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ヨーゼフ・ボイスの挑発に、今、どう呼応するのか

アップリンク配給、3月2日公開の『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』の映画公開に合わせてパンフレットに書いたテキストです。

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芸術を拡張せよと訴え、社会の中での「対話」そのものが芸術だとしたヨーゼフ・ボイスの作品(対話)は、言葉の問題もあったのか、1984年の来日当時はなかなか理解されなかったという。アンドレス・ファイエル監督は、本作『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』をほぼボイスの言葉で編集し、映画作品を通じて現在の観客がボイスと対話できるように仕掛けた。英語、ドイツ語が理解できなくても日本語字幕がついた本作は映像と言葉がリアルタイムで頭に入ってくる利点がある。この映画を通して、観客は自分なりのボイスとの対話を行うことができるのではないだろうか。そういう意味では、ファイエル監督は、誰もが芸術家であり、未来に向けて社会を彫刻しなければならないという、ボイスの唱えた「社会彫刻」の概念を実践しているといえる。

僕自身が映画と対話したところは、次のボイスの言葉だ。
「選挙で社会変革をしようとしても、カネを取り巻く力によって阻止されてしまう。カネの影響力を弱めねば、いまやカネは投機対象となった。カネは商品になるべきではない、民主主義で制限しなければ」
さらにボイスはこうも言う。
「芸術家が示す理論は、資本主義、共産主義を超えた社会だ」
そして本作のアンドレス・ファイエル監督は言う。
「“市民には能力がないので代わりに政治家が闘ってくれている”と、往々にして我々は思っている。ボイスは“責任をマヌケどもに肩代わりさせる必要はない”と主張していたのです。私たちにはちゃんと能力があるのです。だから私にとって、この問題は、今向き合わなければならないと言う意味で、とても現実的なことなんです」
そしてボイスは芸術について、「では、ピカソの言葉を引こう、芸術は住居の飾りではなく敵に対する武器だ、その敵とは何者か?」と言う。

情報社会が訪れる時代に新たな経済システムを作るべきだ、と語ったボイスの言葉は現在も有効だ。ブロックチェーンを使った中央集権的でないビットコインという仮想通貨が生まれた。だが、それはすぐに、これまたボイスの言うように仮想通貨自体が投機対象となった。資本主義、共産主義を超えた社会を考えなければというボイスの言葉通り、このテキストを書いている時に、資本主義国家の象徴であるアメリカで民主社会主義者を標榜するバーニー・サンダースが大統領に立候補したというニュースが流れた。

そして、ボイスの唱える芸術の概念と呼応するなら、多様な価値観を持った映画を毎日上映し、連日トークショーやイベントを催し、ギャラリー、マーケット、カフェレストランを運営し、様々な対話を仕掛けていくアップリンクの活動自体がボイスの言う「社会彫刻」そのものではないだろうかと思った。

1921年に生まれ、戦争を経験し、1986年に64歳で亡くなったヨーゼフ・ボイスの芸術は、現在においても十分に挑発的で刺激的であると確信する。

一番のサポートは映画館で映画を観てくださることです。 アップリンク渋谷・吉祥寺をよろしく。