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情報は“寸止め” 川田裕美の無理せず好かれるコミュニケーション術

 倍率1000倍とも言われる超難関のテレビ局アナウンサーの採用試験。職種を絞って就職活動に挑戦したフリーアナウンサーの川田裕美さんは、面接官になかなか関心を持ってもらえず悩んだ末、それが、自分の情報を出しすぎているせいだと気づきました。就活時の発見は、今でも川田さんを助けてくれていると言います。
 川田さん初のビジネス書『ゆるめる準備――場にいい流れをつくる45のヒント』から、自分の情報を“寸止め”することで相手との距離を縮めるコツを、本文の一部を抜粋・改編して紹介します。(川田裕美さん写真撮影/朝日新聞出版 写真映像部・加藤夏子)

川田裕美著『ゆるめる準備』(朝日新聞出版)

■面接官の興味が急速に削がれていく

 就職活動は社会に出ていく最初の関門。自己分析をして、初めて自分と向き合ったという方も多いのではないでしょうか。私自身もアナウンサーになるための就職活動を通じて、それまで自分が考えてきたやり方に固執せず、別の角度からほかの方法を探してみることで、可能性が広がるという体験をしました。

 その一つが、他者とのコミュニケーションです。

 それまでの私は、相手に自分の主張や想いを伝えたいときは、すべてを出しきらないと伝わらないと思っていました。でも、そうではなく余白も大切だと知ったのが就職活動だったのです。

 就職活動が始まってすぐの私は、エントリーシートに書けることはすべて書きこんでいました。書類選考を通過するために、「とにかく熱意を伝えたい」「私のことを知ってほしい」と考えていたのです。学生時代に体験したことや志望動機、どんなアナウンサーになりたいか。書くことが少ないと不安で、とにかくびっしり埋めるようにしました。

 しかし、そんなに自分のことを一生懸命書いているのに、面接に呼ばれて質問に答えると、「エントリーシートに書いてある話だよね」と、相手の興味が削そがれていくのを感じました。

 私は書いて埋めることで満足していたのではないか。「たくさん書いた」という作業自体に満足感を得ていたのかもしれない。面接官の反応を見るうちに、わかってきたのです。

 エントリーシートの目的は、私に興味を持ってもらうこと。面接に呼んで、話がしたいと思ってもらうことです。そのきっかけなのだから、この紙にすべてを書きこんでしまうのではなく、会って話すことを楽しみにしてもらえる“余白”を残したほうがいい、と考えました。

 それからは、エントリーシートに書くのは、アピールしたい話のキャッチフレーズと、簡単な説明のみ。「これって、どういう意味?」「このエピソードを詳しく、聞かせて」と相手がもっと質問しないとわからないように“情報の寸止め”をしてみました。

 読んだ人に「すごい」「文章が上手い」と思われなくてもいい。「なんだかおもしろそうだな」「不思議なことを言うなあ」で構わない。相手に一瞬「ん?」と立ち止まってもらったり、興味を持ってもらうことからコミュニケーションは始まる。そう気づきました。

■初対面で自然に距離を縮める話題

 いまでも、コミュニケーションの“余白”は大切にしています。特に初対面の方と会話をするとき。「私のことをわかってもらいたい」「親しくなりたい」という気持ちがあっても、その想いは半分くらいに抑えるようにしています。

川田裕美さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)

 逆の立場で考えても、相手に初対面でぐいぐいと自分の話をされたら、少し距離を保とうと半歩引いてしまいます。だからこそ、最初から自分の話を積極的にするのではなく、まずは相手の話を聞く。

 初対面の方と距離を縮めようとするとき、最初にする会話は、好きな映画やテレビ番組、マンガ、本、ゲームなど趣味性の高い話題にします。パーソナルなことでありながら、どこまで自分を出すかは相手にゆだねられる話題なので、どなたでも話しやすく、会話が広がったり深まったりもしやすい印象があります。

 好きな映画の話から相手の生活パターンが垣間見えたり、休日の過ごし方や家族構成の話題になったりすることも。ただ、とにもかくにも、まずは「私はあなたの話を聞きたい」ということを態度で示します。

 ですから、私のほうからいきなり「私は『魔女の宅急便』が好きで。生まれて初めて映画館で観た作品で、父に連れて行ってもらったからで……」と自分の話をしたりはしません。相手の話を聞いていて、もしジブリの話が出たら、相手が話し終わった後に、「実は私も……」というふうにキャッチボールを楽しみます。

 基本は「川田さんは、何が好きなの?」と興味を持ってもらってから話しはじめるようにしています。

■本心の“素敵”を少しだけ、がポイント

 人によっては、質問をしても、会話が弾まなかったり、歯切れよい回答を得られないケースもあると思います。

「聞かれることが苦手なタイプなのかな」と思ったら、次の話題に移らずに、いったん、聞くことをやめて、ちょっと意識を違うところに向けるようにします。

 とはいえ、全然難しいことではなくて、たとえば「ネクタイの柄、とても素敵ですね」「キレイにネイルケアをされているんですね」というふうに、相手の服装や持ち物などでパッと目についた「いいな」と思うことを伝えてみます。そのときもお世辞ではなく、本当に素敵だと思ったことに、ほんのひと言ふれるイメージです。

 この“少しだけ”というのも大事なポイント。

 本心としては、どこがどんなふうに素敵なのか、とか、もっとたくさんの言葉で伝えたくなってしまうのですが、関係性が深まっていないうちに、熱いトークで褒められると、相手は引いてしまいかねないからです。

 会話に乗り気ではないと感じたら、こちらから話すのをやめ、ただ隣の席に座っているだけ。短い時間のやりとりだけで、急速にぎゅっと距離を縮めようと思わなくていいのです。相手を自分のペースに無理に引き込もうとすると、必ずひずみが出てしまいます。 縁があれば、仲良くなれるタイミングはきっときます。相手も、自分のペースを大事にしてくれているな、と感じれば、少しずつ心を開いてくれると思います。

 人間関係において「焦らないこと」は、私が大切にしていることの一つです。

(構成/猪俣奈央子)


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