私とヒラサワ①出会い

私の大好きなアーティスト、平沢進について。
今回hybrid phonon 2566が開催された記念に、私のヒラサワ歴を綴ることにした。

(普段は、過去のメンがヘラってる文章、息子の不登校、子宮摘出などです。よかったら読んでください。)

私がヒラサワの楽曲に出会ったのは20歳のとき。
その頃はまだガラケーで、家の回線はダイヤルアップの時代。
安定したネット回線を求めて、人々はマンガ喫茶に行くものだった。

ある日、彼氏(後に夫となるので以下夫)の車で夫を待っていた。エンジンをかけたら宗教のような音楽がかかった。

夫は新興宗教について調べて冷やかすのが趣味だ。興味本位である。
サリン事件の頃にオウムを謳った年賀状を友達に送りつけ、友達の祖母が驚いて捨てた、という逸話を持つ。

そんな人なので、何かの宗教の音楽でも聴き始めたかやれやれ…と思っていた。CDを取り出すと、銀色の盤面に「賢者のプロペラ」と書いてあった。変なプロペラのデザインだ。
気持ち悪いのでCDをファイルに片付けた。

「何あの気持ち悪いCD?また宗教?」と私が言うと「いやあれは平沢進っていう人のアルバムだよ」と言う。
翌日になると再びCDが入れてあり、かかっているのだ。
数日間この攻防は続いた。

夫は当時ブラック企業に勤めていた。サービス業だ。
私もそこでバイトしていたが、主任だった夫の勤務は過酷だった。
6時半出勤、19時中断、家まで遠いので会社の駐車場で車内で休憩、23時再出勤、2時退勤。という生活を送っていた。

まだスマホもない時代。私は夫の休憩までの間、会社の近くのマンガ喫茶か、夫の車で音楽を聴いて待つことが多かった。

攻防に負けて毎日「賢者のプロペラ」を聴いていたら、突然中毒性に気付いた。
なんだこれ。もっと聴きたい。覚えたい。
ガラケーで情報も乏しい。
時間だけはあるので、歌詞を聞き取って書き起こすことにした。

外は夜。手元を照らすのは頼りない車内ライトのみ。
一時停止と再生を繰り返しながらやっと書き起こせた歌詞は「回転翼が」は「回転木馬」、「空が晴れる日に」は「空が晴れる昼に」など、細かい間違いが多かった。

それでも、書き起こし、歌えるようになったことに充足感を覚えた。

他の曲もどれも宗教音楽のようだった。タイトルがすでにひどい。「ニグレド」「ルベド」「アルベド」………何がなんだかわからない。奇妙だった。それでも、聴いているうちに慣れて、伸びやかな歌声、ファルセット、音域の広さ、どっしり構えた多国籍的に音楽に感銘を受け始めた。

今思うと、夫は疲れていたのだと思う。今では頭痛に効くと有名な賢者のプロペラを、無意識に求めていたのだろう。

何度でも言うが、ネットが手のひらにない時代。YouTubeもまともに機能していなかった。ニコ動最盛期だ。ニコ動では、ヒラサワの楽曲が多数アップロードされていた。

私は日々マンガ喫茶に通い、コメントにニヤつきながら、貪るようにヒラサワを聴いた。
なんだろうこの中毒性は?という謎は解けないものの、日々沼にはまっていく自覚を持ちつつ、止められなかった。
止まりたくなかった。飽きっぽい私が、いつまで聴くだろう?とどこかで思いつつ、聴き続けたのであった。

つづく

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