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元自衛隊メンタル教官が教える 職場が「人間関係の戦場」となってしまう3つの理由

 部長がパワハラした。部下が言うことを聞かない。働かない先輩がいる。同僚の一言にカチンときた、などなど。職場の人間関係は、なぜ、もめごとや悩みが絶えないのだろうか。「組織とは“役割の戦場”なんです」と話すのは、元自衛隊でメンタル教官で、『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)の著者でもある下園壮太さん。下園さんはある意味、日本で一番組織力を問われる場で、隊員同士のトラブルや心の不調をサポートしてきた。長年の経験からわかった、組織が“戦場”になってしまうメカニズムと、生き抜くためのコツを教えてもらった。(写真:Gettyimages)

■職場が「人間関係の戦場」となってしまう3つの理由

 誰もが人間関係が良好で、居心地のよい職場を求めていることでしょう。でも、それはあくまでも理想。私が考えるに、組織とは「役割の戦場」、職場の本当のところは「人間関係の戦場」です。

 その理由を、3つの視点からお話しします。

 1つ目が、「エネルギー」の視点。

 職場では、組織の目的を達成するために、それぞれのメンバーが活動します。活動をするとは、「エネルギーを使う」ということ。

 原始的な観点に立って考えると、人にとって、エネルギーを使い切ることは「死」を意味します。だから、その消費に関しては、とてもシビアになります。

 特にグループで活動する場合は、自分のエネルギーを出すだけの十分な「意味」と、十分な「報酬」を求めたくなる。だから、まず職場では、エネルギーを提供する側(部下)と、報酬を提供する側(上司)の、暗黙の戦いが生じやすい。

 2つ目が「報酬と評価」との視点。

 十分な報酬が与えられていればいいのか、と言うと、そうではありません。給料、やりがい、世間の評価など、人によって「十分」と感じる期待のレベルが違うからです。

 また、人は、使ったエネルギーに見合うだけの報酬をもらえる「期待」と、他の人に比べて報酬がどうかという「比較」に、非常に敏感になる。十分なリターンがないと、当然不満を持ちます。

 不満は「怒り」になりやすい。職場とは怒りの多発地帯でもあります。

下園壮太著『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)
下園壮太著『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)

■上司部下という「役割」が争いを拡大する

 職場の人間関係が難しくなる、3つ目の視点が「役割」です。

 上司は、部下にエネルギーの供出を求めなければならないし、部下は無意識のうちにそれに抵抗します。

 多くの場合、上司が役割を押し付け、部下が逃げるという構造になります。それが争いを拡大させてしまうベースになり、やがて行き過ぎると「服従するか、しないか」の争いになってしまいます。

 特に、上司には、「服従させたい気持ち」が生じやすい。そうなると、実際の仕事の割り振りよりも、「どちらが上なのか。俺だ。お前は下だ」というような、“上下関係の確認の儀式”になってしまう。この儀式は、クセになることも多く、はたからはパワハラに見えることもあります。

 また、役割をめぐる戦いは、同僚間でも生じます。もともと怒りが生じやすいところに、このような仕事や責任の押し付け合いがあったら、そこには争いが生まれる。表面的にはありがちなケンカでも、本音は原始人的な「やりたくない」という思いがあります。

 この戦場は「ゴリ押しできるメンタルと押しつけの技術」の優劣で勝負が決まる部分が大きい。そのため、負ける人はずっと負け続けることもある。そうすると悩みが深くなるのです。

■戦場を生き抜くためには何よりも「疲労のケア」

 この「戦場」を生き抜くために、何よりも大事なのは「疲労のケア」です。

 今、上司の立場にある人も、部下や後輩など下の立場にある人も、自分自身の疲労をケアすることが、とても重要になってきます。

 疲労がたまると、どんな人も、職場でのちょっとした出来事、小さな刺激に対して、大きく感情が働いてしまうからです。疲労の度合いが通常の2倍、3倍なら、感情も2倍、3倍の大きさで発生してしまいます。

「怒りの多発地帯」である職場では、疲れてくると人間関係がギスギスしてくるのは、このようなメカニズムがあるからです。

 また、職場や仕事に関係することばかりでなく、家庭や近所、プライベートでの疲労も、十分に意識する必要があります。

 例えば「ライフイベント」のストレスを考えてみましょう。身内の死、離婚、ケガや病気などの、大きなネガティブな出来事のあと、心も体も疲れてしまうのはイメージがつきやすいと思います。

【図】ライフイベントのストレス/『人間関係の疲れをとる技術』より
【図】ライフイベントのストレス/『人間関係の疲れをとる技術』より

 でも実は、結婚や家族の増加、昇進など、一般的にポジティブなライフイベントも疲労の度合いは意外に高いのです。人間は新しいことには、たとえプラスの出来事であっても、思っている以上にエネルギーを消耗するのです。

 そして疲労はたまりすぎると、麻痺して感知しにくくなるという特性があります。「自分は体力だけには自信がある」、という自衛隊員によくいるようなタイプの人ほど、意識して適切に対処する必要があるのです。

 上手に疲労をケアするポイントは、良質な睡眠、食事、休息、静かなストレス発散、などです。

 疲れているときは、飲み会や旅行など、発散系のアクティブな行動で疲労を回復しようとしてはいけません。一瞬、気持ちが晴れたつもりになっても、エネルギーをさらに消費して、逆に疲れが深まってしまいます。

 一番大事なのは、睡眠をしっかりとって、心と体を静かに休めることです。中高年ほど、「静的な疲労回復法」を心がけてください。自分自身の疲労のケアをするだけで、人間関係の問題が軽減したり、苦しみが減ったりすることが多いことを覚えておいてください。

(構成・文/向山奈央子)


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