見出し画像

【こだわり農家見聞録~其の壱~】桃川農園(新潟県村上市)


皆さんこんにちは、
アサヒパック広報の小林です!

こちらは、日ごろ弊社製品をご愛顧いただく農家様の”想い”や”こだわり”を取材し、まとめた記事です。題して「こだわり農家見聞録」。

その第一弾としてお話を伺ったのはこちらのお客様。

取材に快く応じてくださり、ありがとうございます!

桃川農園(新潟県村上市)
岩船米の産地である新潟県村上市で昔ながらの「はさがけ米」を始め、サツマイモ、枝豆、アスパラガスなど四季折々「安心・安全」な作物を栽培。比較的小規模な農園でありながら、そのこだわりや品質の高さから都市部の有名レストランにもリピーターを多数抱えている。


愛する地元で、自由な農業を


7年前、家族の大反対を押し切って勤めていた会社を辞め、農業の世界へ飛び込んだ桃川農園代表の佐藤譲さん。

初期投資のため貯金を切り崩し、収入は一時、三分の一にまで落ち込んだそうだ。『今も大して儲かってないんですよ』と言いつつも『面白いんです』『ハッピーなんです』とマスク越しに笑ってみせてくれた。その自由で現代的な新しい農業の形を「繋がり」をキーワードに探っていく。

代表の佐藤譲さん

お客様との繋がり
~やりがいを生み出すSNS~


SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)はスマートフォンの普及に合わせて私たちの生活に急速に浸透してきた。今や企業・法人が公式アカウントで発信することが当たり前の時代。ただ難しいのは、その溢れる情報の中で如何に注目されるか、ピンポイントでどうやって見て欲しい人に届けるのか…。


桃川農園公式のFacebookアカウントなどを覗いてみると、日々の活動が非常にマメに記録されている。常に最新として発信される情報は、農園のお得意先であるレストランのシェフ達に直接、かつタイムリーに届き、そしてそれを離さない。

佐藤 SNSでシェフの方々とずっと繋がってるんですよ。(日々発信することで)旬の情報のやりとりが自動的に行われてるから、こっちからあんまり押し売りしなくても「来週アスパラ3kg送って」とかって注文が来るんですよ。


佐藤さんとシェフたちとは「村上市食材プレゼンテーション」という行政主催の商談会で出会い、以後直接のやり取りを続けている。

風通しの良い田園・豊富な日照・昼夜の寒暖差など、好条件が揃うこの村上市で、農薬をなるべく使用しない、藁を食べた村上牛の堆肥を畑へ鋤き戻す循環型農法を採用する、といった佐藤さんの実直なこだわりに、シェフたちはいわば「桃川農園のファン」となっていった。

佐藤 (レストラン側も)生産者の顔が見える食材で、新潟県村上市桃川農園産のっていう農園名プラス、すごいところは(食材の)作り方、こだわりまでメニューに書き込んでくださってるシェフもいて。お客様がテーブルで召し上がる時に村上市の情景が頭に浮かぶような、そんな紹介で。そこまでやって頂くとほんとに私たち作り手も嬉しいし、多分お客様も『村上市ってどんなところなんだろう』って考えてくださると思うんです。


これから口にする食材の「生産者の顔が見える」「どのように栽培されたのかが分かる」ことの持つ説得力は、ある種その料理の「保証書」とでも形容できるかも知れない。

こうしてシェフだけでなく、その味に感銘を受けたお客さんまでもが桃川農園のファンとしてまんまと仕立て上げられていく訳だが、前述のSNSを介した「ファンとの距離感の近さ」こそが、結果的に佐藤さんを突き動かす“やりがい”を生み出している。

佐藤 どなたが召し上がられて、どんな感想をお持ちで、で、リピートくださるのか、改善点があるのか、そういうフィードバックがあることによって“やりがい”に繋がってくるんですよね。

お客様がどんな顔されて召し上がってるんだろうかとか、あの方喜んでくださっただろうかな?とか、送った方どう思われてるだろうかな?と思ったりしてるだけで、それで幸せなんですよね。

地域との繋がり
~6次産業化と農福連携~


『毎度お引き立ていただきまして…』昔からよく耳にするこのフレーズ、恥ずかしながら、筆者はこの「お引き立て」についてこれまで深く考えてみたことが無かった。字義的に解釈すれば「贔屓にする」といったところか。

だが、佐藤さんはこれをもう一歩進めて「次のレベルへ引き上げていただくこと」と定義した。壁にぶつかった時、独力で出来ることには限界があるが、どなたかに「引き上げていただくこと」で、その先へと進んでいける…。では、必要な時「引き上げていただく」ために、普段の自分にできることはなんだろうか?


桃川農園ではフードロス削減のため、規格外の作物を使用した製品を多数販売している。看板商品は焼き芋プリン、そして野菜と果物のカップジェラート。どちらも好評を博しているが、特筆すべきはその製造を地元企業へ委託しているということだ。

特にジェラートは店頭販売専門の有名店を拝み倒し、苦労して作り上げた自信作。こうして創出される新たな雇用と独自のブランドは、少しずつだが着実に、この地域の活気に貢献している。


それだけではない。佐藤さんはそこに「農福連携」を掲げ、地元の就労B型事業所として数年前から積極的な受け入れを行なっている。現時点では農作業等が中心だが、将来的に自社での6次産業化を目指し加工部門での採用を計画しているという。

佐藤 うまく心を開けなかったり、上手には喋れなかったり、ちょっと引っ込み思案だったりするんだけども、でも一つのことを一生懸命やってくださるんですよ。それを活かせばいい、その人に合った仕事を見つけてあげる、という感じで。

(得意なことに)光を当てれば、その方の活躍の場もできるし、私も助かるし、そうして製品ができれば応援して買ってくださる人がいるっていう。

ただ私一人で仕事して、なんか汗かいて疲れたなあって言ってるよりも、そういう方たちを巻き込んで、繋がりを持ってやったほうが”ハッピーが繋がっていく”んじゃないかって。


確かに苦しい時もあった。それでも佐藤さんは「地元のために、自分にできることをする」という選択をした。たった数年間でここまで成長してきたこと、いや、「お引き立て」いただけたことは決して、偶然ではない。

『こういう商品はお名刺代わりになるんですよ』と紹介してくれた加工品の数々。
実は筆者は大のプリン好き。その素朴で滑らかな食感に、私も一瞬でファンへと…。

学生たちとの繋がり
~未来へ託す自由なバトン~


風向きが少し、変わり出したのかも知れない。

都市部への人口流出による地方の過疎化は長年の問題とされて来た。特に若い世代は「皆が都会に憧れを持っている」というイメージがいつも付いて回るが、その状況に少しずつ変化が生じ始めている。

桃川農園では給食へのデザート提供や、農業体験受け入れを行なっているのだが、佐藤さんはその学生たちとの関わりの中で、自身の認識と現実のズレを感じ取っていた。

佐藤 私も子どもたちと、それこそ中学生とかと触れ合うので分かるんですけど、私たちの頃は10人中10人って言っていいくらい都会に憧れたんですね。でも今の子どもたち違うんですよ結構。どうしても都会に行きたいって言う人はね、ほんと半分くらいしかいないと思いますよ。地元で物作りとか何かって、希望する方いるんですよ。だから今ピンチだって言われてるけど、本当はチャンスなのかも知れませんね、田舎は。


未来を思い描くための選択肢とその具体例。佐藤さんは学生たちとの交流を通じて「農業という生き方」を笑顔で伝えている。そして彼らには既成概念に囚われない「自由なバトン」を渡すつもりだ。

実際、桃川農園では既に自動運転(直進アシスト機能)トラクターの使用、ソーラーシステムによる散水、さらに今年からドローンを用いた種まきをスタートさせた。

佐藤 将来的に若い人には、スマホのプロポ持って、スニーカーでも履いて田植えやってもらいたんです。そのくらい自由なバトンを渡さないと、多分受け取ってくれないでしょうから(笑)


農業にこびりつく「古臭い」イメージ。佐藤さんはこれを全力で覆しにかかっている。もしかすると数年後、それを受け取りたいという次の世代が、この中から現れるかもしれない。そう、これは絶好のチャンスなのだ。

佐藤 コミュニケーション能力、繋がるための力、そういったものが重要視されてくる時代だから、あんまりこう畑の中で毎日汗まみれになってとか、そういうキツいっていうことだけを想像しないで欲しい。まあ農業もビジネスっていうかね、そういう捉え方を伝えていきたいですね。


『この地が好きなんですよ』と何度も語る佐藤さん。そのバトンを次の世代に託す頃、村上市にはドローンが飛び交う田園風景が広がっているかも知れない。

都市部から離れていてもSNSを駆使して顧客と繋がり、地域との結びつきを育てながら、技術的なアップデートをし続ける現代型の農業。これは未来のため、新しい生活様式を今、求められる私たちにとって、ひとつの回答例と言えるだろう。


※本記事は弊社発行「こめすけ 40」に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです。
※取材は2021年4月に行いました。