【手帳で悩んでいる方必見!】50代“意識低い系”ライターが「yPad」に出会ったことで起きた小さな奇跡
元々「いかんなあ」とは思っていた。
コロナ禍で取材も打ち合わせもリモートで行うことが増えた。すると、朝はギリギリまで寝ていられる。メイクもろくにしない。誰も来ないから家の中も放置→荒れる。夫婦ふたりとも「ホコリじゃ死なない」と思っているのでなおさらである。自慢ではないが“意識低い系”の自覚だけは充分にある。自己管理が下手。自己啓発とか自分磨きというキーワードは本能が脳にシャッターを下ろす。
だが、そんなダラけた暮らしぶりに喝を入れるアイテムが登場した。それも一冊の手帳である。
■時間を整理するための手帳
自己管理の弱さはプライベートだけではない。自営業なので複数案件の同時進行は大変ありがたいが、歳のせいか記憶頼みで管理するのもしんどくなってきた。一応Googleカレンダーで予定管理はしているが、どの仕事がどこまで進んでいて、今の最優先は何なのか、業務の組み立てがますますへたくそになってきている。
そんな私がyPadというスケジュール帳の存在を知ったのは今年に入ってから。恥ずかしながら、2010年からあったなんてまったく存じ上げず。しかも一度は廃版にしようとしたのを、好評につき復活させたというではないか。あぶないあぶない。知らないまま一生を終えるところだった。
yPadは横長のiPadサイズの冊子である。帯に「パッと開けばバーッとわかる」とあるが、確かにその通り。
左ページはいわゆるスケジュール帳で、縦軸が日付・横軸が時間。◯月×日、▲時から打ち合わせ、というやつだ。
右ページは案件ごとに進捗を書き込めるようになっている。左ページの日付と照らし合わせながら、この日までにこれをやる、という仕事の進み具合が「バーッとわかる」のである。
この手帳の生みの親、アートディレクターの寄藤文平さんによれば
「仕事の予定ばっかりじゃなくていい。趣味でも遊びでも、好きなことをして生きていくために、時間を整理するお手伝いになればいいと思っている」
とのこと。
これを、どうにも洗練されていない私の仕事管理に使ったらどうなるのか。まずはそこからやってみた。
■可視化された「時間の使い方」
それまでは複数の仕事を紙に書き出して管理していた。再利用紙を何枚かバインダーに束ね、1枚=1案件とする。作業の進捗やするべきことを上から下へと順々に書き足していく。終わったことは線を引いて消す。納品、校了が済んだらその紙を捨てる。
実に原始的だが、余白を利用して備忘録にしたり、とっさに連絡したい相手の電話番号やアドレスをメモしておくなど、まあそれなりに便利ではあった。
紙が何枚にもなるとわけがわからなくなるので、付箋をタブにして、すぐめくれるようにしていた。
それをまずyPadに移行させることにしたのだ。
1センチ×1センチのマスなので、スタンプがあると便利かもと思いシャチハタで次の4つのハンコを作った。
打ち合わせ
取材
〆切
校了
インクの色も変えて、なるべく楽しく、笑えるデザインで。
(もちろん、Googleカレンダーも並行して使っている。どこにいてもスケジュールが確認できるのは助かるし、スケジュール寸前にアラートが鳴るのが助かるからだ)
それで、仕事はどう変わったか?
正直なところ「劇的にはかどるようになった」ということはない。倍のスピードで原稿が書けるようになったとか「能力が飛躍的に伸びた」ことは残念ながらなかった(当たり前だ)。
だが、どの時間帯が空いているか、どの日に作業が集中しているかが一目瞭然になった。結果、自分の「腹積もり」がしやすくなったのだ。
例えば少しでも余裕のあるタイミングが見つかれば、どれを前倒しで進めようか考えることもできる。
「この日までは手がふさがっているので、できれば締め切りはそれ以降にしていただけると確実です」
なんていうヘタレな交渉も堂々とできるようになった。
■「時間の整理」に目覚める
こうして可視化された自分の時間を見つめてみると、仕事以外の時間に何をしているのかが気になりだした。
まず気づくのは、以前はいかに「移動」に時間をとられていたかということだ。東京郊外に暮らしているので、都心で用があれば最低でも2時間は移動に費やすことになる。では今、その浮いた2時間を有意義に使えているか? カオス状態のパントリーや食器棚の整理は進んだのか。答えはハッキリ『No』である。時間はできたかもしれないが、今度は「やる気」が、どこを探してもみつからない。やれやれ困ったものだ。そこで、仕事以外の時間もyPadで考えてみることにした。
問題に感じているのは大きく2つ。
倉庫状態になっている自室やクローゼット、パントリーの整理
運動不足と歯止めの利かない体重の増加
どれもこれも、大きなストレスになっている問題たちである。
特に運動は3日と続いたためしがない。深夜の通販番組で買った腹筋マシーンもホコリをかぶっている。だいたい、運動できない理由ならいくらでも思いつく。
汗だくになる→じゃあお風呂に入る前にすればいい?→大抵お風呂の前は食事だから、食後に運動するのは苦しそう→じゃあ昼間やる?→着替えるヒマなんてない……。
だが、yPadを眺めれば眺めるほど、隙間時間が可視化されてしまっている。そうか。ここに当てはめればいいんだ。
■タイマーとyPadで「コマを埋める」
まずリモート会議ギリギリまで寝て過ごすのを辞め、歩くことにした。
捨てるつもりだったスウェットの上下を発掘。日焼けがイヤだからサンバイザーを買った。身に着けてみたら、近所でよく見かけるウォーキングおばさんが完成した。
日々、歩く時間はまちまちだが、一週間やってみたら思いのほか爽快だった。汗だくになったらシャワーを浴びればいい。洗濯物は増えたが大変なのは洗濯機で私じゃない。
「この私が運動を?それも続いてる?」
まるで電車の車内広告である。
クローゼットとパントリーは隙間時間に1時間、スマホでタイマーをかけて着手することにした。ルールは簡単。
その1時間は何も考えず作業をする。雑念は意識して頭から追い出すこと。
タイマーが鳴ったら、強制終了。汗をかいていたらまたシャワーを浴びる。
まだまだ終わりは見えないが、果てしなさすぎてとても無理だと思われた「片付け」問題に着手できていると思うだけでも、ココロの暗雲が少しは薄れるというものだ。
若いころは想像もできなかったことだが、体力はもちろん気力、集中力、興味、関心、すべてが続かなくなっている。だが、1時間なら維持できる。
夏休みの宿題は最後の数日で泣きながら追い上げるタイプだったが、yPadに落とし込んでコマで見せられると、ひとコマずつ塗りつぶす楽しみがあっていい。それが何より「続いている」要因だ。
時間の使い方が変わって、無為に過ごしては自己嫌悪に陥ることが減ったように思う。
いや、相変わらずダラダラは好きだ。隙あらばダラけたいと思っている。だが、時間をコマ割りにしたことで「今はダラダラしていい時間」と、自分にお墨付きを与えられるようになった。これで胸を張ってダラダラできる(?)。
将来、仕事をしなくなってからも、このコマ割りがあると嬉しい。yPadには末永く、お世話になりたい所存である。
(文/浅野裕見子)