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【小説】アネシカルリサーチ シークレットクラブと倶利伽羅のカルマ エピローグ

 どれくらいの時間が経ったのだろう。再び目を覚ました時、おれは悪夢から生還していた。全てが嘘だったかのような、遠い昔の出来事だったような、そんな錯覚をした。
 無機質な部屋だった。患者に何の影響も与えないよう、綿密な設計がされているのだろう。部屋に置かれているすべての物が、淡いクリーム色をしていた。
 病室には、爽やかな風が吹いていた。微かに冷たいその風を感じた瞬間、おれは自分の感覚が戻っていることに気が付いた。感覚だけではない、執拗に痛めつけられた身体も、全て元通りに治っていた。
 戸惑いながら、おれはテーブルに置いてあったメガネをいつものように掛けようとして――異変に気が付いた。掛ける前から、目の前にはクリアな世界が広がっていた。窓の外を見ると、はるか遠方の倶利伽羅の建物も、すぐそこにあるかのように見ることができた。
 身体は治ったが、それよりはるかに異常なことが起こっていた。ゆっくりと手足を動かしてみたが、どこか違和感があった。腕の太さも、胸の厚みも、太ももの張りも、以前とは見違えるほど鍛えあげられていた。
 ベッドから降りてみると、自分の視線がいつもより上がっていることに気が付いた。成長期を過ぎたにも関わらず、おれの身長は遥かに伸びていた。頭脳はこれまで感じたことがないほど、クリアで冴えていた。自分の身体が、自分のものではないように感じた。おれはだんだんと、自分に起きた変化を理解し始めた。

 ふとおれは、全てを壊したくなるような衝動に駆られた。そして、今のおれにはそれが出来るだけの力があることも、理解した。
 おれは、一度死んで蘇ったのだ。不死鳥の如く、新しい肉体と共に。
 窓の外に広がる倶利伽羅の街を見下ろしながら、おれは不敵な笑みを浮かべた。

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