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ビジネス・オネエの新たなる課題と抱負【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 女装家・タレントのミッツ・マングローブさんが時代を駆け抜けた「アイドル」たちについてつづった書籍『熱視線』(2019年8月刊)より、珠玉のコラムを選りすぐりで紹介。最終回はミッツ・マングローブさんについてお届けします。

ミッツ・マングローブ『熱視線』
ミッツ・マングローブ『熱視線』

 人気者に付いて回るものと言えば「疑惑」です。昨年も様々な疑惑とその真相、そして顛末にざわついた一年でした。不正、不倫、薬物といったお咎めの対象となり得る疑惑から、別に悪いことをしているわけではないのに何故か疑惑扱いされるカツラ、整形、同性愛まで。隠せば隠すほど疑惑を持たれ暴かれるのは人気者の証しです。私が人気者かどうかは別にして、私のように「一般的には隠しておきたいとされる事柄」も、割と詳らかにしている人種というのは、「暴き甲斐がない」と見做され、スキャンダル価値が低くなります。たとえ私がすっぴん・部屋着姿を撮られたとしても、本人的にさほどダメージを受けないのであれば、それはスクープとしての値打ちがないのです。

イラスト:ミッツ・マングローブ

 私にとって、どうしても隠さなければならない秘密など果たしてあるのか。つくづく神秘性に乏しいつまらないタレントだと痛感するばかり。しかし先日、『ミッツ・マングローブの疑惑?』なる記事を見つけました。カツラも被れば、ちょっとした整形もする、ズブズブの同性愛者である私に、今さら何の疑惑が? もしかして脱税? あんなに払ってるのに? 驚くなかれ、私にかけられた疑惑とは、なんと『ビジネス・オネエ疑惑』でした。要は、商売の便宜上「オネエ・同性愛者」と偽っているということ。なるほど。仮に私が『ビジネス・オネエ』だとしたら、これはなかなか手の込んだ芝居を上手に繰り広げるエンタテイナーであり、かつそれなりの利益を上げている優秀なビジネスマンです。トウの立った『女装家』なんてものより、よっぽど面白みがあるかもしれません。

 ただ、その記事が示した「ミッツのビジネス・オネエ説を裏付ける真相」に脱力してしまいました。なんでも、何人かのオネエタレントを取材したことがあるという週刊誌の男性編集者の証言によると、「マツコや楽しんごには、取材中にボディータッチが多いなどドキドキさせられたが、ミッツは(男性編集者に対する)セクハラまがいの行為が一切なかった。故に、ミッツは『オネエを演じている』と思った」とのこと……。敢えて媒体名は書きませんが、よほどネタがなくて困っていたのでしょう。何故か私が申し訳ない気持ちになってきます。今後は、どんなに不細工で仕事のできなさそうな男性編集者にも、「かわいいわね」と股間のひとつも触るように心がけます。『ビジネス・オネエ』ならば、そこは是が非でも徹底しなければならないところです。

 ノンケ男性にとって、ゲイやオカマに色目を使われ、「やべえ! 喰われる!」と恐怖心を抱くことは、ひとつのステータスなのでしょうか。今までも、たかだか一度や二度、それも恐らくリップサービスで「お兄さんかわいいわね」と言われただけのくせに、「俺、結構あっち系の人にモテるんすよ」などと得意げにほざく男をごまんと見てきました。この際だから言っておきますが、ゲイやオカマは「この世で最も好みにうるさい生き物」です。

 ちなみに「セクハラしてこないオカマは偽物」という発想は、「オスは誰しも性の対象にセクハラをする」と言っているのと同じことです。結局、隙あらば触りたい・触られたいのがオス。ならば私のような『超敏腕ビジネス・オネエ』にも口説かれるぐらいイイ男になるべく、今年も精進してください。

(初出:週刊朝日2017年1月20日号)


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