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【祝!初小説集発売記念 試し読み】俳優・長井短『私は元気がありません』表題作を一部公開

 俳優、モデルとしても活躍されている長井短さん初の小説集『私は元気がありません』が2024年2月7日(水)に発売されます。
ピン留めできない今に抗いもがき直面する、逃れられない生への恐怖、価値観を“アップデート”できない女子高生が“暴力的”な恋に落ちた数時間、学生時代の親友とのどうしようもなくしょうもない交流……。本書はそんな3篇を収録した、「長井短」の新たな文体と言葉に驚かされる1冊です。
 発売を記念し、表題作「私は元気がありません」の冒頭を公開いたします。32歳の主人公・雪が、高校からの友人・りっちゃんと過ごす夜。何気ない会話で始まる二人の家飲み会が徐々に奇妙さを露にしてゆく本小説冒頭をぜひお楽しみください。

長井短著『私は元気がありません』(朝日新聞出版)
長井短著『私は元気がありません』(朝日新聞出版)

「いってきます」で目が覚める。ダウンコートのカサカサが顎を掠めて、吾郎が出張に出かけるんだと思い出した。できるだけ、瞳に光が差さないように気をつけながら「いってらっしゃい」と返事をすると、もう一度カサカサが顔にぶつかって離れる。今何時だろう。二度寝の権利を引き摺り込んで、羽毛布団に深く潜った。次に目が覚めたのは昼過ぎだった。身体は重い。お酒を飲んだのは一昨日なのに、まだ体内にアルコールが残っている感じがする。「三十越えるとマジどっと来るよ」って言ってたのは三茶のどの店の人だったっけ。「わかる〜」とか言ってた去年の私はまだ身体の変化を無視できた頃の私で、もうあの時みたいに気軽にわかるなんて言えないと思った。変化についていけない。だから年相応にもなれなくて、きっと今夜も無茶をするんだろう。わかっていてもやめられないし、それは楽しみでもあった。りっちゃんが泊まりに来るまでにやることは沢山あると気合を入れて寝室から出ると、部屋の中はとても綺麗で立つ吾郎跡を濁さず。試しにシンクの排水口の蓋を開けてみると、きっちり新しい生ごみネットに替えられている。何故か、取り外したヌメヌメのネットは洗い忘れた鍋の中に入ってるけど。前言撤回。立つ吾郎は跡を濁す。吾郎のこういう、あと一歩でゴールしきれないところが好きだ。何に気を取られてこうなったのか聞きたい。帰ってきたら見せようと鍋の写真を撮ってから片付ける。それから締切間近のイラストを描いて、溜まったメールに返事をして、今やれることをとにかくやる。
 描いては送って飲みに行っての生活は騙し騙しながらも七年目。三茶で一人暮らしを始めた頃は、こいつら何で稼いでるんだろうと不思議に思っていた人たちの一員に、今私もなっている。プレゼント交換みたいに右から受け取った仕事を左に回せば、ある程度は食べ続けられた。その程度で十分だった。何か強烈な目標とか、野望があるわけでもないし、なんとなく食っていければそれでいい。他のみんなが何を考えてるのかは知らないけれど、納期さえ守れば私はうまくいった。そういう、先方と友人の中間みたいな輪の中で、フォトグラファーから回ってきたプレゼントが吾郎。「ブランドのルックブックにイラスト欲しいらしいんだけど雪ちゃんの話していい?」「いいよ!」「てか来れる?今飲んでる三茶」「行くわ」家から徒歩数分の馬刺し屋にいた吾郎と私はすぐに先方と友人の中間になって、さらにそこから友人と恋人の中間にもなった。あれから今年で三年。二人で住み始めた小ぶりの3LDKは笹塚で、遠くなっても私は三茶に通い続けている。メンバーが入れ替わっても、変わらず仕事を回し続ける。ほぼ横ばいの収入を、今年も確定申告に出さなくちゃいけない。だるすぎるからこれはまた今度にしよう。催促されてた請求書を出版社に送って、これでとりあえずは大丈夫。ようやく全てが片付いた時には日が暮れ始めていた。オッケー。残るは部屋の仕上げだ。せっかく吾郎が片付けてくれた部屋を、少しだけ元に戻す。クローゼットにしまったコートをソファにファサッとして、洗濯かごに入ってる靴下もリビングにポイッと。千駄ケ谷で買ったラクダのオブジェは寝室に移動させて、コップを三つ、無・造・作って感じで炬燵の上に置いておく。生活感は足りてるだろうか。最後に、壁に画鋲で止めている吾郎との写真を外した。熱海に旅行した時に、なぜか旅館の女将が撮ってくれたもの。肩を組んで並ぶ私たちは二人して目を瞑っている。あの女将、気配がなくてめちゃくちゃ怖かったんだよな。頼んでもいないのに「お写真を撮りましょうね」ってチェキを持って声をかけてくれるのはサービスなんだろうけど、チェックインのタイミングで突然フラッシュを浴びるのは心臓に悪い。セットされた簡易な日本髪が、顔と同じくらい大きいことも意味深だった。写真を撮る直前に吾郎が「絶対見ちゃだめだこれ」って囁いてくるのがおかしくて、私だけ吹き出したような顔になっているけどきちんと目は閉じている。お土産用と、廊下に貼る用。否応無しに撮られた二枚のチェキの片割れは、今もあの旅館に貼ってあるだろうか。幸い、霊的な何かは写っていない。「魔除けになるよこれ」と言って壁に飾る吾郎に「失礼だよ」って私は言ったけど同感だった。本当は外したくない。これのおかげで食い止められてることがもしかしたらあるかもしれないし。そうは言っても、この写真の歴史を全て話すことはのろけるってことな気がして、りっちゃんにそれはしたくなかった。親友に幸せな姿を見られることは、廊下でナプキン落とすみたいな気恥ずかしさがあるから。いい歳して情けないけど仕方なかった。外した写真は無くさないようにリビングの引き出しにしまって、いつもは電球色でつけているリビングの灯りを昼白色に変更する。食卓机の上になんとなく、不必要にチラシを置いてみたりすれば準備完了。りっちゃんに「いつでもおけ」とラインを入れればすぐに「一回家帰ってから行く」と返事が来た。働きたくないりっちゃんは「郵便局は残業がないからいいよ」っていう先輩の助言を信じてすんなり就職して、もうすぐ十年になる。実際どうなのか知らないけど、こうやって遊び続けられてるってことはあってるんだろう。会うたびに話してくれる常連のヤバいジジイは今月も元気だったかな。
 十六年九ヶ月前に、りっちゃんと出会った。高校一年、十六歳の時だった。出会う前の人生よりも、出会ってからの人生の方が長くなるってなんかめでたいけど、そんなつもりないうちにどんどん時間が流れているっていうことの迫力が凄くて感動できない。そこにあると思ってたあの頃が、気づけば視力検査の気球みたいに彼方に浮かんでいる。私とあの気球の間には、木とかビルとか色々あって、直近だと吾郎と旅行した沖縄の海もあるはずだ。でも、いつでも気球は何もない滑走路の先に浮いている。全部あの中にしまわれたんだろう。それがなんとも悔しくて、私とりっちゃんはよく過去を反芻した。授業をサボって食堂にいた時に出会ったこと。そこにアミが参戦したこと。先生が探しにきて机の下に隠れたこと。卒業式で泣けなかったこと。大学に馴染めなかったこと。アミが死んだこと。食べては出して、出しては食べて。そうしていれば、いつまでも消化されずに済む。どこかに消えていってしまわないように、きっと今夜も私たちは、吐いて噛んでを繰り返す。

 パンパンになったサミットの買い物袋を持って、りっちゃんはうちに来た。部屋着みたいなスウェットとパンツは飲みへの気合の表れで、首元で切り揃えられた真っ黒な髪からはシャンプーの匂いがする。私もお風呂に入っておけばよかった。慣れた手つきで炬燵にお酒を広げるりっちゃんと、おつまみを冷蔵庫にしまう私。キムチ、オクラ漬け、白菜漬け、蓮根の挟み揚げ。メニューは大抵同じで、何を買うかの確認なんて、もう何年も前からしなくなっていた。
「お疲れー」
 低い声でりっちゃんはそう言って、私たちは缶ビールをぶつけ合う。
「今日仕事?」
「うん、描いてた」
「家で仕事できんのマジ偉いと思うわ」
 炬燵に突っ込んでいた足を引き摺り出して真っ赤な靴下を脱ぐりっちゃんは、壁際に置いた自分のリュックに向かってそれを投げた。さっき私が洗濯かごから靴下を出したのと同じように。
「私からしたら毎日朝起きてんのが偉いよ」
「雪よく遅刻してたもんね」
「うん。無理だった」
「まぁ私は仕事だから朝から行くけどさ、窓口開ける前から並んでる人はマジ凄いと思う」
「でた」
「なんか速達かな?とか思うじゃん。違うからあいつら」
 絵を描くのが得意な私と、こなすのが得意なりっちゃん。私たちはお互いに自分の長所を仕事にした。不満はあっても何かを変えたいと思うほどのことではないし、このくらいでいい。適度に遊べる時間とお金があればいい。別にハワイとか行けなくてもいい。だからいつも、ここに並ぶお酒も食べ物も同じだった。うちらはこのくらいでちょうど良くて十分で、こうしていられればいつも通りに元気。
「てかまた吾郎出張?」
「そうそう。福井だって今回は」
「福井ってなんかあんの?」
「知らなーい」
 アパレル会社で働く吾郎は頻繁に出張した。私はその度、ここぞとばかりに友達を家に呼んだ。りっちゃんはもちろん、別の友達も。
「今日は朝帰って来ないよね?」
「あはは、大丈夫超確認したから。確実に明日の夕方以降」
 あぶねー!と言って、りっちゃんは笑う。私も笑う。二年前、初めてこの家にりっちゃんが遊びにきた時に起きた事件。出張だし、絶対夜まで帰ってこないと思い込んでいた私は呑気にりっちゃんと迎え酒をかましてて、そこに届いたライン。「東京駅着いたよ」血の気が引いて画面をそのままりっちゃんに見せると彼女の顔も即真っ白。大慌てで後片付けを始めたのだ。
「マジで何回思い出しても笑えるわ。あんなに急いで帰ったことない」
「ね。浮気相手のスピードだった」
「それ。えでもさ、うちらが一番足速かったのはあれだよね?」
 頬杖をつきながら、語尾をググッと持ち上げたりっちゃんが合図。どこからともなく開演ベルが聞こえてきた。
「ブフォ」
 わかりやすく、飲みかけていたビールにむせたふりをする。
「ねえ、箱根の?」
 りっちゃんの今の言葉に続く台本を、私も持っている。高二の文化祭でやった「黒雪姫」には、私もアミもりっちゃんも出なかったけど、私にはどうすればいいかわかる。
 雪 アミのデカフェ
 二人 アハハハハ
 もう何十回目かわからない。反芻しすぎた思い出は、ほとんど形がわからなくなっていた。
 律子「急いで」っつってんのにあのタイミングで「デカフェで」はマジで引いた
 雪 いやでもさ、にしても時間かかりすぎだったよね?
 律子 確かに。だって三十分くらい時間あったよね?
 雪 あったあった。覚えてるよ私。最終のロマンスカーが、確か八時くらいで
 律子 マジで走ったよね
 雪 あれはほんと世界陸上だった
 律子 織田の裕二

「てか最近織田裕二見てなくない?」
 ふっと思ったことを口にすると、急激に身体が帰ってくる。オートで飲み続けていたビールのせいで鳩尾の辺りが苦しくてブラのホックを外した。深く息を吸えるようになる。りっちゃんのスウェットも胸のあたりがやけに膨らんでいるから、きっと同じようにホックを外したんだろう。じゃあもういっそ脱いでしまえばいいんだけど、なんとなくお互いにそうはしなかった。
「見てない。何してんだろ」
 冷蔵庫からキムチを取ってきて開ける。本当は取り皿も持ってきたいけど、そんなことしたことないからやっぱりやめて、割り箸を適当に放る。
「なに?調べてんの織田裕二」
「違う違う、男」
「出た〜」
「ちょっと待って」
 真剣な顔で入力しているメッセージの送り先を私は知らない。りっちゃんは今、どんな人と一緒にいるんだろう。胸の下を擦り続けるワイヤーが鬱陶しかった。興味ないふりしてキムチを口に入れると、別にこれを今食べたいわけじゃないことに気づく。
「オッケーお待たせ」
 雪 それ固定?
 普通に「彼氏?」って聞けばいいのに、口から出るのは台詞だった。身体に染み付いている。前に三茶で舞台役者だっていう人と喋った時に「台詞忘れたりしないんですか?」って聞いたら「忘れても勝手に喋ってんだよ」とか言われて、カッコつけてんのかなって思ってたけどガチっぽい。としたら、私にも役者の才能があるのか?
 律子 一応?
 雪 ほ〜。いつでも名義貸すから
 律子 いや雪の方が必要でしょ名義
 雪 まぁそれは時間の問題
 二人 ギャハハハ
 律子 てか、この間初めて駅弁やったんだけど
 へぇ、今回は駅弁か。確か前回は青姦で、その前はなんだっけ。りっちゃんはいつも、新しい猥談を持ってきてくれる。違うシチュエーション。違う体位。今アツいおもちゃ。最終的に起きることはいつでも同じだけど。
 雪 マジ⁈いいなぁ〜
 律子 やんなよ吾郎と
 雪 やると思う⁈吾郎が
 律子 知らないよ。やれるでしょ雪別に巨漢じゃないし
 雪 やれないね。あいつ冒険しないから
 律子 うっそ〜
 雪 そういうとこぬるいんだよあいつ
 律子 あははは
 雪 でどうだった?
 律子 いやぁ〜正直普通?

 ほらね、と思うけれどこの反応は書かれていないから表現しない。
 雪 普通なの⁈
 律子 うん。なんか派手なだけって感じ。あれと一緒だよほら、あの〜
 二人 ナゴパイナップルパーク!
 律子 ねえなんでハモんの
 雪 いやこっちの台詞だわ
 律子 ……まぁあれは忘れらんないよな
 雪 悪い意味でね

 修学旅行で行った沖縄の、二日目自由行動。ガイドブックに載っていたナゴパイナップルパークの写真に「ディズニーランドじゃん!」と叫んだ私たち三班は意気揚々とパークに向かったのに、待っていたのはパイナップル畑を走るただの車だった。子供じゃないんだし、別にそれでふて腐れたりはしないけど、がっかりしたのは本当で、そもそもパイナップルってそんなにたくさん食べるもんじゃない。
 律子 結局何回乗ったっけ?
 雪 六回だよ、六人乗りだから
 律子 そうだマジで馬鹿すぎ
 雪 しかも五回目で〜?
 二人 トッパが吐いた!
 ※しばらく爆笑
 律子 マジで臭かった
 雪 ね。パイナップルの匂い全然負けてたもんね
 律子 てか、トッパあの後古賀ちゃんと海行ったってことでしょ?
 雪 え待って……そうじゃん!
 ※各々悲鳴をあげる

 今更確認するまでもない、どうしたって忘れられないそのエピソードは、私たちにとってすごく重要なわけではなくて、ただ一番吐きやすい場所にしまってあるだけだった。飛行機対策で大量のストッパを持ってきてたせいで、その日からあだ名がストッパになって、呼び辛いからトッパになっていった津田のことを、自分があの頃なんて呼んでいたのかは思い出せない。あだ名がつくより前から、ずっと津田はトッパだったような気さえする。そんなはずはないんだけれど。
 律子 てかさ……確かに自由行動だけど、普通あのタイミングで呼び出す?しかも海に
 雪 海だけどさ、ポジション的には校庭と同じだったからねほぼ
 律子 そうそうそう!うちらの部屋めちゃ見やすくなかった?
 雪 見やすかった見やすかった。だからめっちゃ人来たじゃん

 夕食前のぼんやりした一時間。「トッパが古賀ちゃんを海に呼び出したらしい」ってニュースはホテルの内線を使って一気に拡散されていった。急いでベランダに出れば、さすがはオーシャンビューホテル。夕焼けで赤く燃え始めた砂浜に、いくつかの人影が見える。みんなで水遊びしてる子達もいれば、カップルで寄り添っている子、走り回る男子。友達の輪郭が、延々続く砂浜に焼き付けられていた。
 律子 逆「学校へ行こう!」だったよね
 雪 あははマジでそれ!
 律子 んで振られんの早すぎるっていうね
 雪 秒だった〜え、てか古賀ちゃんって今どうしてんだろ
 律子 見てみるか

 ※二人、スマホを開く
 カーディガンのボタンを全てカラフルでチグハグなボタンに替えて一軍アピールしていた古賀ちゃんは、何年経っても私たちを楽しませてくれる。在学中も別に親しくはなかった彼女の今なんて、正直全然興味ないんだけど、それでもなんか、一応嗅いでおきたいものだった。
「え待って、結婚した!」
 台本はいつもこんな風に、変化があると自動的に終わる。古賀菜摘の章はまだまだ続きがあったけど、結婚したって新情報は無視できない。
「うそ!いつ?」
「えーっと、二ヶ月前の投稿だわ」
「マジか〜」
「ほら」
 クルリとこちらに向けられたスマホを見ると、そこには淡い水色のドレスを着て幸せそうに笑っている古賀ちゃんの姿があった。当然だけどあの頃みたいに、ドレスに付いた石をカラフルに付け替えたりはしていない。
「わ〜凄い」
「ね。なんか迫力あるね」
「そうか〜あの古賀菜摘も」
 も、の後に続いた沈黙が、空中に・・・を作り出し、点を追ううち台本へ乗り替わる。
 律子 あの、古賀ちゃんだもんな
 雪 そう、あの……
 二人 クラッシャー古賀!!!
 ※しばらく爆笑
 律子 え、古賀ちゃんはさ、いつからそんなヤリマンだったの?
 雪 私だって知らないよ!
 律子 高校ん時彼氏いたっけ?
 雪 いや、いなかったと思う
 律子 てか誰から聞いたんだっけそもそも
 雪 アミだよアミ。あいつだけは同窓会とかちゃんと行ってたじゃん
 律子 そうだ
 雪 なんかほら、1Bのいつメンでカラオケ行って、そん時相談されたんじゃなかった?
 律子 川田さんだっけ?
 雪 そう。川田さんの元カレと古賀ちゃんがヤって、
 律子 川田さんが原ちゃんに相談したら原ちゃんの元カレともヤってて
 雪 元カレ誰だっけ?
 律子 えーっと、長谷と、
 雪 委員長だ。ってことは、古賀ちゃんは長谷と委員長とまずヤって
 律子 あ、もう無理図にしよ
 ※雪、紙とペンをとってくる。悪意ある誇張をしながら相関図を描き出す
 律子 そのカラオケで岡部に迫り出したんだよね
 雪 そうそう。で、それ見てる遠山が怯え出して
 二人 遠山も黒

 初めて図にした時は描くのに時間がかかった似顔絵も、今ではすらすら描くことができる。この図はいつも、飲み会の終わりに冷蔵庫に貼って、吾郎が帰ってくる前に捨てる。もしあれを、ずっと貼りっぱなしにしていたら、冷蔵庫は今どのくらいの厚みになっているだろう。
 雪 やっぱ凄いよ古賀ちゃん。マジでやる気ある
「古賀ちゃんの結婚式ってヤバそうじゃない?」
 もっと描き込もうとしていた手が止まる。りっちゃんが急に今の話をし始めるから、私はここに何を描けばいいのか全くわからなくなってしまう。
「確かに。うわ気になるな……誰か結婚式行ったかね?」
「いやぁ〜クラッシュしたし呼ばれてなさそうじゃない?」
 アミが言うには、飲み会を重ねるごとに古賀ちゃんと関係を持つ男子が増えていって、なんか全員気まずくなって、まず男子が怖がって来なくなったらしい。ヤることヤって怖いってなんだよと思うけど、自分が全く特別じゃないってことはもしかして、みんなにとってショックだったのかもしれない。女子も女子で古賀ちゃんを恐れ始めて、あとはもう自然消滅。せっかくの同窓会なのに可哀想だったと、アミは他人事みたいに言っていた。
「そんなもんかぁ」
「雪はどうなの?吾郎と結婚とか、話す?」
「吾郎とねぇ」
 うんうんって、三本目の缶ビールを開けながらりっちゃんはこっちを見ている。ベルの音は聞こえない。
「まぁ、そうだなぁ」
「うん」
「けっ、こん」
 雪 でもなんかぁ
 さっき終えたはずの台本に、気づけば引き戻されていた。これはいつ書かれたものだっけ。窓に映る自分達の姿が映画のワンシーンのように見える。何度も何度も見たそのシーンは僅かに記憶と違っていて、自分の丸まった背中が少し、分厚くなっていると気づいた。
 雪 普通に考えにくくない?結婚
 律子 まぁね
 雪 でもあいつ急に極端なとこあるから怖いわ
 律子 あはは
 雪 また絶対、なんか断れない感じで仕掛けてくると思うんだよ、プロポーズも
 律子 セフレから大ジャンプだもんな
 雪 え、あれやっぱ狡くない?
 律子 まぁ狡い、っていうか上手い
 雪「もう遊ぶのはやめてさ、ちゃんと雪と付き合っていきたい。だから一緒に住もう」だよ?
 律子 堅い堅い!
 雪「一緒に生きていきたい」
 律子 重い重い!
 雪 しっかりコンビニでコンドーム箱買いしてきた奴が何言ってんだよって
 律子 でもそれで実際ちゃんと付き合ってるわけでしょ?吾郎も雪も
 雪 いやだってさ、その状況で「付き合うけど今まで通り遊んだりはするかも〜」とは言えないでしょ
 律子 無理だわ流石に
 雪 でしょ⁈
 律子 いやでもすごいと思うよ。偉いし、そうやってちゃんと吾郎の為に変わるって
 雪 まぁね?
 律子 ちゃんと良い子にしてるわけでしょ
 雪 そりゃそうだよ、きちんとお付き合いしましょうって決めたんだから
 律子 おぉ〜
 雪 ……ここ捲ってみて
 ※ 律子、炬燵の裾を捲る
 律子 出たよ!
 雪 アハハハハ!

 あらかじめ、埋めておいたのはフィンガークロス。こうしておけば嘘をついても大丈夫って、海外ドラマで習ったのは十七歳の時だった。
 律子 まぁ無理だよねうちらは
 雪 無理だよ、覚悟なんて別にないし

 フィンガークロスで嘘が許されるんだとして、じゃあこの十字架自体が偽物だったらどうなるだろう。りっちゃんに向かって真っ直ぐ十字を掲げる姿が、窓の中に収まっている。あれは私なのに、勝手に動き出してしまいそうで怖かった。彼女の方がずっと、何を言えばいいかわかっている気がする。伝わってくる冷気が嫌だってふりをして、とっくに閉じてるべきだったカーテンを閉じた。昔観に行った歌舞伎?みたいなやつで、休憩前にカラフルな幕が右から左にさぁっと引かれたのを思い出して、私もそろそろ休憩したい。上演時間はもう三時間を超えていた。

 六本セットの缶ビールは、全て空になっていた。台詞の進行と小道具の消費ペースはほとんど完璧と言っていい。りっちゃんの顔は少し赤くなってきていて、私もちょっと身体が重たい。一度無意味に酎ハイを挟んでから、いよいよ大本命マグナムワインの開栓に私たちは歩み出す。
「とってきて」
「やだあんたの家じゃん」
「じゃんけん」
 ぽん! で負けたのはりっちゃん。文句を言いながらキッチンに向かう背中になんとなく靴下を投げると小さく舌打ちが聞こえた。それが合図みたいにスマホが光る。
 飲み会楽しんでる?こっちは寒いけど気持ちがいい〜蟹が有名らしいから買って帰る!
 吾郎からのラインだった。様子を送ってあげようとロックを解除すると、さっきまで見ていたフェイスブックが飛び込んでくる。もう何年も、なんの投稿もしていないこのアプリを消さずにとっておいているのは、ただこの夜の為だ。十数年前には毎日賑やかだったホーム画面は閑散としていて、誰かも思い出せない謎の男性しか更新を続けている人はいない。マイページに飛んでみると、プロフィールは大学時代で止まっていた。私は一体、いつから更新してないんだっけ? それを確かめるため、っていう体で、スクロールを続ける。本当の目的は他にあることを私は知っているけれど、三茶の舞台役者が「毎回、今日が初めてみたいな気持ちでやるんや」と言っていたから。だから、何も覚えてないふりをして、十年分の「HBD:)」を見送っていけば。
 結局こいつらと年越し〜64のせいでカウントダウン忘れたのマジばかwww来年は絶対やらないwww
 それは、私とりっちゃんをタグ付けして、アミが投稿したもの。2012年12月31日。え〜こんな投稿あったっけ〜とは流石に口に出さないけれど、私はただその画面を見つめたまま固まる。りっちゃんが、受け取ってくれるのを待つ。
 律子 見た?
 雪 見た

 年を三人で越したのはこれが最後。この年の春にアミは車に撥ねられて死んだ。「彼氏作って一抜けするのは絶対私」とか言ってたアミは、全然違う理由で一抜けて、宣言通り来年はやらずに済んだ。バッカみたいで、別に言葉は見つからない。
 律子 やめなってそれ見るの
 雪 うんでも、急に出てきちゃうんだよ
 律子 嘘だぁ
 雪 うん、嘘だけど。うぅ〜

 呻き声をあげたって、私は役者じゃないから顔はカサカサ。出ていってくれない涙の分、私はもっと声を出す。
 雪 うぅ〜
 律子 うぅ〜
 雪 うぅ〜
 律子 うぅ〜

 気づけばりっちゃんの顔も、同じ色に照らされていた。彼女の顔も乾いたまま。二人揃って涙を流したのは、お葬式の日が最後だった。むちゃくちゃ人が来てて、私たちが知らないアミがこの世界には沢山いるんだって思い知ったあの日。なんかそれすら悔しくて、うちら以外の友達全員憎くて、だからお通夜で全テーブルのいくらを盗んで冷たいアミの真上で食べた。「いいでしょ〜」って自慢する声は次第に膿んで、いくらが割れるたび涙が出る。あの日から、いくらを食べていない。
 雪 あー
 律子 あー

 もうすぐ十年経つ。私たちは同じ声を上げようと懸命に意識を集中させる。画面を見れば見るほど目は乾いて霞んでいく。こんなことしても絶対アミは蘇らない。喜びもしないだろう。それでも毎回、投稿を見て呻くのは、ほとんど儀式のようなものだった。
 律子 だめだね、こんなことしてちゃ
 雪 ほんとだよ

 乾燥した鼻を啜る。どちらともなくワインの栓を抜けば、密閉されていたアルコールが部屋の中に広がって、現実に戻る。
 律子 むっちゃくちゃ飲みたくなってきた
 雪 私も。あれを超えたい
 律子 伊豆?
 雪 そうそう
 律子 てかマジで、あん時なんで64持ってきたんだよ
 雪 いやだって、うちらと言えばじゃん
 律子 としても旅館に64は頭おかしいわ

 瓶に直接口をつけて流し込む。そのままテレビ台から64を引っ張り出せば、りっちゃんが「出たよ〜」と天を仰ぐ。それを無視して「いくぞぉ〜」と言いながら電源を入れる。一発で起動してくれないところが、私たちよりずっと生き物らしく思えた。
「前回どこまで行ったっけ?」
「ストーリーモードじゃなかった?」
「うわーそうだなんかコイン何千枚か集めなきゃいけないんだよね?」
「そうだ〜」
 雪 これ一生ミニゲーム出せないんじゃないの?
 律子 マジで何年やればいいんだよ
 雪 私これ八歳の時だからねもらったの
 律子 サンタからでしょ?
 雪 そうそう

 二十四年もののNINTENDO64とマリオパーティ。いつだって真剣にゲームをやっているけれど、一向に最後の隠しミニゲームは出せそうにない。それでもこうやって、二人で頑張っていたい。なんの意味もないこの時間をずっと繰り返したい。その思いとは裏腹に、胃のあたりはずっしり重くて今すぐにでもトイレに駆け込みたかった。
「これ吾郎とやったりしないの?」
「しないね」
「やればいいのに」
「吾郎とは普通にスイッチやるから」
「あ〜そういうね」
「そうそう」
 雪 こういう楽しみ方できる人じゃないんだよあいつは
 ワインが溢れてきそうでもう無理。私はできるだけ自然な感じで「トイレ〜」と言って、全く焦っていませんよ?と背中で語る。ゆっくりリビングを出る。玄関のすぐそばにあるトイレに入って、跪いて、左手で髪をまとめる。ここまできても気は抜けない。「ウォエ〜」なんて音を出したら吐いてるってりっちゃんに気づかれちゃうから、とにかく音が出ないように慎重に指を差し込んだ。私の思いに身体も気づいて、ゲロはゆっくりと食道を迫り上がる。喉を通って口に出て、便器の中にゆっくり落下。あまりにもスローなゲロの動きにイライラする。あ、また来る。胃の中から塊が、ゆっくり押し出されて登ってくる。私はただ口を開けたまま出現を待つ。ボトン。こうして跪いていれば永遠に出せそうだけど、あんまり長居するとりっちゃんにバレてしまうから。もっと吐きたい気持ちを堪えてトイレを出た。何も食べたくないけれど匂いを味で消したくて、冷凍食品をチンしてみる。そのまま距離をとってゲームを見つめる。
「いいにお〜い」
 りっちゃんは、私が吐いたことに気づいているだろうか。画面から目を逸らさずに、淡々とサイコロを振り続ける後ろ姿は一見あの頃から変化なしだけど、分厚いトレーナーの下にある肉体は少しふくよかに見えた。
 
 下半身だけ異常に暑くて目が覚める。散らかり倒したリビングの中で、りっちゃんはぼんやりスマホをいじっていた。
「何時」
「十二時」
「うーわ」
 昨日も結局隠しミニゲームは出せなくて、腹立ちをポケモンスタジアムにぶつけた。それで、確か二人で横になりながらなんか喋って、ワインが空になって、終わり? 私何喋ったんだろう。昔なら同じ量を飲んでも記憶は全然あったのに、年々思い出せなくなっていく。それをりっちゃんに告白できないのは今日も同じ。気持ち悪いし頭痛いけど、でもちゃんと、いつも通り飲み会を完璧に終わらせたいから。
 雪 よし飲むか
 律子 迎えるかぁ

 飲むかって言っただけでもっと気持ち悪くなる。ひとまず寝起きのトイレですよ?って感じで直行、もちろん座らず跪いて汚そうな指を口の中に突っ込んだ。ゆっくり。ゆっくり。ボトッと落ちたゲロは赤くて、でもなんかすごい固形で、何を食べたらこうなるんだろう。おつまみくらいしか食べてないのに、体内で錬成されたその塊は油を纏ってるみたいにテカテカしていて気持ち悪い。これ見ながらならなんぼでも吐けますわ。吐いては拭いてを繰り返すうちにトイレットペーパーは空になった。補充のために立ち上がると、さっきまでは見つからなかった別の固体を体内に感じてもう一度吐く。これなんだよマジで。
「りっちゃんビール?」
「もち」
 カーテンを思いっきり開けて窓も一緒に開ける。差し込む日差しと抜けていく風が気持ち良くて、少しだけ気分が良くなった隙にえいやとビールを流し込んだ。
 律子 効く〜
 雪 まっじっで効く
 律子 片付けるかあ

「えいいよそのままで」
「そんな寂しいこと言わないでよ」
 咄嗟に飛び出た思いやりは、りっちゃんを置いていくには十分で、それに寂しいとか言えちゃうくらいにりっちゃんも今限界なのかもしれない。めちゃくちゃしんどい。
「嘘だよやれよ」
「なんだよ〜ちょっと見直したのに」
 私が食べ物、りっちゃんが飲み物。昨日の余韻はあれよあれよとゴミになる。
 雪 ねえこれ忘れてたんだけど!
 芝居がかった大声で冷凍ピザを引っ張り出せば、エピローグが開演する。
 律子 ねえ〜!それめちゃくちゃ食べたかったんだけど!
 雪 いや言えし
 律子 え言いにくい
 雪 は?絶対嘘じゃん
 律子 言いにくいよ……お客さんだもん……
 雪 一っ回も思ったことないでしょそんなん
 律子 あバレた?
 雪 バレるわ普通に。どうすんのこれ。食べる?
 律子 いや今はいらない
 雪 それ昨日も言ってなかった?
 律子 言った
 雪 本当はいらないんじゃないの?食べたいのこれ?
 律子 食べたい!
 雪 じゃ食べなよ
 律子 今はいい
 雪 ねぇー!
 律子 次までとっといて
 雪 いや邪魔だから
 律子 吾郎と食べちゃっていいよ
 雪 食べないよあいつこれ
 律子 なんで?
 雪 美味しくないからぁ〜とか言うんだよ
 律子 めんど!

 台詞に合わせて身体を動かし続ければ、部屋は大体綺麗になって、さっきまで澱んでいた空気もほとんど入れ替わったようだった。広くなったリビングで二人、今度はソファに座ってテレビ見ながらビールを飲んで、あとはりっちゃんのタイミングでこの飲み会が終わるのを待つだけ。今回も楽しかったねってなんとなく感想戦しながら、次は絶対クリアしようねって一応誓い合ってみたりして。
「じゃ、また出張の時教えて」
「うん。りっちゃんの家も行かせてよ」
「いや、これは雪の家でやるもんじゃん」
「ずるくない⁈」
「あはは。まぁそのうちね。じゃまた〜お疲れ〜」
「気をつけてね」
 バタン、とドアは閉まる。さぁ思う存分吐いちゃうぞ。トイレに入るとさっき替えたばかりのトイレットペーパーはまた空になっていて、そのままそこに座り込んだ。 

 隠しておいたデカいポカリを持ってベッドに沈み込んでから、どのくらい時間が経っただろう。気持ち悪さで意識が冴えてくるたびに、今見ていた光景が夢だと気づく。今、りっちゃんと大喧嘩して私は泣いているけどなんだこれは夢だ。今、吾郎と大喧嘩して私は泣いているけどなんだこれは夢だ。今、急に前歯が抜けて終わったと思ったけどなんだこれは夢だ。その度安心してトイレにゲロを吐きにいく。こんなになるまで遊ぶのはもうやめようって何度思ってもゲロと一緒に流れてしまうから反省は一向に刻まれないままだった。何度目かにトイレに行った時、リビングの方に人の気配がして、吾郎が帰って来たんだとわかる。おかえりくらい言いたいけれどそんな元気はまだなくて、そぉっとバレないように寝室に戻った。次に目が覚めた時、家の中は鍋の匂いで満たされていて、ってことはもうすぐ吾郎が私を起こしにくる。喉はカラカラで、だけど抱いてるポカリはもう空だった。あれだけ吐いたんだから当然だろう。リビングに行けば、飲み物はいくらでもある。でもそこまで行くのが億劫で、それは肉体のせいだけじゃない。いつだって、りっちゃんと飲んだ後は吾郎に会うのが後ろめたくて、彼が迎えに来てくれるまでここから動けない。何も悪いことはしてないけど、こんな姿を見せるのが恥ずかしいし、それにやっぱり悪いことはしてるんだろう。台詞で言った吾郎の悪口が脳内でどんどん再生される。少しでも楽になりたくてベッドの中で冷たい場所を探すけれど、こもった布団の中はどこも生ぬるくて、手足を外に投げ出す以外方法はなかった。早く迎えに来てほしい。すぐそこにいるんだから。耳を澄まして、二枚のドアの向こうにいる彼の気配を探ってみる。時々、歩き回る音が聞こえる。水を流す音が聞こえる。今料理はどの段階だろう。こんなにいい匂いがしているのなら、完成はもう間近なはずだ。それでも、吾郎は一向に寝室に来なかった。いよいよ喉の渇きに耐えられなくなって、一思いに羽毛布団を捲ってみる。私を覆ってくれるのは臭いパジャマ一枚だけだと思うと無性に不安になって、寒くもないのに部屋着のカーディガンを上から羽織った。一応顔くらい洗ってから行くか。皮脂を水で濯ぎ落として顔を上げれば幾分かスッキリして、瞼がしっかり持ち上がる。なのに鏡に映った自分は分厚い眼鏡とむくみのせいでおじさんみたいだった。え、こんなに? こんなに影響がありますか? たった一晩で? 同棲して二年と言えど、流石にこれを見せるのは恥ずかしい。でもコンタクトを入れる元気はない。幸い、お酒のおかげで唇だけは可愛く真っ赤に染まっているから、ここと、寝癖でウェーブした髪の毛だけ見てもらえますようにと都合よく考えながらリビングのドアを開ける。

※最後までお読みいただきありがとうございました。続きは2024年2月7日(水)発売の長井短著『私は元気がありません』(朝日新聞出版)をお読みください。

長井短(ながい・みじか)
一九九三年生まれ、東京都出身。俳優、作家。雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍する。他の著書に『内緒にしといて』がある。小説集は本作が初となる。

■長井短・著『私は元気がありません』
■2024年2月7日(水)発売予定
■1760円(本体1600円+税10%)
■ISBN 978-4-02-251964-1
■内容紹介
 なんでみんな平気なの?怖くないの?私は、自分のお気に入りの私から離れたくない。最高だったって瞬間を過去にしたくないの。
「長井短」にしか描けない言葉が躍る、恋と友情、怒りと怠惰の小説集。
変わりたくないというピュアな願いが行き着く生への恐怖を描いた表題作に加え、“アップデート”する時代についていけない女子高生が“暴力的”な恋に落ちる「万引きの国」、短編「ベストフレンド犬山」を収録。


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