には興味がありません」 「そういうことではないのです。君の伯父さんから、何か聞いていませんか?」 「……特には」  

        • 【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 19

          「……もしもし」 「はじめまして。黒木です。お話しできて光栄です」 「……何のようですか?」 「いただけませんね、その口調は。目上の人間と話をするときは、敬意を持たなければ」 「人殺しに向かって、敬意もクソもないでしょう」 「おやおや。随分な言い草だな。そんな態度を取っていいんですか?大事なご友人が、泣いてしまいますよ」  背筋に冷たい何かが走った。隣で聞き耳を立てている瀬戸熊の表情も歪んだ。 「……どういうことですか?」 「まずは、自分の目で確かめると良いでしょう。すぐに典

        【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ エピローグ

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        • アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ
          24本

        記事

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 18

           翌日の朝。おれたちは第二総合研究所に向かった。前回よりも緊張はしていなかった。左手に感じる痛みで眠れなかったのと、暴力にさらされた怒りで、それどころではなかったという方が、適切かもしれない。ノックをすると、聞きなれた声が部屋の中から聞こえた。 「どうぞ」  部屋の中に取り巻きはおらず、玲香一人だった。テーブルの上には、空になった皿が置かれていた。 「食事中だった?」 「うん、今食べ終わったところ。ちゃんと、食べないとね」  おれのしょうもない言いつけを守ってくれたことが少し

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 18

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 17

          「さすがにまずいんじゃないかな」 「どうして?」 「仮にも倶利伽羅の准教授だろ?無断で研究室に押し入るってのは、どうにも」 「大丈夫さ。第三にいるようなやつに、文句など言えないさ」  瀬戸熊は明らかに楽しんでいた。そしてそれはおれも同じだった。ダメだとは分かっていても、権力を行使して法を犯すのは、刺激的な経験だった。  おれたちはあの後すぐに、黒木へアポイントを取ろうとした。しかし黒木は三月の下旬から、姿を消していた。怪しいなんてもんじゃない。間違いなく、黒木は松井の失踪に関

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 17

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 16

           アーク国際学生寮区に来るのは初めてだった。海外の住宅街のように、寮地に入るにはガードマンが常駐しているゲートを通過しなければならなかった。高い家賃に見合うだけのセキュリティ体制ではあったが、エクレシアの協力があれば侵入することは容易だった。なにせ、いくらでも正規のパスを発行できるのだから。瀬戸熊の言う通り、倶利伽羅においてエクレシアは、法そのものだった。  国際学生寮の名にふさわしく、寮地には世界各国の伝統的な住居が建ち並んでいた。街並みや景観といった観点から見れば、決して

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 16

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 15

          「和馬なら、分かってくれると思っていたよ」 「おだてる必要はない。瀬戸熊は、おれなら簡単に説得できると思っていたんだろ?」 「言い方が悪いな。和馬はぼくたちと同じ、選ばれた側の人間だと信じていただけさ」 「選ばれた側ね……。だから他人の生活を覗き見てもいいし、大麻を吸っても捕まらないと」 「なあ和馬。それ以上突っかかるのはやめてくれ。やると決めたんだろ?」 「……分かったよ」 「今は幽玄の試験をクリアすることだけを考えよう。倫理と道徳について議論を交わすのは、それからでもいい

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 15

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 14

           学生支援センターとはその名の通り、学生向けに様々な支援を行うための施設のはずだが、倶利伽羅の場合は趣が異なった。支援というよりは『管理』という言葉の方が適切であった。  学生生活や就職活動によって、メンタルのバランスが崩れる大学生は案外多いらしい。だがこと倶利伽羅において、そのような学生は、自然淘汰の結果とみなされてしまうようだ。倶利伽羅の支援センターは、三万人もの学生が通う大学の施設とは思えないほど、小さな建物だった。スタッフも数人しか常駐しておらず、どうみても全学生を支

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 14

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 13

           翌朝。おれは伯父さんに短いメールを打った。倶利伽羅での研究者という立場の他に、どんな仕事をしているのかと。だが予想していたとおり、返信はなかった。  イラつきを覚えながら、おれはひとまず瀬戸熊と、白川宿舎近くのレイディアント図書館に向かった。百合沢に会って、松井誠司についての情報を聞き出すことにしたのだ。しかしおれは、なぜエクレシアが情報を持っているのか、そもそもの理由を知らなかった。 「エクレシアは、倶利伽羅において重要な役割を担っているんだ」 「役割?」 「金持ちの社交

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 13

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 12

           部屋に戻る間、おれは先ほど起きたことを整理しようとしたが、感情があちこちに散らばって、上手くまとまらなかった。ただ一つ分かったことは、みなみの男の趣味は変わっているということだ。  恋愛は絶対評価。周りの評価は必ずしもあてにならない。おれの顔を好きだといってくれる女性も、少なからず地球には存在しているということだ。そういうおれも、女性の顔の好みには確固たる一貫性がある。歴代の彼女(二人)は、一重の涼しげな目と白い肌という特徴があった。玲香のような完成された美人にも惹かれるが

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 12

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 11

           目を覚ましたのは、朝の四時だった。幸か不幸か、早めに寝たおかげで、狂い切った生活リズムがリセットされたようだ。おれは寝ている三人を起こさないように、ひっそりと共用スペースに向かった。ミネラルウォーターをコップに注いでいると、入口の扉が開いた。現れたのは、小野瀬みなみだった。  みなみはこちらにまだ気づいていなかった。おぼつかない足取りで、キッチンに近づいてきた。ぼさぼさの髪、派手なメイク。いつもの清楚で大人しい彼女からは、想像もできない姿だった。  みなみは冷蔵庫を開けよう

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 11

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 10

          「和馬、悪かった。ぼくがはやく話をしておけば……」 「……何か事情があるみたいだな」  おれたちは典獄寮の部屋に戻っていた。瀬戸熊が珍しく神妙な顔で、話をはじめた。 「事件が起こったのは、去年の冬のことだ。玲香はプログラマーとして、新しいSNSサービスのプロジェクトに関わっていた。その日はメディアに情報が解禁される日で、玲香は倶利伽羅を離れて東京のホテルに宿泊したんだ」 「高校生のうちに、そんな大きな仕事に携わっていたのか」 「よく考えればおかしな話だよ。いくら優秀とはいえ、

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 10

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 9

           倶利伽羅に来て、二か月近くが過ぎた。おれはだんだんと自分の立場が分かってきた。そしてこのままではどうなるのかも、感づいていた。何かを変えなければいけない。それだけは確かだった。  授業は面白い。それも、予想していたよりもはるかに。もちろんつまらないものもあるが、そんなものは切り捨てればいいだけだった。倶利伽羅においては、選択肢は無限にあった。困ったのは、面白くてもおれがそれを吸収できるとは限らないことだ。倶利伽羅の授業についていくには、おれのスペックは二世代前のパソコンのよ

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 9

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 8

           大学生としての新生活が始まった。しかし倶利伽羅でのそれは、おれが思い描いたものとは全く違ったスタイルで進んでいった。  玲香の授業を受けることはできるが、彼女と会うことはできない。瀬戸熊はそういった。その理由はすぐに判明した。倶利伽羅では、教室で受ける授業が基本的に存在しなかった。  新入生は全員、学期前にパソコン、タブレット、スマートフォンが無料で支給される。専用のフォーマットにログインした後は、各自がオンラインで授業を進めていくことになる。すり鉢状に広がる講堂に、大勢の

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 8

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 7

          「お前、ここに住んでいるのか」 「……ああ」 「蜂須賀先輩と仲が良さそうだな」 「……高等部の時から、世話になってる」 「なるほど、ね。遅れて来たわけは?新入生歓迎のパーティーには参加していなかったのか?」 「ぼくはもう学生ではないからな」 「はあ?いったいどういうことだ?」 「ぼくは、高等部に入ってから――」 「つうかそんなことはどうでもいい。おれの連絡に返信を寄越さねえのは、いったいどういう了見だ!」  先週見たヤクザ映画の影響がもろに出てしまった。瀬戸熊は大きなため息を

          【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ 7