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川田裕美「人から見た自分」と「自分が思う自分」のギャップに悩んだ過去

 ビジネス書『ゆるめる準備』――タイトルだけ見ると、仕事にプライベートにがんばりすぎず、適度に力を抜いて生きることを勧める本だと思われるかもしれない。しかし同書の著者、フリーアナウンサーの川田裕美さんは言う。

「ゆるめる、というのはお休みするという意味ではないんです。もちろん、だらけるという意味でもなくて、“きりっ”とお仕事に臨むために必要な準備です。自分のなかにあるギアをゆるめるイメージで、そうしておくと思ってもみなかった発想が出てきたり、周囲の人とのコミュニケーションが円滑になったりします。私は“きりっ”と“ゆるめる”のメリハリを大事にしていますね」

 川田さんといえば、MCアシスタントとして番組を進行し情報をわかりやすく視聴者に伝える仕事ぶりが評価される一方、バラエティ番組に出演しユニークな一面を見せている。どの番組を見るか、どんな顔を見ているかで、視聴者が持つイメージも異なる。

 同書では愚直なほどの努力を重ね、背筋を伸ばして仕事に取り組むという、新たな一面をうかがい知ることができた。

「自分自身が思っているセルフイメージと、ほかの人から見た自分のイメージに違いがあることがすごくイヤな時期が私にもありました」

 これは多くの人が共感するのではないか。川田さんは10代のときから悩んできたが、その後アナウンサーという職業を志し、就職活動中に自身を見つめ直し、アナウンサーとして仕事をはじめてからも悩んだりつまずいたりしながら、自身のスタイルを確立してきた。

「だから現在は、どちらの面もあっていいんだと思えるようになりました。いろんな人からそれぞれ違うことを言われても、自分には二面どころか三面も四面もあるんだ!と、うれしいこととして受け取っています。それが自分の自信にもなっていますね」

 落ち込んだときの回復法もまた、“川田流”である。

「周りに相談したり、自分自身としっかり向き合って考えを掘り下げたり、みなさんそれぞれのやり方があると思いますが、私の場合は、自分を幽体離脱させるんです。もちろん本当にそういうことができるという意味ではないですよ。自分から自分をふわっと抜け出させて、遠くから俯瞰で見てみるんです」

 番組の収録や生放送では、常にいろんなことが同時に起きる。それゆえ「ピンポイントの狭い視点」「全体を俯瞰する視点」「自分自身を客観的に観察する視点」などいろんな視点を切り替えながら番組を進行させている、川田さんらしい対処法とも言える。

川田裕美著『ゆるめる準備』(朝日新聞出版)

「そうやって自分を見直すと、どうしようもない悔しさで泣いているのか、実はちょっとしたことで解決できる些細なことで悩んでいるのか、もしくは泣いている自分に酔っているだけなのか……といったことがわかるんです。観察しているうちに、たかぶっていた感情が徐々に落ち着いてきます。とことん悩む日があってもいいと思うのですが、大事なのは次に何をすべきか、そこに自分の気持ちをどう持っていくかを探ることですよね」

 大事なのは切り替え、と川田さん。仕事柄、今日の現場が終われば、明日は違う現場で仕事をする。

「その日の失敗はその日のうちに何が悪かったを考えますが、それほど落ち込まない失敗というのもあって、それについては特に掘り下げず、気持ちを切り替えるようにしています。自分が満足のいく仕事ができたなら、いいことも悪いことも引きずらない。いいことも要注意で、今日できたことが明日もできるとはかぎりませんよね。それは今日できなかったことが明日できるかもしれないということにもつながると思います」

 この潔さも、多くのタレント、キャスターから「また一緒に仕事がしたい」といわれる所以だろう。

 現在は、テレビの仕事だけでなく、YouTubeで子育て情報を発信してもいる。

「昨年、第一子を出産したのですが、ちょうど新型コロナが蔓延しはじめた時期と重なって、自分が予定していたよりも産休育休を長くとることになりました。はじめての子育て、さらにコロナ禍もあって不安も強かったのですが、私がそう感じているということは同じように感じて、いろいろと検索している人もいるはずだと思ったんです。そんな人に『私はこうだったよ』というのを届けたくてはじめましたが、同じように子育て中の女性からコメントをいただいたり、小児科の待合室で一緒になった方から『見てます』と言っていただいたりするのがうれししいですね。」

 テレビとは違う双方向的なやり取りがあるからこそ、同時に気遣いも怠らない。

「テレビは私のことを見たいと思っていない方でもスイッチを押すと私が目に入る可能性がありますが、YouTubeやブログは私自身に興味をもってわざわざアクセスしてくださる方が多いと思います。だから自分のパーソナルなこと、特に息子のことや子育てについて発信しています。それで喜んでくださる方もいますが、一方で見た人はどう受け取るだろう、誰かを傷つける発信になっていないだろうかということを常に忘れないようにしています」

 キャリア15年目を迎えるいまも、新たなチャレンジをつづけている川田さん。「初心者にかえる」のはどういうときだろう。

「関西に帰っているときですね」

 大阪育ちで、アナウンサーとしてのキャリアをスタートさせたのも、大阪の読売テレビ。いわば川田さんにとってはホームである。

「いつでも戻れる場所、家族のようにいつも待ってくれている場なので、つらくなったら帰ろうって思えます。しょっちゅうは帰れないんですけど、心の寄りどころになる場があれば、つらいときにも踏みとどまれますよね。テレビを見てくださっている方のなかには、私のことを娘か孫のように思われている方もいて、ロケ中に話しかけられることもしばしば。その距離の近さが関西だな~って感じますね。ありがたいことに、いまでも大阪の仕事はたくさんいただきますが、そのたびに身が引き締まるような想いでいます」

(取材・文/三浦ゆえ、写真撮影/朝日新聞出版 写真映像部・東川哲也)


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