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白いしるし読みました。


前に西加奈子さんの 炎上する君 を読んだ。
短編集で読みやすく、、、

いや、読みやすかった…のか?

世界観に振り回されながら、短時間で読了した覚えがある。

終えたあと、私はもっと"わかりたかった"し、きっとまだ"足りない"と思った。


図書館に行ったときに、予約していた数冊と、もう1冊読めそうなものを探していた。
ちょうど西さんの作品棚が目についたので、2つの白(、で、ボロボロ、たくさんの人の手に渡ったあとなんだ)なハードカバーが目に留まり、

ふたりでは、会わないようにしていた。

本文 一行目

だけを読んで、借りることにした。
またも私は大いに振り回され、短時間で読了、" "を自覚することになる。




白いしるし 著 西加奈子

アルバイトをしながら絵を描き、細々と暮らしている夏目。
女、独身、32歳。
よく一緒に飲んでいた、写真家で友だちの瀬田に誘われ、あるギャラリーを見に行き、1枚の白い絵に出会う。
その作品と、作者『間島昭史』へ湧き出た強い感情から、過去の自分の恋愛や、周りの人の経験談を思い出し、
恐れつつももう理性ではどうにもできないところまで、心は波立ってしまった。
年齢、仕事、自分と相手と周りの人間。何をふまえても、どう考えても、この気持ちは止められない――




読んでいるあいだに、そうだよな、恋愛小説だよな、と思った。
読み終わったあとに、文庫本のHPを見た。

「この気持ち、ばくはつ寸前!」
「超全身むきだし愛!」

私は、この最後のエクスクラメーションマークに
なぜか"最後の一撃"をくらったような気がした。
眉間にシワが寄っているのがわかるし、すっごく頭が痛い。


夏目は、恋愛にのめりこみすぎる自分を自覚していて、次こそはそうならないように行動しているつもりだけれど、やっぱりかなり引っ張られている。
何もない自分を不安に思いつつ、結婚した友人から旦那やら子どもやら愚痴の数々を聞くと、「それなりに出会いのある今のほうがいい」と言ってしまっている。
怖いと思っていても、恋愛をしないという選択はないんだなと。
(恋愛"してしまう"、ならまだしも、素面正気のときにこう思うってェことは、という。)

恋愛をすることに、人を好きになることに、恐怖を抱いているのは本当だったんだろうけれど、どこかで"そうなる自分"を許しているんじゃないかと思う。
諦め、というよりは、許している。

逆に自分を責め続けるのもおかしいとは思うのだけれど(実際には、夏目は毎度時間がかかろうがしっかり終わらせて前を向けるし、)。
私は夏目のような、または『間島昭史』のような素直さを持っていないから、よけいにこうして思うのかもしれない。

まあ、だからこそ、彼女らが感じているのは、私の知らない『本物の愛』なんだろうな。


芸術家たちの強烈な個性のぶつかり合いを、人間くさいと言っていいものか。
普通じゃない、と言われて否定できないなと客観視する夏目。
いなくなった恋人の帰りを、いびつな愛の形を残し続けながら待つ瀬田。
世間一般では許されない恋人と、もう"剥がれない"ほどつながっている間島。

瀬田にアテられていたギャラリーの経営者塚本は、どちらかというとこちら寄りだなと思ったけれど、充分に、ヤバい。
夏目たちより私に身近なヤバいやつ。



この世界で、自分が自分そのものであり続けることの難しさを、私は痛いほど分かっていた。
それを無意識のうちに避け、無意識のうちに狡猾に生きてきた。
環境によって形を変える自分に"似た"自分を責めることなく、自分を甘やかして生きてきた。

本文より

そういうものだ、と、私も思っている。
でも夏目は間島を産みたいというほど、間島の存在と自分をくっつけたがっていたように思うから、
適応よりも正直に生きる、を優先している間島に強く憧れて、対峙すると、好きなのに居心地が悪くなるような、逃げたいような感覚になるんだろうな。

これは確かに、自分らしくあれたら、とうらやむ気持ちはわかる。
自分らしくってなんだろうな、とか考え始めて、まぶたが重くなってくる。


僕もうわからないんです。どうしたらええのんか。(中略)
俺の足とか、腕とか目の片方が同時に、(中略)
僕はあいつのこと、ほんまに、ほんまに好きなんです。

本文より

これから登場人物の感情の発露がどんどん激しくなっていくぞ、という中盤、間島の告白。
他人行儀なときと自然なときとでは一人称が変わる(変えられる)タイプの人間だったらしい。そこは一応ふまえているというか、出来る人だったんだなあ。

間島の一人称が僕から俺に変わっていることに、本人よりも気づいていた夏目だ。この彼の告白が、彼自身のように偽りなくまっしろだと思っただろう。
それって本当に、すごく残酷。



読み進めていくうえで、衝撃箇所はいくつかあったけれど、やっぱり夏目の自分の足の爪を噛みちぎる行為と、瀬田の猫の扱い方。

伸びっぱなしの爪では邪魔だと思う思考回路はあっても、血だらけの足の存在感に対しては何も思わなかったんだな。
いや、割と意識的にはっきりしていそうな雰囲気もあったし、こう見られているだろうという、やはり客観視の部分も強くあったから、"どちらもあるけど、片方を選んだ。"のほうがしっくりくるか。

瀬田の猫(恋人の猫)はあれ、愛情の向け方を間違っている、だけでは済まされなさそうだけどな。
一番ぞんざいにしているのって瀬田じゃんと。
わざわざ"扱い方"と書いたけれど、自分の寂しさを紛らわすためだけの繁殖だと思うから。
時系列的に、間島と妹のことを知ったから、その選択肢が生まれたのかな?とも。
どちらが先か、はあまり関係ないかもしれないけれど、
身近に在るものがヒントになることって、結構ある、しなあと思うと、遠からず、かなあ。


男女の友情のあるなしが定期的にやんや言われるけれど、私は夏目と瀬田のような関係は、小説上だけのものではないと信じている。
夏目が瀬田を、瀬田が夏目を、そういう対象から意識せずとも外していたみたいに
瀬田を見る夏目と塚本、間島を見る夏目と塚本が全く違ったみたいに
そうじゃないけど、信頼してる。はあると思う。
あってほしいなと思う。

それもあって読みやすかったのかもしれない。
2人の関係性は、物語の中でいちばんシンプルだったと思う。

頭は痛い。



西さんの他作品をまだ読んでいないおかげで、
西さんの作品にでてくる人は
あああああああああああああ、と叫ぶ。
という共通項にとどまっている。

そして頭をずっと殴られ、締め付けられ、みたいな感覚があるのに、やはりまだ"わかっていない"し"足りていない"気がしてならない。まとまらない。

『』に入れることができる日は果たして来るんだろうか……



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