編んだ先には返ってくる愛があった
私のいちばん好きな恋愛漫画。
【関根くんの恋】
こんな男がいてたまるかと思いながら読むけれど、関根という男の目線でストーリーを追っていると憎めないのも確かだ。
なんでも完璧に出来る30歳独身、関根。
わかりやすいほどの器用貧乏、その上そのスタイルと顔が良かったばっかりに、経験と付随する感情の間には大きな溝があって、自分という存在に対する理解が誰よりも乏しい。
幼いころからの習い事も、学校行事も、仕事恋愛にいたるまで全て言われるまま、流されるままやってきた。ゴールまでのプロセスが自然と見える。自分を取り巻くあらゆる"他"が起因でしか人生が動いていない。
だからこそ自分が実は面白みのない人間なんじゃないかという疑問も、齢30にして初めて、長年一緒にいる学生時代からの友人の一言から生まれたりする。
完璧・無感情・理解できそうにないなどの外付けの人格相がますます彼を縛っていく。
そしてただ鈍感と片付けるにはあまりにも…あまりにも不憫である。
先輩への拗らせた初恋は、結果的に長い間拗らせてしまっていたというなんとも力の抜けるような始末。
今サラに会わなかったらその結果にもたどり着けずに目から水分が出る理由さえもわからずただ毎日を過ごしていたんだろう。
明るく、快活で、家族を大事にする女性サラ。
関根が面白みのない自分を変えよう、手始めにと向かった手芸教室の看板娘。
コミュニケーションをそつなくこなし、人を良く見ていて付き合いが上手。
考える様はあっても裏表のない性格は、誰から見ても好かれる要素だと思う。
ほどよい客観視とほどよいリアリストさがあって、外面があまりにも完璧すぎる関根の相手としてその性格はとても愛らしかった。
自分自身でご都合主義的古典漫画展開と疑うほど『まさか私が』と思っていながら、ちゃんと関根自身を見て、関根の話を聞いて、すりガラスよりも不透明な外壁を剥がしてあたたかくもきっちり核心に触れていくヒロインは
あぁ、この人で本当に良かったなと思わせてくれる。
全てが達観しているわけではなくて、ちゃんと悩んだり、嫉妬したり、ドキドキしたり
自分の服装と、関根と並んでお似合いに見えるスーツの女性を比べて少しモヤモヤしたり。
「オーバーオールに罪はないのに」という台詞は痛いほどわかってしまった。
サラが関根の気持ちを汲める人でよかった、本当に。
私は、この漫画のタイトルが【関根くんの初恋】ではないところがとても好きだ。
確かにサラに言われて、関根はそうだったと腑に落ちていたし
先輩を見て感じていた、自分では手に負えていなかった情は、サラを好きだと自覚した途端まっさらになっていた。
でも、それでも"初"とすることもできたと思う。
自分で気づいたのも、アプローチをしてみるのも、悩んで傷ついて泣いてもほんの少しのやり取りで嬉しくなるのも彼にとっては"初"なのだ。
だけれどそれを初恋とはしないことで、先輩への想いと自覚させてくれたサラへの気持ちと、それぞれをないがしろにせず大事にしているようで。
ただ知らなかっただけで、理解ができれば途端にわかりやすい男になる関根。
またそれも私が彼に抱いているイメージであって、そんなことは思ってない、気づいていないかもしれないけれど。
もう何度も読んでいる。
「ずっと全然大丈夫じゃないんだ」
「ウキウキ…しているのか 俺だけじゃないのか」
「俺はあんたに差別されたい」
「過ぎ去ってほしいコトばかりの中で
時間が止まって欲しいと願ったのははじめてだ」
「一度でいいから声に出して名前を呼んで
ふり向く姿を見てみたかった」
関根の素直な台詞の数々がわざとらしくなく、くさくもなく
スッと手元に落ちる感覚。
様々なすれ違いも乗り越えて、極めつけにはサラの真っ直ぐな言葉がある。
物語のラスト、全てが報われる愛の告白は本編にて。
極彩色の感情で編まれたニットの行く先が、極彩色の似合う女の元でよかった。
どうかこれからも末永く、2人の想いが解けないように編んでいってほしい。
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