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【エッセイ】あたまのうえ

 自宅から職場までは徒歩2分ほど。走れば1分以内の距離だ。
 朝、アパートのごみ置き場に資源ごみを入れたあと駐車場から一歩外に出る。そこで足元の氷に滑ってバランスをとろうと出した二歩目。
 そのどさくさに紛れて、ぱたり、ときた。頭の上であった。
 何事もなかったようにそのまま何歩か歩いたが、やっぱり立ち止まる。触って確認してはいけないと本能が告げる。振り返って見上げると、電柱には2羽のカラスがとまっていて、誰に向かってかカアと鳴いた。

 玄関に戻って鏡を見る。暗くてよく見えない。電気を点ける。目がくらんでよく見えない。
 目が慣れるのを待って、うつむきながら上目遣いに頭頂を確認する。
 予想のとおり、そこにはカラスのフンがあった。幸いにも水気が少ないそれを、丸ごと1回分きれいに頭でキャッチしていた。付いたでもかかったでもなく、載ったと表情するのがぴったりの堂々たる様子であった。

 どうすっかな、とひとりごとを言ってみるものの、悩む時間はなかった。出勤しないといけない。遅刻しますと連絡をすれば済むのだが、それすら面倒だ。これからシャンプーをする? そしたら化粧もやり直しになる。言語道断、まっぴらごめんだ。
 結局、キッチンペーパーでフンを取り除き、髪をひとつ結びにしたまま洗面所で頭頂部のみを洗った。ドライヤーも最小限で済ませ、万事元通り。さっきまでこの頭にカラスのフンが載っていたとは誰も思うまい。

 想定外だったのは、職場でこの話のウケがイマイチだったこと。もしかしたら、話を盛っていると思われたのか。こんなことなら写真を撮っておけばよかった。
 帰宅後、ウンだめしに買い置きのスクラッチを削って、人生がそう上手くはいかないことを再確認する。
 そんな3連休明けの月曜日。今日はバレンタインデーだった。

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