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日本語教員養成課程 主/副専攻を中心に+α:これから日本語教師を目指す人へ①

このマガジンでは私が学生時代に知りたかったことをまとめていきます。これから日本語教師になろうかなと考えている人、ちょっと興味があるという人の参考になれば幸いです。

ここから先は現時点から振り返って感じたことを忌憚なく書いています。現職の方が読むと「それは違う!」と思われる部分もあるでしょうが、その点は貴重な経験者談としてどこかに書き出していってほしいです。


私は学生時代に国内で非常勤と専任、院を修了後は専任で担任を持ちつつ日本語教師をやっています。だからこの記事は国内の事情が主で、個人的な見解がほとんどです。まるっと鵜呑みにはしないでほしい。そこはお願いします。


日本語教師になるために必要な資格

日本語教師になるには、次の3つのうち1つ以上の資格が必要です。

1.大学または大学院で日本語教育主専攻または副専攻を修了すること
2.「日本語教育能力検定試験」に合格すること
3.四大卒かつ日本語教師養成講座(420時間)を修了すること

10年ほど前に私の恩師が「この3つに当てはまらなくても、豊富な経験があれば働ける学校もある」と言っていました。

しかし国内の日本語学校(特に、国の定めた基準を満たしている「告示校」)では教師採用の基準が厳しくなっており、客観的な証明書が提出できる資格が必須となってきています。

これ以降の記事で触れますが、学歴も重視されます。四大卒でないと働ける学校の選択肢は減ります。

また現在、日本語教師資格を「公認日本語教師」として国家資格に引き上げようという議論が文化庁でなされています。まだ具体的な試験内容や認定方法は決まっていませんが、数年後には日本語教師になる方法が変わっているかもしれません。情報収集をお忘れなく。

この記事では1つ目を中心に、3つの資格の特徴について書いていきます。


1.大学または大学院で日本語教育主専攻または副専攻を修了する

メリット:
①金銭面の負担が少ない(通信制にもカリキュラムあり)
②日本語教育の教育実習を経験できる
③副専攻の場合は他に強みを持てる

私はこの資格で働いています。


メリット①金銭面の負担が少ない

四年制大学に通うことを考えている人なら、日本語教育に限らず取れる資格は大学で取った方が費用面では安くつきます。集中講義などをいくつ取っても大学の授業料内で賄えるからですね。

この資格が取れる学校はこちらのリストが見やすいです。

大学で取れる資格は何年かに一度、対象科目やカリキュラムの見直しがされることがあります。すると1年違いで先輩と後輩が別の科目(または、同じ科目を別の名前にして)を履修することになります。その新基準に対応しているかどうかは、各大学の募集要項等を確認した方がいいです


メリット②日本語教育の教育実習を経験できる

履修科目のうち「教育実習」は必須となっています。実際に教壇に立って教える練習をするわけですね。

学校によってやり方は違います。私の出身校は毎年海外で行なっています。そのときは2週間ほどで自己負担費用が渡航費・宿泊費込みで10万~15万円程度かかりました。

現場に立つことで、自分が日本語教師として働くイメージを初めて持つことができます。ここが向き不向きを自覚する機会でもあります

私は実習を経て「もっとやってみたい」と自覚しましたが、「私には無理と分かった」と悟った同輩・後輩もいました。その日の授業のために全力で仲間と協力したり、こうして感想を言い合えたりする機会も、その後にはなかなか得られません。

先輩日本語教師の授業参観ができる場としても貴重です。


メリット③副専攻の場合は他に強みを持てる

副専攻ということは、主専攻が別にあるということです。

大学によって異なるので注意が必要ですが、日本語教育を主専攻に置いていない学部学科:経済学部、社会学部、理学部、工学部などの学生が、副専攻として日本語教育資格を取ることができる場合があります。

同じ学科内でも主専攻はイギリス文学だけど副専攻で日本語教員資格を取った、という先輩がいました。

そのような学び方ができると、主専攻で身につけた深い知識を教育現場で役立てることができます。プラスワンの強みを持った日本語教師になれるんですね。

国内の日本語学校には大学進学を目指す学生が多く通っています。文系・理系の様々な学部を志望しています。進路指導や面接対策、語彙や文法表現、論文の読み方などで、「先輩」としての知識を交えた教授ができるでしょう。

ちなみに、学部進学を希望する留学生は日本語以外の科目も勉強します。英語や、日本留学試験(EJU)における、数学・理系科目(化学、物理、生物)・総合科目(政治、経済、地理、歴史)です。このような科目の対策講座を開くために講師募集をしている学校もあります。日本語科目より時給が高い傾向があります。

さらに、授業のオンライン化で求められる知識・技術が増えました。ICT、IT関係、教材デザイン、知的財産権……このような分野に明るい人材も現場で必要とされています。

専門を他に持っていれば、留学生相手に授業をする上で働き方の幅が広がります

同僚としても、自分と違う強みを持った先生がいるのは非常に心強いです。


注意すべき点:あらかじめ調べておくといいこと

注意すべき点:
①大学によるカリキュラムの違い
②先輩の就職先
③実習時期・講座開講時期がほかの資格と被る

注意点①大学によるカリキュラムの違い

「日本語教員養成課程」とひとくちに言っても、大学によって授業内容やカリキュラム、単位の扱いはかなり違います。

知識に重点を置く大学もあれば、実習や模擬授業を重視した大学もあります。

副専攻の場合には、受講対象者の規定を確認しておいた方がいいでしょう。いざ入学した後で対象外では、資格の取りようがないからです。

また、実習先が国内か海外かにこだわりがある人はそれもチェックしておくといいですね。かかる費用も変わってきます。


注意点②先輩の就職先

これも後の記事で書く予定ですが、新卒で非常勤ではなく専任で就職している先輩がいるかどうかが確認できるなら、しておいてください。

学部時代に一生懸命、日本語教師になるための勉強をしても、非常勤でしか働ける先がなくて別の業種に就職する人が少なくありません。

大学や教授とつながりのある日本語学校があるかどうか、学生時代にインターンができるかどうか、就職先にこだわる人は調べておいて損はありません。

海外で働きたいのであれば、留学プログラムの充実度と併せて聞いておくといいでしょう。学生時代に半年~1年留学した国で日本語教師として就職を決めた、というのが私の周りでは主でした。

留学したことはないけれど、そこに先輩がいるので同じ学校に就職した! というパターンもあります。


注意点③実習時期・講座開講時期がほかの資格と被る

学外の教育実習を必修にしている資格は、ほかにもあります。

例えば教員免許は「介護等体験」「教育実習」の2つの学外実習を受けて単位を取らなければなりません。(座学は異なる資格間で共通の必修科目もあるため、大変な面だけではありません)

さらに、資格取得に必要な講義が夏期・冬期の集中講義として開講されたり、資格認定試験が決まった時期に行われたりするため、在学中に並行して取得したい資格がある場合は、2年次、3年次、4年次というスケールでスケジュールを組んでおく必要があります。

最終学年で実習と認定試験が被った! となれば、卒業までに資格を取れなくなるケースも起こり得ます。

同じ理由で、単位を落とすことのリスクは非常に高いです。ちょうどカリキュラムが見直された時期に当たってしまうと、単位がひとつでも欠けたら新カリキュラムで資格に関する全ての単位を取り直さなければなりません。

資格取得に必要な単位が取り切れなかった場合、卒業後に追加で受講し認定してもらう制度もありますが、入学金等の諸費用が発生し1科目につき10万円程度の出費が起こり得ます。

それなりの自己管理能力が問われるわけです。

とはいえ学内にはアドバイザーになってくれる教授、部署(学務課など)があるはずなので、この件のみならず不安なときにはどんどん頼りましょう


日本語教師として働くとはどういうことか、自分がやっていけるかどうか、それを確かめるまでに時間の猶予が多い点がこの資格の特徴です。


2.「日本語教育能力検定試験」に合格すること

メリット:
①かかる費用が少ない
②理論・知識を広く身につけることができる
③資格の信頼性が高い
注意すべき点:
①教育実習がない
②その年に必ず合格できるとは限らない

日本語教育検定試験は年に一度、8月に試験が実施されます。合格率は毎年25%程度。過去問のサンプルはWebサイトで閲覧できます。

日本語教育能力検定試験は、日本語教員となるために学習している方、日本語教育に携わっている方に必要とされる基礎的な知識・能力を検定することを目的としています。(日本語能力検定試験Webサイトより)

出題分野はこちら。はっきり言ってとても広い知識・理解が求められます。

日本語教育の歴史や言語政策から、世界の言語事情、言語習得の理論、教授法、多文化教育、権利関係、日本語学、コミュニケーション能力……大学の講義であれば1つの分野を半年~1年かけて履修していくような内容ばかりです。

リスニング試験があるのも特徴です。例えば、架空の単語が読まれるのを聴いて正しいアクセントの位置を選んだり、学習者の発音の問題点がどのようなものかを音声学の用語から選択したりします。

それでは、メリットと注意点に分けて書いていきます。


メリット①かかる費用が少ない

これが3つの資格のうち最も大きなメリットではないでしょうか。

独学での合格が可能であり、突き詰めれば検定試験料+テキスト代=2万円以内で取得できます。

大学や講座に通う授業料は数十万円かかるのですから、金銭面のメリットは比較するまでもないでしょう。

そうは言っても、独学にこだわる必要はありません。

達成度管理や机に向かう習慣づくり、コツや耳寄り情報、出題傾向等々の情報を得るために対策講座や勉強会に参加するなど、合格に向けた勉強法を自身で探していくこともできますよ。


メリット②理論・知識を広く身につけることができる

検定試験は「現場で役に立たない」などと言われることもありますが、大きな誤解です。

前述した広い理論・知識の中には日本語教育の教授法も含まれていますが、教案の書き方や教壇での振る舞い方を詳しく学べるわけではありません。

現場に出て体を動かすようになると、知識は一度、置いてけぼりになります。教案を書くのに「日本語教育の歴史」などが必要でしょうか? 

始めのうちは、あれだけ頭に叩き込んだ知識がどう役に立つのかわからなくなるかもしれません。しかし、理論や知識は後からじわじわと効いてきます。

・目の前の学生たちには別の教授法を試したほうがいいかもしれない。
・ある母国語に特化した発音指導法のテキストを読むことにしよう。
・クラスで政治的問題に関わる発言が出てしまった。
・アイデンティティを尊重するために抑えるべきポイントは何か。
・「大きな」「大きい」二つの表現がなぜ存在するのか。
・新しいクラスを持つときに調査したほうがいいのは何か。
・授業を活発にするにはどうすればよいか。
・学生の勉強意欲を引き起こすのにどのような声掛けをすればよいか。

長く働いていると、クラスや学生の個性に応じてさまざまな問題が出てきます。なぜその問題が起こったのか? 解決のためにどこを押さえればいいのか? 新たに専門書を読んで解決法を探るにしろ、同僚と話し合うにしろ、身につけた基礎知識が頭の回転を手助けしてくれます

基礎知識があれば数多ある専門書から必要な1冊を選び取ることも、学生の質問に日本語学や歴史の視点から答えることも、教授法の特徴を理解したうえで比較・実践していくこともできます。

さらに言えば、それらの知識は現場で働き出してから改めて勉強し、習得し直すことが困難なのです。そんな時間はありません。


得られた経験を知識で裏付けし、補強していけるのがこの資格の強みではないでしょうか。勤務年数を重ねるほど成長の助けとなり、また、身につけたものは国内・国外を問わず役に立ちます。


メリット③資格の信頼性が高い

さて、合格のために広範な知識が求められることと、習得に向けた努力が求められる資格であることはここまでに伝えられたかと思います。

日本語教育能力検定試験の合格は、その努力と成果の証明です。

近年「日本語教師の質」が求められる日本語学校の現場にて、客観的な認定を受け、自身が一定のレベルに達していることを示せる資格だと言えるでしょう。


注意点:①教育実習がない

独学で習得できる反面、なにもしなければ教育実習の機会が得られないため、先輩教師の授業見学や教案作成の練習ができない点には要注意です。

個人で教育実習や授業見学の申し込みができる日本語教育機関もありますので、検討してみてもいいのではないでしょうか。


注意点:②その年に必ず合格できるとは限らない

検定試験は年に1回。8月受験の12月発表ということで、合格すれば春から働き始めることができますが、できなければもう一年、ということになります。

合格できるのが一番ですが、そうでないなら長期間の戦いになります。

時間経過で日本語教師の資格を得られるわけではないという点が、ほか2つの資格と大きく異なります。ただしその分、信頼性も高いのです。


検定試験による資格についてはここまでです。


3.四大卒かつ日本語教師養成講座(420時間)を修了すること

メリット:
①半年間で資格取得が可能
②実技が学べる
③就職サポートがある
注意すべき点:
①費用がかかる
②学校選び
③「高卒・短大卒でも就職可能!」には注意

日本語教師になるための学校に既定の時間数通い、修了するのが3つ目の資格取得方法です。

これに関しては各学校に体験談等が掲載されているので、そちらを見たほうが確かかもしれません。


メリット①半年間で資格取得が可能

最短で半年、長期で2年ほどと、学校やコースによってカリキュラムは異なります。

集中的に通えるなら、ほかの資格よりも短期間で確実に資格取得ができることになります。


メリット②実技が学べる

理論・知識の座学と、教育実習のような実技の両方を学べる場が提供されているのが特徴的です。

働き始めからキッチリ教案を書き、授業準備をされる先生が多い印象です。また、授業を始めるのに必要な内容(教科書、進め方、引継ぎ、絵カード等々)を把握されており、事前に確認を取ってゆくので、これまでに授業準備をした経験が何度もあるのだなとわかります。


メリット③就職サポートがある

採用面接や授業見学等の申し込みは、このような講座を持つ学校単位で入ってくることがほとんどです。

そのような紹介ももちろんですし、自分に合った学校探し等、相談に乗ってもらえるのは非常に心強いのではないでしょうか。卒業生の情報も積み重なっているはずです。

日本語教師を志す仲間と過ごし、情報交換ができるというのも、学校に通うシステムならではですね。


注意点:①費用がかかる

国公立大学に半年~1年通うくらいの費用はかかりそうです。だいたい50万円程度といったところでしょうか。


注意点:②学校選び

自分で学校を選ぶために、情報収集をする必要があります。

費用、就職サポート、自身のライフスタイル、学生層、学校の雰囲気……等々、自分が優先したい項目を整理しておきましょう。


注意点:③「高卒・短大卒でも就職可能!」には注意

仮にこのように言われたら要注意です。

今、ざっくり国内の日本語教師求人を検索してみてください。「四大卒」を条件に掲げている求人ばかりではありませんか?

これを信じて高い授業料をかけて420時間を修了し、「四大卒でないとうちでは雇えません」と就職を断られる。このやり取りが現実に起こっています。

探せば就職先があるのでしょうが、前述の「告示校」では働けず、選択肢は大幅に狭まります。

ひとを騙すような言い方で入学を勧めるやり方には賛同できません。避けてほしいです。


以上、こちらの項目に関しては知っているところをさっくりと書きました。

半年、1年後には確実に資格取得を決めたい! というひとに合っています。


以上、高校~大学生向けに書いたつもりです。

めちゃくちゃ長くなってしまいました。

経験上、大学で学べることや注意しておいてほしいことが中心になりました。新卒で日本語教師になる上で生じる壁や、学歴に関しては、今後の記事でちょこっとまとめるつもりです。


学歴学歴と言いますが、現場で働いていて、互いの学歴を問題にすることはほとんどありません。どこの大学とか大卒院卒とか、まあ話題に出ません。いや、出ることもあります。でも一過性ですね。

しかし、3つのうちどの資格を持っているかについては顔合わせの時点で互いに伝え合うことがあります。上でまとめたように、資格出身ごとの働き方・物事の捉え方傾向もすこーしずつ感じられます。

それだけ、どこを通るかは影響が出るということですね。

今後変わるかもしれないことは頭に入れつつ、いろいろ調べて各資格の特徴を知ってください。


この記事もだれかのお役に立てれば幸いです。


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