「10年間、お忙しいあなたの代わりに読んできました」という斎藤美奈子の最新刊『あなたの代わりに読みました』ってどんな本? 「はじめに」特別公開!
ネット書店の検索で「読書」と入力すると、ざっと1万件がヒットする。読書の効用を説いた本、効果的な読書術をレクチャーした本、古今東西の必読書を列挙した本。
驚きました。世の中には読書先生がこんなにいたのか!
彼らは唱える。書物は人類の知恵の宝庫、教養が身につくのは読書だけ、よりよい人生は読書から。その通り! しかし半面それは「教えたがり」が世の中にいかに多いかを示してもいる。同様に「教えたがり」が群雄割拠しているのは文章術の世界で、そのため私はかつて文章先生本を茶化した不埒な本(『文章読本さん江』)まで書いてしまった。
さて、本書はこうした読書先生本とはタイプの異なる本である。
まず、本書はいつか読むかもしれない(がたぶん読まない)教養書ではなく「いま起きていること」を知るための、同時代の本を取り上げている。
そして、私はもとより読書先生ではない。気分はむしろ読者の侍従だ。お忙しいみなさまの代わりに、とりあえず話題の本、気になる本を読んでみました。そんな気持ちで30年、書評を書いてきた。気分はほとんど読書代行業。
これが『あなたの代わりに読みました』という書名の由来だ。「だからあなたは読まなくてもいい」とはいってません。書評は映画でいえば予告編、2時間分の内容のエッセンスを1分でまとめたダイジェスト版みたいなものだ。予告編だけでもある程度内容がわかるのがよい書評だけれど、予告編はあくまで予告編である。
本書のベースになったのは「週刊朝日」の読書欄(「週刊図書館」)の連載「今週の名言奇言」(2013年2月〜23年5月)である。そこで取り上げた10年分、全490冊の中から154冊を選び、本のテーマ別に分けて収録した。Ⅰ「現代社会を深掘りすれば」では政治や社会に関連した51冊、Ⅱ「文芸書から社会が見える」では芥川賞・直木賞受賞作を含む話題の文学作品53冊、Ⅲ「文化と暮らしと芸能と」では知的好奇心をくすぐる本、暮らしや人生の指針になりそうな本50冊を紹介した。
各ページの見出しは、各書のキーワード(名言奇言)である。書誌情報は2024年4月現在の最新のものに改め、後日談がある場合は書誌情報の下に記した。
読書は昨日を省み、明日を生きるための糧である。あなたの関心にフィットした本が1冊でも2冊でも見つかれば、読書代行業としてこれほど嬉しいことはない。