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15.アクアとPTSD③(感情コントロール編)

推しの子第50話では、アクアが客席に「刀鬼」に感情を届ける演技をするため、感情演技について考え始めます。
その際、有馬かなから「今回の場合、『刀鬼』は生きてる『鞘姫』を見て喜びに包まれるわけだから、まぁ嬉しかった事を思い出しながら演技すれば良いわけよ。アンタだって嬉しかった事の一つや二つあるでしょ」と言われます。

アクアが嬉しかった時の記憶を辿り、嬉しい感情を思い出していると、恨みの感情を抱いたゴローの姿がアクアの背後に現れ、アクアに警告し、その後アクアはフラッシュバックを起こし、倒れてしまう場面がありました。

トラウマ感情の抑圧

トラウマとなるような強烈な感情を伴う記憶(トラウマ記憶)は、その記憶・感情を精神が抱えきれないため、その感情は抑圧されてしまいます。抑圧されている間の感情は処理されずに残ると考えられるため、リラックスしたり、思い出させるようなリマインダーとなるものとの接触など、何かのきっかけでその感情や、それに伴う身体感覚やイメージが紐づいて現れてくることがあり、それをPTSDの4つの症状の一つ、フラッシュバック(侵入症状・侵入体験)と呼んでいます。

トラウマ感情は強烈なため、自分自身の心を守るためのメカニズム(防衛機制)として、無意識的に抑圧は行われます。とはいえ、感情はネガティブなもの(怒り、悲しみ、恐怖、不安など)のみを選択して封印することはできないため、ポジティブなもの(嬉しい、楽しい、ホッとした感じなど)をも一緒に封印してしまいやすいため、アクアはアイの死からポジティブな感情をも感じにくくなってしまったとも考えられるでしょう。

感情演技と感情のコントロール

舞台公演が何度も続く中、感情演技によって出てくるトラウマ感情をずっとコントロールし続けるのは、至難の業だったでしょう。

劇団ララライの代表兼演出家の金田一敏郎がアクアに対し、飲み会(ただし未成年はソフトドリンク)で「芝居、少しずつ良くなって来ているな。このまま千秋楽まで気張れ」また2次会(ただし、同上)でも「だが終盤の演技、本物の感情が見えた。あれは本物のやつだ。面白い。」と伝えていることから、演技を続けていく中で、自分のトラウマ記憶に残る激情のコントロールを会得していったのでしょう。

推しの子第67話より

実際のトラウマ治療の中では、こういった急激にトラウマ感情に直面化させるような力技は、危険なため行いません。徐々にコントロール力を身につけるための練習をセラピストといっしょに行ったり、リソース(その人にとってプラスである人、環境、趣味、特技など)を探したり育てたりしていくことで、トラウマ治療を進められるような下準備をしていきます。アクアにとってのリソースは、ルビーやミヤコ、有馬かな、黒川あかね、MEMちょなどの恵まれた人間関係が特に大きいと思われます。

次回予告

次回は、アクアとPTSD④(心理的逆転編)では、「幸せになりたいのに、いつも逆の行動をとってしまう」という心の現象について、アクアに見られる状態から考えられることを紹介していきたいと思います。

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