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「小1ギャップ」に備えて、入学前に子どもに身につけさせたいこと

 保育園や幼稚園から小学校に上がると、環境ががらりと変わります。手厚く世話を焼いてくれる人はいなくなり、自分のことはすべて自分でしなくてはなりません。勉強、規律、集団行動……。こうした文化的ギャップにショックを受け、小学校がいやになってしまうことを、俗に「小1ギャップ」などと呼びます。
 東大合格者数40年連続日本一の開成中学・高校の元校長で、現在は北鎌倉女子学園の学園長を務める柳沢幸雄さんが著した『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(2018年、朝日新聞出版)から、「小1ギャップ」への備えや、小学校生活をのびのびと楽しみ充実させるためのヒントを、わかりやすく解説します。

 入学までに子どもに身につけさせたいのは、「大人に対する信頼感」です。

 親は、「大人は困ったときには手を差し伸べてくれる存在」「困ったときは助けを求めていい存在」だと、子どもにしっかり伝えてほしいのです。

 子どもというのは年齢が低ければ低いほど、自分の知っている世界に寄りかかっていたい、自分の知っている世界にいて安心していたいという気持ちがあります。ところが、小学校はそれまでの生活とは何もかも違いますから、わくわくやドキドキといったポジティブな感情と同時に大きな不安も抱えているのです。

 だからこそ、「困ったことがあったら何でも先生に相談していいのよ」「学校の先生はみんな子どもの味方で、一年生が入ってくるのを楽しみにしているのよ。うれしいね」といった声かけが重要になります。新しい世界は不安だけれど、そこにはちゃんと助けてくれる人がいるということが、子どもの不安をやわらげ、学校生活をスムーズにスタートさせてくれるのです。

 また、小学校では「自分のことは自分で」が基本となるため、困ったことや助けてほしい時、自分から声を上げることが求められます。そんな時、自分の言いたいことがきちんと伝わるよう、論理立てて話せることは本人の大きな助けになります。

 ですから、親は日常生活の中で、子どもの話す力が育つよう、できるだけ聞き手に回り、どんどん話をさせるよう心がけましょう。

 言葉足らずで言っていることが分からなくても、勝手に推測して「こういうことね」と話してしまうのではなく、「それはどういうことかな?」「誰がそう言ったの?」「いつ、そうなったの?」などのように丁寧に質問を重ね、子どもがちゃんとセンテンスをしゃべり切れるようにリードします。その際、英語の疑問詞である5W1Hを意識して質問すると、論理的に話す訓練になるでしょう。

柳沢幸雄『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』
柳沢幸雄『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』

 また、小学校に上がる際、男の子の親が心配するのが、「遅刻」と「忘れ物」です。

 これに関しては、親ががみがみ言うのではなく、学校の先生に協力してもらうのが理想的。忘れ物や遅刻をしたら、先生にしっかり叱ってもらうのです。痛い目に合わせなくてはいつまでも改善されません。

 たとえば、小さな子に「ヤカンは熱いから触ってはダメ」と言い聞かせるより、ちょっとだけ触れさせることで「熱いから絶対に触らない」と自覚させるほうが効果的です。忘れ物や遅刻も同じで、先生に叱られたり、恥ずかしい思いをすることで「もう、あんな思いはしたくないから、遅刻しないようにしよう」「前の日に時間割をそろえよう」となるのです。

 ただ、子どもの中には、叱られようが恥をかこうが一向に気にならないつわものもいます。そんな場合は、ペナルティーを課す方法が効果的です。たとえば、ゲームやテレビが好きな子なら「遅刻した日はゲーム禁止」「宿題をやるまではテレビは見られない」といった具合です。ただし、ペナルティーを課す場合は、親も約束を守らなければいけません。「いい機会だから、このままゲームは全面禁止にしよう」などというのはルール違反。信頼関係が壊れてしまいます。

 小1ギャップは子どものことと思われがちですが、実は親にもあります。

 たとえば、担任から「▽▽君は、◯◯がほかの子より遅れがちです」と言われたり、同じクラスのお母さんから「▽▽君だけ◯◯ができなかったみたいよ」などと聞かされたとき、ショックを受けてしまうのです。

 しかし、子どもの持つ才能や成長のスピードは千差万別。たまたま同じクラスだというだけで比較対象にし、優劣をつけるのはナンセンスですし全く意味がありません。それどころかいたずらに子どもの自尊心を傷つけてしまいます。この時期の成長の違いは、時が来れば必ず解消されます。

 だからこそ、周囲とわが子を比べて落ち込むのではなく、わが子の過去と現在を比較し、少しでも伸びたところに光を当ててほめることが何より大切です。そして、それができるのは親だけです。

 大人も同様ですが、苦手なことというのは伸ばそうと思ってもなかなか伸びず、無理強いすればさらに嫌いになるだけです。それより、その子が得意としていることをどんどんほめて伸ばしてやりましょう。得意なことで自信がつけば、それまで苦手だったことも克服する力になるからです。

 小学校は子どもにとって何もかもが未知の世界。常に不安や怖さを抱きながらチャレンジしているのです。親はそのことを踏まえたうえで、子どもが安心感と自信を持てるよう、フォローする姿勢が大切なのです。

(取材・構成/松島恵利子)

柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
1947年生まれ。東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、開成中学校・高等学校校長を経て2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。自身も男の子を育て、小学生から大学院生まで教えた経験を持つ。
主な著書に『東大とハーバード 世界を変える「20代」の育て方』(大和書房)、『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』(祥伝社)、『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、PHP文庫)などがある。


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