桜だより〜関西地方の開花推移〜
こんにちは。メディア研究開発センターの河﨑です。
春ですね。大都会東京の花粉の多さに慄きながら、日々過ごしています。
(私の大好きな故郷大阪よりも花粉が多いそうで、、やってられないです)
新聞社に入社したので、学生の頃より新聞を読む機会が増えました。
新聞には「その日の情報」がとてもたくさん載っています。
今日の新聞を見ることで、今何が起こっているかがわかる。
過去の新聞を見れば、その時何が起こっていたかわかる。
ここで思い出しました。大学の時、ソメイヨシノの満開日について研究をしていた私は、新聞からソメイヨシノの開花情報を集めていたのです。
そうです、過去の新聞を見れば、過去のソメイヨシノの満開日がわかる!!
思い出してしまうと、いてもたってもいられなくなりました。この場を借りて、皆様に共有させていただきます。
桜が咲きますね
春といえば桜ですよね?
在宅勤務で聞く相手がいないので、ChatGPTに尋ねたところ、一発目に桜の文字が!!気が合いそうです。
春になると各媒体から「桜の開花予測」「開花宣言」のワードが聞こえてきます。みんな桜が好きなんですね。
朝日新聞デジタルでもこのような記事が出てきました。
「桜の開花」と聞くと、「春が来たな」と思ってしまうのではないでしょうか。もはや桜を見なくても言葉だけで春を感じられちゃいます。魔法の言葉ですね。
今回は、この「桜の開花」について以下の2点を書いています。
・どこで開花情報を得られるのか
・得られたデータを地図にのせてみる
ぜひ最後までお付き合いください。
みんな大好き開花情報
現在の開花情報
まず気になるのは「今どこで桜が咲いているか」。
よく聞く「開花宣言」、あれは気象庁が発表しています。
その他、気象会社、鉄道会社や桜の名所と呼ばれるところで各地の開花状況がホームページで発信されています。
調べれば「せっかく来たのに、完全に散ってしまってるやん!!」というこ
とが起こらない、便利な世の中です。
過去の開花情報
「平年より早い」「最速の」開花日というワードもよく耳にすると思います。ここで考えます。過去の開花日ってどこでわかるの??
そして答えます。気象庁のホームページだよ。
以下の日本地図に示している地点(各都道府県で1ヶ所以上)で開花日・満開日の観測が行われています。
観測値点数は減ってきてはいるんですが、1953年から観測が続いている貴重なデータです。
あらこんなところに開花データが、、
今年の各地点の開花状況、過去の全国的な開花状況、どちらについてもホームページから簡単にデータを得られるということがわかりました。
では、過去の各地の開花状況についてはどうでしょうか?
そうです、新聞に載っています。
1953年から2022年までは朝日新聞大阪本社版に、「花だより」「桜だより」という桜の名所の開花状況を報告する紙面がありました。
(他社の新聞にも載っているものはあると思います。朝日新聞の名古屋版にも載っているのは確認できました)
下に1960年と2022年の桜だよりの記事を載せています。縦書きになったり横書きになったり、場所数が増えたり減ったりと時代推移が感じられますね。3分咲きがあったりなかったりもします。
これを見ることで、狭い範囲のたくさんの地点の開花情報を知ることができます。今回、この紙面情報は社内のデータベースに蓄積されているものを使用しました。
今回はこのデータを使って、関西の開花状況の(日毎、年毎の)変化について、解析をしたいと思います。
桜だよりについて
解析を行うには、使用するデータの特徴を知ることが必要ですよね。
桜だよりをデータとして捉えるとき、考え得る限りの特徴を以下にまとめました。
・1本の木を見ているのではなくその桜の名所、全体で判断
気象庁の開花宣言では、1本の標本木を決めています。施設ではそのようなものはない場合が多く、桜の名所全体で見て、開花・満開を判断していると考えられます。
・桜の種類がバラバラ
気象庁の標本木は基本ソメイヨシノです(ソメイヨシノにも生育限界はあるので、北海道ではエゾヤマザクラ、九州沖縄ではヒガンザクラを標本木としているところもあります)。
それに対して、新聞に掲載されている桜の名所には、ソメイヨシノ以外の種が植栽されていることももちろんあります。1ヶ所に複数種があることも珍しくありません。
・日変化がわかる(五分咲きや、散り始めがわかる)
上の新聞を見てもらってもわかるように、「桜だより」には「開花(咲き始め)」「満開」以外に、「五分咲き」や「散り始め」という表記があります。どのように開花が遷移していったのかがよくわかりそうです。
地図にのせて見てみよう
せっかくデータを見つけたので何かしたいところです。
桜だよりは、紙面情報しかありません。今回は、OCR+手直し(気合い)で使える形に加工しました。もし、全年のデータを使用する場合は、気合いだけではどうにもならなさそうなので、OCRの精度が上がるように工夫したりと、考えなければいけないポイントが増えそうです。
データが使えるようになったところで、
・1年の中で蕾から桜が散るまでの日変化
・特定の1日を年ごとにみた場合の年変化
を関西地方の地図を使って、見ることにしました。
1日ごとの変化
1960年と2022年の3月25日から4月13日までの開花状況を1日ごとに出力してみました。これでこの2つの年の開花の推移を比較することができます。
今回は以下の条件で図示しました。
・つぼみ、開花、5分咲き、満開、散り始めの5段階で表示する
→3分咲きは扱っている年と扱っていない年がある+7分咲きは満開(8分咲き)と近いため
・サクラの種類は考えていない
・年毎の地点数の差は気にしない
・休刊日はとばす
1960年と2022年の開花状況の推移を見てみると、同じ日であっても開花状況が違うことがよくわかります。
1960年4月9日に初めて散り始める地点が発生しますが、2022年では4月2日には大阪南部で散り始めてしまっています。
「春休みに花見をする」という感覚が変わってしまいそうですね。
入学式に桜が満開なのは昔の話?
先ほど、温暖化により開花が早まってしまうという話に触れました。
ここで思い出したのですが、去年の大学の卒業式の時に恩師が「この時期に満開かー。昔は入学式の時期に桜が満開やったのに、もうあの景色は見られへんのかなー」とおっしゃっていました。
え!そんなに満開日って移動してんの?って感じですよね(ちなみに、去年はめちゃくちゃ開花が早かったらしいです)。
そこで、1960年から2020年までの4月7日(だいたいこのあたりで入学式があると思い込んでおります)の開花状況を5年ごとに集めました。
どうですかね?
確かに近年の方が、4月7日時点で散ってしまっている(葉が表示されている)ことが多い気がします。
また、1990年、2015年は関西全域で散ってしまっているように見えますね。
ソメイヨシノの開花時期には開花前年の冬と、その年の春の気温が顕著に影響します。
1990年は記録的な暖春だったそうです。1つ目のPDFを見てもらえればわかるのですが、当時「観測史上初」が流行語になるくらいの高温だったらしいです。2015年は、ニュースでよく聞くエルニーニョの年です。その中でもスーパーエルニーニョ。
春が暖かすぎると、例年より開花が早くなるというのがよくわかります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/47/1/47_1_21/_pdf
1990年や2015年を筆頭に、今回対象とした年の中には、顕著な暖冬・厳冬や暖春・寒春の年も含まれています。年推移を見る上で、それは外れ値となってしまいそうです。「入学式桜満開論争」を語るには、気温情報を使用したより詳しい分析が必要そうです(今回はここで終わります)。
解析に使うときにしたほうがよさそうなこと
今回の記事ではできていないのですが、より詳しい解析をする場合に考慮した方がよさそうなポイントを2点挙げておきます。
・気温データを集める
先ほども触れましたが、サクラの開花時期は前年の冬およびその年の春の気温に大きく影響されます。だからこそ、近年の地球温暖化や都市温暖化により、咲く時期が早くなったり、遅くなったり、はたまた九州の方では満開にならなくなったりしています。
各開花地点の当時の気温(欲を言うなら時別気温)を集めることができたら、気温との関係を考慮した解析が可能になりそうです。
・どの種の桜が植栽されているか調べる
「ソメイヨシノはすべてクローン」なので(詳しくは下記の記事で!)、気温に対する応答がどの個体でも等しいと考えられています。
開花日と都市温暖化の関係を見たい場合などは、ソメイヨシノのみが植栽されている地域に限定して解析をすることで、その関係や傾向を見つけやすいと考えられます。
最後に(&勝手に宣伝)
桜について何か書きたいな、、と思いつつ何も思いつかなかったので、今回は「データを見つける」ことでお茶を濁させていただきました。
配属からの半年間でデータを集めることがいかに難しいのかを学んだので、経験が生きたということにしてください👏。
昔の新聞を眺めていると、
「この商品のCMやたら見たな〜」と懐かしくなったり
「このアイドルが活動してた時だ!」と感動したり
「この本ってこの時期に出版されてたんだ」って驚いたり
いろんな感情が湧き出てきてなかなか楽しかったです。
探せば面白いものがもっと出てきそうなので、今後ものぞいてみようと思う次第です。
古い記事は、朝日新聞の社員しか見られないだろ?と思ったあなたに朗報です。
朝日新聞クロスサーチで見ることができます!気になった皆様は近所の図書館に駆けつけてみてください。M研の先輩方が尽力された「全国地域面の全文検索」(1991~1996)も利用できるようになっているらしいので、ご活用いただければ幸いです。
それではまた。
(メディア研究開発センター・河﨑真琴)