【繁盛米屋探訪記~2023年10月号~】まきの米店(千葉県船橋市)
皆さんこんにちは、
アサヒパック広報の小林です!
こちらは、日ごろ弊社製品をご愛顧いただくお米屋さんの”工夫”や”独自の視点”を取材し、まとめた記事です。題して「繁盛米屋探訪記」。
2023年10月号としてお話を伺ったのはこちらのお客様。
取材に快く応じてくださり、ありがとうございます!
食と生活者、生産者のパイプ役として
途絶えない客足。ひっきりなしに鳴る電話…。
『取材時は大盛況だったって、記事に書いておきますね』と伝えると、『そんなそんな!』と笑ってくださったのが「まきの米店」代表の牧野基明さんだ。ご自身は謙遜されたが、現に筆者が感じたこのお店の活気は、いわゆる“町のお米屋さん”とは一線を画すものだったように思う。
今回はその取り組みや工夫をご紹介しながら、現代における「食事」と「お米屋さんの役割」についてご一緒に考えてみたい。
目指すのは「AAA」
個人的な話から始まっていまい申し訳ないが、筆者は現在一人暮らしだ。
日々の忙しさから、はたまた自身の怠慢から、特に夕食を適当に済ませてしまうことが多い。近所のスーパーで割引シールが貼られたお弁当を「ラッキー!」と手に取り、一人自宅に帰って無言で口に運ぶ。時々、ふと思う、果たしてこれは「食事」かそれとも「食餌」か…。
ぜひ気を悪くしないでいただきたい。そのお弁当を作ってくださる方がいる、その食材を丹精込めて栽培された方がいる、そしてそれに感謝を込めて「いただきます」と言う、あくまでもその上で、だ。単に栄養を補給するだけが「食事」なのか、いや、本来あるべきは、きっとそうではないはず…。(※1)
このような食事のかたちは「孤食」と呼ばれる。たとえ家族と暮らしていても、各々が忙しい、生活リズムが合わないなど、様々な要因から孤食の割合は増えているようだ(※2)。
現代日本において、特に子育て世代の忙しさというのは一人暮らしの筆者とは比ぶべくもないレベルだと思うが、こういった「食事」が本来持つ意味合いが段々と薄まっていく中にあって、少しでも美味しい「食事」を家族みんなで取ってほしい…。そんな想いで「まきの米店」が毎週金曜日の夜8時まで行っているのが、店頭での「ナイトマルシェ」だ。
店頭精米を行う「まきの米店」には常時40種類前後の玄米が並ぶが、このナイトマルシェが行われる金曜日にはそこに旬で新鮮な野菜と果物が加わる。そのどれもが味だけでなく、環境負荷などにも考慮された“安全”でこだわりの逸品。基本的には繋がりのある米農家さんから仕入れているそうで、希望者には月に1~2回、野菜BOXの定期配送も行っている。
また、生鮮食品だけではなく冷凍のお惣菜類も人気だ。こちらは国立病院機構が監修するバランスの良い塩分控えめレシピで作られており、特に日々の調理や外出が難しいご高齢の方々にオススメの商品となっている。賞味期限も製造から1年間と長く、災害時など緊急の際でもストックしておけば「とりあえず食べる物がある」という“安心”を生み出すことができる。
肝心のお米についてはどうか。「まきの米店」で昔からの看板サービスとなっているのが、お客様の「米びつ管理」だ。
平たく言えば「年間契約・定期配送」なのだが一度にまとめて納めることはせず、各家庭の消費量に応じて、例えば2週間毎に5kgを届けるなど細かく分けることで「いつも搗きたての美味いお米が、自宅の米びつに入っている」かのような仕組みを構築している。時には『一日に朝から60件の配達に行かなきゃいけない』こともあるそうだが、その地域の主食、ひいては各家庭の食を守っているという想いで、この“安定”供給に取り組んでいる。
専門店の美味しいお米を、いつもの量、いつもと同じ価格で。「まきの米店」が目指すのは、安心安全に「安定」を加えた「AAA」だ。
現に、先の東日本大震災の際もこのシステムは崩れることがなく、利用者への安定供給を、それまでと同じように続けることができたそうだ。
人と人を繋げた間に、自分たちがいる
この中でも特に“生産者の安定”のため、「まきの米店」が取り組むのは“まず出口を作る”という考え方だ。
例えば、牧野さんは20年以上も前から地域の小学校で定期的に「お米授業」を行っている。その際心掛けているスタンスは「先生と生徒」ではなく「人と人」。学校を離れてからも気軽にお店へ遊びに来れるような、そんな関係を目指している。
そして興味を持ってくれた子どもたちへは田植えなどの「お米づくり体験」を準備。契約農家と希望者を繋ぎ、その苦労や素晴らしさを楽しく感じてもらえる機会を提供している、と同時にそれは、新たな顧客創出の場としても機能している。確かに、自分たちが関わったお米を実際に食べてみたいと思うのは、ごくごく自然な流れだろう。
また「相手に合わせた提案型営業」も新たな“出口作り”の一環だ。
例えば保育園での給食用米など、どうしても低価格競争になりがちな場面があったとする。そういった時には「特定の農薬使用を控えているお米」を提案するなど、利用者側の関心事に合わせた専門的な提案を行う。そうすることで価格とは別軸の判断基準が保育園側に生まれ、その付加価値に見合った取引へと繋げることができる。
さらに先述の「米びつ管理」同様、なるべく年間契約をお願いすることで、おおよその必要数量を算出。生産者の米余りを事前に防ぎ、安定した価格での安定した供給を実現している。
売り先の当てがあること、それも適切な価格で…。これこそ生産者にとっての“安定”に他ならないだろう。
また先述の「お米づくり体験」を通して生産者と生活者の距離がぐっと近くなっていること、言い換えればお互いに「顔が見える」ことは、前者にとってはやりがいに、後者にとっては安心に、それぞれ結びついていく訳だ。
ご自身がそう説明されるとおり、「生産者と生活者を繋げ、その地域の食を守るパイプ役」としての役割を「まきの米店」は担っている。
牧野さんが目指すこの“安定”、それが持つ意味合いは想像以上に深い。
町のお米屋さんだから出来ることが、きっとまだまだあるはず
「まきの米店」ではここまでご紹介したようなシステムを、あくまでも“手が届く範囲で”上手に構築し、そのパイプをより太く、より安定循環させることを目指している。
また、個人的に注目したのは牧野さんの言葉遣い。取材を通して「消費者」とは極力呼ばず、“自らの考え方・意識・価値観を、消費を通じて表現する”という意味で「生活者」の語を当てていた(※3)。
それは、例えば取り扱うお米や野菜の価格・味・産地・銘柄といった“もはや当たり前のこと”だけではなく、「どんな人が作ってる?」「どんな想いで?」「環境への負荷は?」「体への影響は?」「持続は可能?」といった“今の消費者”が求める情報を敏感に感じ取り、提供しているということの現れだと言える。
“手が届く範囲にお客さんがいる”ことが、どうもこの戦略を立てる上での重要ポイントになってきそうだ。
近年、お米の鮮度を保つ「真空パック商品」がギフト用などの“少量サイズ”で定番になり始めているが、「まきの米店」ではそれを900gサイズの通常商品として準備したり、先述の「米びつ管理/定期配送」のサービスでは2kgサイズの複数セットを提案したりと、少し視点を変えた活用を始めている。比較的若い世代を中心に反応はポジティブなものが多く、『単身赴任先で自炊にちょうどいい』であったり、『食べ比べをするのに嬉しい』といった声が寄せられている、とのこと。
実はこういった工夫は以前から非常に高く評価されており、2017年には船橋商工会議所が主催する「第2回ふなばしお店グランプリ」の商品・サービス部門でグランプリを受賞されている。
生活者との距離を近く保てる町のお米屋さんだからこそ、そこにあるニーズを高い解像度で見ることが可能なのだ。
ここ数年で私たちの生活スタイル、特に食のあり方はガラッと変わった。いや、変わらざるを得なかった。
孤食や黙食を求められる中で、なればこそ、家族や友人と囲む「食事」は、これまで以上に貴重で大切な機会として守っていかなければならないだろう。その食卓の中心には今一度お米を、そしてその機運に火を付ける役目は、ぜひ“町のお米屋さん”に担ってもらいたい、と切に願う。
そう、牧野さんのように、知恵を絞り視点を変え、世の中のニーズに合わせて変化し続ければ、町から出来ることがきっとまだまだあるはずなのだ。
※本記事は弊社発行「こめすけ 48」に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです。
※取材は2023年4月に行いました。