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プロ野球界から異業種への転身 公認会計士、宅建士、ライターだけじゃない意外な転職先

 正統派ノンフィクション『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』から、プロ野球本の奇書『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』まで、球界の表と裏を書き続ける長谷川晶一。2021年9月に発売された著書『プロ野球ヒストリー大事典』は、日本プロ野球の約90年にも及ぶ歴史(正史・秘史・俗史)を佐野文二郎の膨大なイラストと写真で明解にまとめた集大成(?)的作品。そのPART2「キーワード別 日本プロ野球史」から「異業種転身史」を紹介する。
(文・長谷川晶一/イラスト・佐野文二郎)

■うなる16文、「世界の巨人」から「ブルース・リーと戦った男」まで

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 現役引退後、プロ野球の世界から異業種に転身して、成功を収めた選手も多士済々だ。その筆頭として忘れてはならないのが1955(昭和30)年から59年まで巨人に在籍していた馬場正平。そう、後に「世界の巨人」として国際的存在感を誇ったプロレスラー・ジャイアント馬場だ。56、57、59年と二軍では最優秀投手賞を獲得する逸材だったが一軍では結果が残せずに現役を引退。その後、力道山率いる日本プロレスに入門し、その巨体を生かして大スターとなった。

 青汁のCM、「ああっ、マズい。もう一杯!」でおなじみの俳優・八名信夫は56~58年まで東映フライヤーズに在籍。その後、親会社である映画会社、東映からのスカウトで悪役俳優に転身。「長嶋や王に打たれるより、高倉健に撃たれろ」と口説かれたというのは有名な話。

 意外と知られていないのが、53~59年まで毎日、大毎オリオンズに在籍した橋本力。現役引退後、大映・永田雅一から「役者になれ」と勧められ、俳優に転身。背の高さを生かして『大魔神』のスーツアクターとして活躍。香港映画『ドラゴン怒りの鉄拳』ではブルース・リーの敵役として国際的存在となった。

 テレビタレントとして大成功を収めたのが、59~69年まで中日に在籍していた板東英二。70年にCBCラジオでパーソナリティーデビューを果たすと、その後はテレビ、ラジオに大活躍。俳優として、『金曜日の妻たちへ』に出演、篠ひろ子、小川知子の夫役を見事に務め上げた。その後、税金のことや頭髪のことでいろいろあったものの、ここでは割愛。武士の情け。現在では長嶋一茂が連日、テレビに登場、お茶の間をザワつかせている。

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 スポーツキャスターとして『プロ野球ニュース』を大成功に導いたのが高橋ユニオンズなどに所属した佐々木信也。寄席に通って話術を研究した努力が実った。

「野球選手は歌がうまい」という俗説を実証するようにムード歌謡の世界では、「マムシ」と呼ばれた巨人・柳田真宏、同じく巨人・藤城和明が有名。なんと藤城は「ムード歌謡の帝王」と呼ばれた『敏いとうとハッピー&ブルー』にメンバー入りし、メインボーカルを任された経験を誇っているのだ。

 意外な転身と言えば、東映、南海、阪神で現役を過ごした江本孟紀は、92(平成4)年にアントニオ猪木率いるスポーツ平和党から比例代表で出馬し、参議院議員となった。98年には民主党から出馬して再選。2期12年を無事に務めた。

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■公認会計士、宅建士、ライター、そして、犯罪を犯した者まで

 飲食業界に進出したプロ野球選手は枚挙にいとまがない。立教大学からドラフト1位で巨人入りした横山忠夫は現役引退後に、堀内恒夫の紹介で銀座のうどん店で修業を積み、母校のすぐそばに「手打ちうどん 立山」をオープン。「横山」をもじって「立山」と名づけて現在も大繁盛。

「巨人とうどん」で言えば、00~05年まで巨人に在籍した條辺剛。24歳で現役引退後、同郷の先輩である水野雄仁の勧めでうどんの世界に飛び込み、その後は讃岐うどんの本場・香川県で修業。08年に『讃岐うどん 條辺』を開店。暖簾に染め抜かれた店名は長嶋茂雄の手になるものとして有名だ。

 近年では、西武、巨人に在籍したデーブ大久保が新橋に「肉蔵でーぶ」をオープン。ヤクルト、西武、日本ハムを渡り歩いた米野智人は、現役引退後に「食の伝道師」として、東京・下北沢にヘルシー志向の自然食レストランをオープンした。21(令和3)年からは古巣・メットライフドームにビーガン専門店「バックヤード・ブッチャーズ」を開店した。

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 難関資格を取って新天地で成功を収めているのは98~01年まで阪神に在籍した奥村武博。13年に公認会計士試験に合格し、プロ野球出身者初の偉業を成し遂げた。また、お立ち台での「キモティー!」で人気だったGG佐藤は現役引退後、父親の経営する住宅測量、地盤改良会社に就職。新規事業立ち上げのために宅地建物取引士(宅建)試験に一発合格。

 意外なところでは、巨人、日本ハム、DeNAに在籍した林昌範は、現在では父の経営する船橋中央自動車学校の取締役となり、「東大出身」と話題になった元ロッテの小林至は、桜美林大学教授であり、福岡ソフトバンクホークス元取締役であり、江戸川大学教授、立命館大学客員教授などなど、さまざまな肩書を誇っている。川本良平はアパホテルのやり手ホテルマンとなり、鵜久森淳志はソニー生命の営業マンとして日々奮闘中。

 野球選手の形態模写が得意だったDeNA・高森勇旗は野球雑誌『野球太郎』で「ブルペンキャッチャー高森勇旗」の連載を持つスポーツライター、世界を股にかける実業家として活躍中。

 また、現役引退後に殺人を犯して現在も服役中のA、覚せい剤取締法違反での執行猶予を経て奮闘中のB、強制性交で逮捕されたCなど、新世界での生活になじめなかった者もいる点も念のため、指摘しておきたい。

長谷川晶一
1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(以上、集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『虹色球団 日拓ホームフライヤーズの10カ月』(柏書房)、『プロ野球語辞典 令和の怪物現る!編』(誠文堂新光社)、『プロ野球バカ本』(小社刊)ほか多数。
Twitter @HasegawSh