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いつも同じジャンル・作家の本ばかり読んでしまう方必見!「自分内予定調和」を外す本選び

 今年も読書週間がやってきました。ラジオDJとして25年、第一線で活躍し続ける秀島史香さん。ものすごい読書家で、日ごろからたくさんの本を読んで刺激を受けているといいます。著書『なぜか聴きたくなる人の話し方』(朝日新聞出版)で紹介した心に残る10冊を、本書から特別にお届けします。(写真:著者提供)

秀島史香著『なぜか聴きたくなる人の話し方』(朝日新聞出版)

■私の本との出会い方

 あなたが今、読みたい本、気になる本はどんな1冊でしょうか。そのタイトルから、今の自分が見えてくるから不思議です。

 仕事スキル系の実用書のように、明確な目的や目標を持ってセレクトする場合もありますし、自分のいる世界とはまったく別世界に誘ってくれる小説ならば、現実から離れたい気分なのかもしれません。

 私の毎日に、本は欠かせません。仕事のための調べものをしたり、インタビューなどでお会いする方の著書を読んだりという読書もありますが、ちょっとした時間にふらっと書店に立ち寄ることは、日々の楽しみのひとつです。ベストセラーや新刊のチェックもしつつ、そのとき気になった本を手にとって、「なるほど、今はこんな気分なんだな」と買って帰ります。

 いつも同じジャンルに偏ってしまう、という人におすすめなのが、書店や図書館でぶらぶらと本棚の間を散歩すること。歩きながら、目に飛び込んできた本があれば、ぱらりと開いてみる。すると、まさに今自分が必要としていた一文に出会えたりするからおもしろいものです。

 例えば、外国文学の棚へ入ってみると、ミステリ好きの方は「シャーロック・ホームズか、懐かしいな」と思い出のアンテナが反応するかもしれません。

 ホームズの舞台になったイギリスの風景を思い浮かべていたら、料理本の棚でイギリス料理のレシピ本に興味をそそられたり。植物好きの方は「英国式ガーデニング」という背表紙に心ときめいたり。

 ガイドブックのコーナーに行けば、観光ガイドはもちろん、紀行文やエッセイなども並んでいます。サッカー好きの人だったら、イングランド代表スター選手の伝記が見つかるかも。

 このように1冊の本から好奇心が次から次へとつながっていくような、思いがけない出会いがあるんですよね。

 いつものジャンル、いつもの作家さんしか読まないとなると、ちょっと偏ったコンフォートゾーンだけで暮らしていることになってしまいます。私はこれを、「自分内予定調和」と呼んでいます。

 意識して違うものにふれていかないと、言葉のバリエーション、どんな言葉を選ぶのかという回路もワンパターンになってしまうと思うんです。

 普段からさまざまなジャンルの本を読めば読むほど、違った角度や深さで刺激が入り、思考の風通しもよくなります。

 不朽の名作を残した巨匠から注目の若手作家まで、実際に言葉を交わすことはできないけれど、あらゆる年代、世代の感性にふれることができる読書。頭の中の巡りをよく、みずみずしく保ってくれるエクササイズと考えて、どんどん読んでいきましょう。

 ここからは、私がこれまで出会った中でハッとするような視点を教えてくれた10 冊をご紹介します。ちなみに愛読書ランキングも常に入れ替わっていくので、本書執筆中の現時点(2022年4月)の、ということで!

■おすすめしたい10冊の本

1.室伏広治著『ゾーンの入り方』(集英社新書)

 集中状態である「ゾーン」とは何か。常に勝負と向き合うアスリートは、自分のベストを発揮するために、どのように集中しているのか。ゾーンの捉え方、身につけるためのヒントや実体験が書かれた1冊。

 中でも、金メダルを獲得した2004年アテネ五輪でのエピソードは説得力があります。

 室伏さんがいよいよ投げるぞ!という直前に、同じ競技場内で地元ギリシャの選手がハードル競技に出場したのだとか。観客席からは割れんばかりの大歓声。そんな状況で集中して自分のベストを出さなければ、という厳しい局面に立たされます。

 そこで室伏選手は何をしたと思いますか?

 なんとウォームアップエリアの芝生の上に寝転んで、「星を見たい」と、夜空を見上げたんですって。遠く夜空を眺めていると、スタンドの照明の向こうに見えた!と。

 そうしているうちに、耳には何も聞こえなくなっていた。気持ちが星空に向かっていったことで、集中できたんだそうです。

 どんなアゲインストな環境に置かれても、抗ったり排除しようとすると、逆になかなか集中できません。その代わり「その場に馴染むことができれば、自分本来の力を発揮することができる」。つまり、今自分のまわりで起きていることを受け入れられれば、いつも通りの精神状態で戦える、ということ。

 どんなときも自分を通す!ではなく、自分自身をいかに環境に馴染ませるか。この柔軟な姿勢には目からウロコでした。

 いつもと違う環境に身を置けば、何事も思った通りにはいきません。戸惑うのは当たり前。そんなときは、自分のやり方に固執しない。自分自身を、その場の空気に溶け込ませるような感覚でのぞむ。

 普段とは違うアウェイな現場に行って緊張が高まってきたとき、いつもお守りのように思い出しては「馴染ませる、馴染ませる」と自分に言い聞かせている大好きなエピソードです。

2.下園壮太著『平常心を鍛える ―自衛隊ストレスコントロール教官が明かす「試練を乗り切るための心の準備」』 (講談社+α新書)

 元・陸上自衛隊衛生学校心理教官。自衛隊が悲惨な状況の中でも任務を遂行できるようにと、メンタル面からサポートするというキャリアを持つ著者が、ストレスコントロールについてわかりやすい言葉で説明しています。

 現場でストレス対処法としてとくに印象的だったのが、パニックの状態から抜け出すための「呼吸法」。

 なんでも、腹式呼吸をすれば、意識が腹筋付近に向いてきて、不安や恐怖から意識がそらされる。つまり、「今のこの状況はさほど危険ではない」という情報を自分に与えてくれる直感的な刺激になる。体が与える安全信号になってくれる、ということ。

「腹式呼吸は、腹筋を動かす。呼吸というより、腹筋運動と考えてもいいだろう」という一文を読んだときは大きな衝撃を受けました。今まで「呼吸」イコール「吸って吐く」の概念でしたが、なるほど「運動」と捉えてもいいのか!と。

 この一文に出会えただけでも、読んだ価値がありました。このように「そうか!」と目の前がパッと明るくなる体験ができるから、本って素晴らしいですよね。

 ちなみに、さまざまな分野を横断していろいろな文献を読んでも、心を落ち着かせるためには、やはり「呼吸が大事」と思い知らされます。無意識にしているものほど、きちんと意識することが大切なんですね。

 過酷な現場を経験してきたプロフェッショナルによる重みのある言葉。背筋がピンと伸びます。

3.外山滋比古著『本物のおとな論 ―人生を豊かにする作法』(海竜社)

 ロングセラー『思考の整理学』(筑摩書房)にも影響を受けましたが、こちらは、「子どもと大人を分かつものとは?」というテーマに、人生の大先輩からスマートな教えがつづられています。

 好きなのは、「大人の会話」の章。

「落ち着いた声で話すのが大人である」

 仲間と一緒だとまわりが見えなくてうるさくなってしまうが、落ち着いた声で話すのが大人である。大声で叫ぶようにしてしゃべる人は、考えていない。大人は考えてものを話すのである、と。

 さらに、人を傷つけたり、不快を与えたりすることがないよう、言葉の作法として「敬語のたしなみを知ること」。きちんと使えば、摩擦、争いを回避、軽減することができる、と。

 これがなかなかどうして本当に難しいですよね。でも、せっかく人を思いやる言葉の文化があるのだから、フルに生かして、大人としてお互い機嫌よく過ごしたいと思うんです。そのためにはきれいな言葉を選びたいな、と自分に言い聞かせています。

 他にも、

「言ってはいけないことを知るのが大人である」
「裁くのでなく、他人を応援するのが大人である」
「威張らず、腰が低いのが大人である」
「広い世間を知るのが大人である」
「生活が大人をつくる」

 などなど、すべて座右の銘にしたい言葉ばかり。

4.広田千悦子著『くらしを楽しむ七十二候』(光文社知恵の森文庫)

 番組を通して出会えた歳時記研究家の広田さん。二十四節気(夏至、秋分など)をさらに細かく分けた暦、七十二候についてわかりやすく紹介しています。この季節のこの時期に、自然界では動植物が何をしているのか、どういう状態なのか、と。

 例えば、2月9日から13日頃(その年によって異なります)は、黄鶯?睆く (うぐいすなく)。あたたかい地方から徐々に、鶯が鳴き始めますよ、と。そして、その頃に行われる催しや旬のおいしいものについてもかわいらしいイラストで解説しています。

 家に閉じこもっていないで、表に出てまわりに目を向けてみると、自然界では豊かな変化が日々起きているのだと教えてくれます。

 自然とともに生きてきた昔の人の豊かな感性を、ミニ講座でわかりやすく教えてもらう感覚。

 今、自分がどんな季節を生きているのか、外に出れば、まわりから何を感じることができるのか。美しく季節が巡っているのだし、それを味わう文化があるのだから、知らずにいるのはもったいない。

 今のこの年齢で感じられる春夏秋冬も、当たり前だけれど1回きり。ならば、自分の肌で感じる空気で、目に映る景色で、おいしい味覚で、今の季節感を存分に楽しまなきゃ。そんなことを楽しく教えてくれる1冊です。

 文庫本なので、カバンに入れて気楽に外に連れ出せるのもうれしいポイント。

5.ピーター・スピアー著 松川真弓訳『せかいのひとびと』(評論社)

 オランダのイラストレーターによる、世界はこんなに違っておもしろい!という絵本。世界の人々の肌の色、服装、遊び、お祭り、食べ物や文字などが紹介されています。

 初版は1982年。その当時、私は茅ヶ崎の小学校に通い、近所の友達と遊ぶ日々が世界のすべてでした。学校の図書室でこの本と出会い、「世界ってこんなにも広いんだ!」とワクワク胸が躍ったのを覚えています。

 子どもの頃は「みんなと同じが心地よい」感覚だったし、学校でも「ほら、みんな一緒に行動しようね」とまわりと同じであることを求められましたが、いやいやいや、そもそも、人はそれぞれ違って当たり前なんだよ、とやさしく教えてくれた本です。

 時代とともに多様性を認め合う社会になってきている一方で、歩み寄りのない分断が起きているのも事実。歴史から学んできたはずなのに、いまだ争いは絶えません。

 子どもの頃に読んだ「自分とちがっていることだけでよその人たちをきらう。そんなことっておかしいよ。その人たちは自分たちだってほかの人から見ればちがっているってことをわすれているんだ」というメッセージは、今こそ強烈に心に響きます。

 長年にわたって愛されている名著は、何年経とうと、何歳になろうと、「あなたはどう思う?」という問いを投げかけ続けてくるものです。

6.羽生善治著『迷いながら、強くなる』(知的生きかた文庫・三笠書房)

 ひとつひとつの選択が勝敗を決める厳しい世界において、あの羽生さんも迷っているのか……とタイトルに興味をそそられ手にとった本。読みながら、「迷ったら『待つ』のも有効な手段」という言葉に救われた気持ちになりました。

 でも、ただ待つのではなく、思考停止にならないよう、状況を整理したり、振り返ったりしながら、ベストの好機を待つ。その勇気と忍耐力が必要なのです、と。何かと前のめりにセカセカしてしまう私を「もう少しゆったりと、大きなスケールで見てごらん」と穏やかになだめてくれるようです。

 とくに「生活の中に待つことが入っていないと、タイミングを知る機会も少なくなる」という一文。いやはや本当にその通りです。本当にいつも焦って飛びついては大騒ぎしがちなんですよね。

 さらにドキリとしたのは、人間は「年齢とともに少しずつ保守的になっていく」という言葉。だからこそいくつになっても挑戦をして、失敗するのは、次へとつながる。

「変に賢くなってしまって失敗を避けるということは、次のステージへの進歩を自ら閉ざしているかもしれない」。

「さて、どうすれば」と決断に迷ったときに開きたい1冊。ただ、いざそんな局面になると、足がすくんで一歩がなかなか踏み出せないのですが、迷うこともオッケー、と肯定されている気持ちになります。

 私たちは迷うこと、失敗することに対して、もっと自分を許してあげてもいい。そう思えるようになりました。

7.チャールズ・M・シュルツ著 谷川俊太郎訳『スヌーピーたちの人生案内』 (主婦の友社)

 世界で最も有名なビーグル犬、スヌーピーとその仲間たちの毎日を描いた漫画『ピーナッツ』。子どもの頃はピンとこなかったけれど、?めば?むほど味わい深い言葉にあふれています。

「上を見続ける…それが生きるコツさ…」とお馴染みの犬小屋の上でつぶやくスヌーピー、「ときにはいい気分になるために、ちょっと自分を甘やかすことも必要だね」と鏡を見ながら髪をとかすライナス、「なぐろうとすると、人にはなぐり返そうとする傾向にあるってことが観察によってわかってきた」と、尻もちをついてフラフラしているチャーリー・ブラウン。

 長年にわたり翻訳を手がけてきた谷川俊太郎さんによる「はじめに」がこの作品の本質を語っています。

「原題は『GUIDE TO LIFE』というので、ぼくはそれを普通使われている『人生案内』という日本語に当てはめましたが、実はLIFEという英語と人生という日本語のあいだには微妙な違いがあるような気がしています。ライフは即物的に生命、生活、活気などを意味しますが、人生はそれに比べるともうちょっと演歌的にウエットな感じがします」

 なるほど! だからこそ感じるこの本の軽やかさと、実用性なのか!と納得。どのページをパッと開いても、シンプルでまっすぐ。「そうか、こうやって考えたら毎日も悪くないよね」と目の前が明るくなる言葉にあふれているんです。

 ちなみに、以前、友人の漫画家・フクダカヨさんの出版記念イベントで司会のお手伝いをした際、谷川さんご本人をゲストにお迎えすることになり、それはそれは緊張しました。

「日本を代表する詩人!」とみんなで直立不動のお出迎えモードでしたが、会場にふらっと「どうも!」といらした谷川さん。しかもカヨさんがデザインしたTシャツを着て。

 いつでもどんなときでも、軽やかで肯定的な人ってカッコいいな、ライフを感じるな!と、大いにしびれた夜でした。

8.アラン著 神谷幹夫訳『幸福論』(岩波文庫)

 華やかな名声を求めず一生を高校教師という仕事に捧げたフランスの哲学者アラン。新聞に連載したコラムの中から、幸せについて書かれたものをまとめた名著。シンプルでわかりやすく、日めくりカレンダーの一言のように親しみやすい。ついあれこれ悩んでしまう自分にとって、まっすぐな言葉は灯台のように目指すべき方向を示してくれます。

 とりわけ響く考え方は、「幸福とは、自分で私は幸せであると選ぶこと」。社会の風潮、まわりの意見に流されるのではなく、自分でしっかり選び取ること。人間は放っておくと悲観的になってしまうので(大いに共感!)、だからこそ意思の力で自分なりに小さな楽しみや喜びに目を向けようね、と。

 さらに衝撃を受けたのは、「あなたの機嫌が悪い理由は、ただ少し疲れているからじゃない? そんな不機嫌には振り回されないで、椅子を出してやりたまえ」というシンプルで、けれど、たしかにそうかも!という指摘。

 カリカリしているときって、心の問題というよりも、ただ疲れて余裕がなかった、という単純な理由だったりします。そんなときは、モヤモヤからいったん自分を切り離すため、少しぼーっと休んだり、しっかり睡眠をとると、気持ちも前向きになるもの。

 自分の気分に振り回されてしまいそうになったら、「そろそろ椅子を出す頃かも」と思い出す言葉です。

 とにかく理屈はいいから、気負わないこと。自分の人生、自分自身で機嫌を直しながらやっていこうよ、という幸せのための今すぐできるノウハウ集。パッと開いて眺めているだけで、気持ちが軽くなってきますよ。

9.兼好法師著『徒然草』

 みんな大好き、『徒然草』。あらゆる人が語りたくなる日本三大随筆のひとつです。鎌倉時代に書かれたいわばエッセイ集ですが、読みながら「あー、痛いほどわかる!」と胸の内を見透かされ、ドキリと言い当てられたような気分。

 ひときわマーカーをグイグイ引きながら「ここ大事!」と肝に銘じているのが、心の弱さ、気の緩みについてのお話。人間の悩み、本質は、700年前から変わっていないのだなぁと。

 例えば、有名な「高名の木登り」。木登り名人がアドバイスするには、「木の高いところに登っているときは、自分でしっかり用心するから大丈夫。それよりも、降りてくるとき、もうあと少しだぞというときほど、注意深く用心せよ」という教え。つまり、危険なところでは、自分で気をつけるから大丈夫だけれど、もう安心だというときほど、気が緩んで失敗が起きてしまうのですよ、と。

 これは、身をもってわかりすぎます。生放送でもまったく同じことが起きるのです。「ふぅ、いろいろあったけど、なんとか今日の放送も終わる」という日のエンディングのときほど、最後の最後にやらかしちゃうのです。読むべき原稿をすっ飛ばしてしまったり、?んでしまったり、言い間違い、時間計算ミスなど、あらゆるしくじりのオンパレード。

 終わりが見えてきて「もうあと少し、このまま行けば大丈夫!」という気持ちの緩みが、自分でも思わぬ失敗を起こしてしまうのです。

 スポーツや仕事の世界でも、最後の最後でまさかの悲劇が起きますよね。目と鼻の先なのにゴルフの最終パットが決まらなかったり、うまくいったプレゼンの最後で、シメがグダグダになってしまったり。いやあ恐ろしいです。

 毎回生放送のエンディングでは、この言葉をしっかりと胸に刻みながら、最後の一言を言い終わるまで「残り時間が少なくなるほど、ゆっくり慎重に」と自分に言い聞かせています。

 時を超えて「わしには見えておる、そなたのその悪いクセがな……ぐふふふ」と兼好さんにはなんでもお見通し。「ほら、そういうところ、気をつけて!」とピリッと戒めてくれる辛口カウンセラーのようです。

10.宇野千代著『行動することが生きることである ─生き方についての343の知恵』 (集英社文庫)

 30歳目前、いろいろな迷いが出てきたときに、年上の友人からすすめられて出会えた本です。

 タイトルにもあるように、仕事も趣味も恋も、何事にもとにかく行動派の宇野さん。そのメッセージは、今からでも遅くない、自分のできることを探して、すごいことをやろうと気負わず、まずはやってごらんなさい、というもの。

 この本を書かれた当時、アラウンド90歳の宇野さんはまだまだ精力的にお仕事をしたり、体重が増えてウキウキしたり、浴衣を縫い上げて喜んだり。日々の喜びが素直につづられた文章から「私もこの先まだまだ!」とエネルギーと勇気を受け取れます。

「愉しくないことがあると、大急ぎで忘れる」という言葉もなんともお茶目で、実用的。初めて挑戦することも難しく考えすぎず、「とりあえずやってみよう。失敗しても忘れればいい」

 と思えるようになりました。

 何歳になっても人はやりたいことができるし楽しめるもの。まだ見ぬ未来に希望を感じさせてくれます。

■読めば読むほど「私だけの本」になっていく

 以上、大好きな10冊。悩みに悩んで挙げてみましたが、新しい本に出会うたびに、そして読み直すたびに、このリストはどんどん入れ替わっていきます。日々経験を重ねれば自分自身も変わっていきますので、響く、刺さる、感じるポイントも増えたり減ったり(以前ほど必要じゃなくなったということ? それもおもしろいですね)。

 さて、どのように読むか、ですが、私は目だけではなく、手を動かしながら本を楽しんでいます。

 細いマッチ棒のようなサイズの透明な色付き付箋を愛用していまして、この言葉、この表現、いいなぁと感じたら、ペタペタつける。ラインもじゃんじゃん引く。「これはもう一度戻って読み返したい」と気になった箇所には、折り目もバンバンつけちゃいます。

 読みながら感じたことを本そのものにしっかり記録していく、「自分だけの本」にカスタマイズしていく感覚です。

 著者の方をインタビューするとき、この本を開きながら、「このシーンがとくに響きました」「このときはどういうお気持ちで?」と質問すると、とても喜んでいただけますし、「秀島さんはどんなところに線を引いたんですか?」と逆質問されることも。

 同じ本を読んだ人とも、「ここがよかった」と語り合えるポイントにもなります。読みっぱなしにするよりも、人と人をつなげてくれる懸け橋にもなるので、読んだら誰かとぜひシェアしてみてください(私は備忘録のつもりで、インスタグラムで「#秀島読書記録」 という感想文を書き続けています)。

 さらに、本を自分のものとするために実践していることを、もうひとつ。

 書いてあることを、「ふむふむほうほう!」と、素直に受け入れるのではなく「本当にそうなのかな?」「そうは言うけど実際どうするの?」「例えば、職場では? 家庭では? どう応用できる?」と、頭に浮かんだ疑問や、ツッコミをはさみながら読んでいくのです。そこに見えないけれど著者がいて、「あなたはどう思う?」とエア対話をしているかのように、能動的に考えていくこと。

 本はまるまる覚える教科書、ではなく、触媒。いつでもどこでも壁打ちに付き合ってくれるラリー相手のような存在です。

 とまあいろいろ書いてきましたが、やっぱり本は読むほどによいことばかり。ただ、読んですぐ効く!という即効性のあるものばかりではありません。

 ピンときた本はもちろん、あまり響かなかったという本も、自分の中にきっと何かを残してくれるもの。その積み重ねこそ、人としての教養であり、厚みになってくれると信じています。

 そうそう、私のラジオ番組でもたびたび「好きな本」特集をしています。今度はあなたのお気に入りの1冊もぜひ教えてくださいね。

【ここまで聴いてくれたあなたへ】
書店に行ったとき、あなたがいつも行かない棚はどこでしょうか?

(構成/小川由希子)