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すぐに怒る=ダメ親ではない 「親子バトル」が「親子パワハラ」にならないためのコツを自衛隊メンタル教官に聞いた

「子どもが自分の思い通りに動かない」時、親はついイライラしてしまうもの。しかし「イライラ」を親自身が上手に取り扱わないと、「親子パワハラ」となって、子どもを深く傷つけてしまいます。子育てのコツについて、『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・疲れをとる技術』著者で、心理カウンセラーの下園壮太さんが語った。
(タイトル画像:Hakase_ / iStock / Getty Images Plus)

下園壮太著『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・疲れをとる技術』(朝日新書)

■親子バトルは健全なこと、怒ってしまうからダメな親ではない

 勉強やスポーツ、進路、生き方。食事、寝る時間、歯磨きなどの生活習慣にいたるまで、子どもが思い通りに動かないとき、親はひそかに「怒り」を抱えてしまいます。

 自分の「イライラ」や「怒り」が抑えられなくて、子どもをガミガミ怒鳴ってしまう。その挙句に子どもが反発しようものなら、売り言葉に買い言葉、親子バトルに発展してしまった……。心当たりがある人は、とても多いのではないでしょうか。

 親子とは、多かれ少なかれ、バトルをくりかえしていくのが自然な姿です。

 基本的に、保護者は自分の子どもを支配下に起き、コントロールしたいという欲求を持っています。

 一方、子どもは子どもで「自分で人生のチョイスをしたい」「保護者とは違ったことを選びたい」という欲求を持っています。

 親子が衝突してしまうのは避けられません。バトルを繰り返して、少しずつ保護者は手を離していき、子どもは鍛えられて自立していく。それが、親子の健全な姿だと思ってください。

 ケンカするから、すぐ怒ってしまうから、といって、ダメな保護者だということは決してありません。

 ただし、親子バトルとは自然なものですが、通常子どものほうがストレスを強く感じます。親と子では、上下関係がはっきりしているからです。

 金銭面でも生活面でも、保護者に依存しているのが子どもの立場。会社で社員が上司に主導権を握られているのと似ています。

 優越的な地位を背景に、相手につらいことを強要していくのがパワハラなら、子育ても、パワハラが生じやすい構造になっています。

 それでは、親子関係をパワハラにしないためにはどうすれば良いのでしょうか。

■「言うことを聞かない子ども」の背景には何がある?

 まず何よりも大切なことは、保護者自身が疲労を溜めないこと。親自身が疲れていると、どうしても物事を大きな目で見られなくなります。

 子どもが小さいうちは大変手がかかります。少し大きくなると、今度は価値観のぶつかり合いです。子育ては、それ自体が大変エネルギーを消耗しますから、ただでさえ仕事や家事で疲れているときには、一気に疲労感が募ります。

 すると、子どもが言うことをきかなくても普段なら流せるのに、疲れていると怒りの沸点が低くなりますので、瞬間的にキレたようになって、子どもを威圧して言うことをきかせようとしてしまいます。これが続くと「親子パワハラ」になります。

 親はとにかく、イライラしてきたら、自分自身がしっかり休み、質の良い睡眠をとるようにしてください。

疲れてきて「2倍モード」になると、親もつい感情的に子どもを叱ることが増えてしまう。だから、親も子も疲労のケアがまずは大事

 そして同じように、「言うことを聞かない子ども」も、「疲れているのかも?」という観点から見てあげてください。

 一見わがままや怠けグセのようであっても、子ども自身が疲れている可能性はとても高いです。特に、現代の子どもたちはいろいろと疲れていますので、食事や睡眠をきちんと取れているか、休めているか、観察して気にかけてあげてください。

■「子どもの話を聞いている」と言う親が本当はできていないこと

 親子間で問題やトラブルが生じたとき、双方が怒りの応酬にならないための、大切なコツをお伝えしましょう。

 保護者は「子どもの言い分を全部聞く」ように心がけてください。

「子どもの話を聞くのが大切」と、ほとんどの方は理解しています。しかし、実際には、聞いているようで聞いていない方はとても多いです。

 表面上は聞いているようでも、頭の中では、子どもをどう説得するかばかり考えていて、子どもが話しても、すぐに否定してしまう。こうした態度を、子どもは敏感に察知して、やがて話す気をなくしてしまいます。

 保護者は、子どもが思っていること、感じていること、考えていることを、それがどんなに言葉足らずでも、覚悟をもって「全部」聞いてください。

 一つ一つの言葉に注目し、うなずき、要約し、質問を投げかけます。こちらからは決して誘導したり、批評したり、話をまとめて結論を急いではいけません。

 子どもが「主な話はほとんど伝えられた」という感じがしたら、そこで初めて、人生の先輩として、自分の体験談やこれから取れそうな行動のプランなど、複数のシミュレーションを示してあげます。

 親子で検証を重ねていきながら、最後は、子ども自身が行動を一つ選ぶ。保護者は、その決心を、全力で支えてあげるようにすれば良いのです。

■幼児から高校生まで、親が子どもに常に伝えるべきメッセージ

 子育てで問題が起きた時はチャンスです。子どもは「自分の欲求に従い、自分の行動を自分で選ぶ」という、人生の大切なトレーニングができるからです。

 しかし、子どもが自分で選んだ行動の結果、それで失敗したり、挫折したりすることもあるでしょう。

 親は「だから言ったのに!」と思うこともあるかもしれません。しかし、その言葉は飲み込んでください。

 子どもが挫折した時、親は黙って味方でいてあげて、決して見捨てない態度を示すべきです。

 幼児であっても高校生であっても、「親はどんな時も味方でいてくれる」というメッセージさえ、言葉、態度、雰囲気などで伝えられれば大丈夫です。

 有形無形のメッセージは、子どもの「自信」となってメンタル面を支え、長い人生をも支えていきます。

 子育てのピンチは何度でも訪れますし、親子バトルも避けられません。むしろぶつかりあったらいいのです。

 しかし、それを親子パワハラとしてしまうのか、それとも、子どもが成長するチャンスとするか。それは、保護者自身にかかっています。ぜひ、自分自身と子どもの疲労をケアすることで、「怒り」に乗っ取られずに子どもの話をきちんと「全部」聞くことで、親子それぜれに成長していってほしいと思います。

(取材・構成/向山奈央子)


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