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思い出の音楽が自分のものになるまで/小袋成彬『Strides』【毎日note】#55

昨日の朝、会社に向かう車の中で、音楽を聴きながら考えた。

私には、いやきっと誰にでも、この曲を聞いたら胸がぎゅっとなる。あの頃を思い出して切ない。みたいな音楽があるのではないだろうか。

それって別に、自分の人生のベストソングなわけじゃない。

だけどその曲を耳が聴き取ってしまったなら最後、記憶の中の世界に連れて行かれる。無抵抗に。

こんな、ジャンルも世代もばらばらの楽曲たちが、私の気持ちを揺さぶり続ける。

ちなみに今井美樹の「友だち」だけ説明すると、北海道の実家の自分の部屋の窓の横で、一日中机に向かって絵をかいたり小説を書いたりしていた、幸せな子ども時代を思い出すのだ。家にあった『Love Of My Life』というアルバムを、サンタさんにお願いしたステレオでずーっと聞いていた。窓のすぐ外には立派なすももの木があって、春は真っ白い花でもこもこになり、散るときは吹雪と見まごうほどに盛大に降る。木の向こうには、ビニールハウスが3棟ほど立っていて、働く父と母や、走り回るまだちびっこの弟たちが見える…

穏やかでやさしいメロディとあたたかな今井美樹のボーカルに、北国の控えめで素朴な春の景色が見える。きっとそんな子どもの頃だって何かと悩みはあったんだろうけれど、今振り返るとその光景は、幸せ以外の何物でもない。そうそう、私にとって幸せの象徴と言えばもうひとつ、誰かが入れるコーヒーの香りがある。子ども時代の2階の自分の部屋にのぼってくる、両親が入れるコーヒーの香りが、私の記憶に染みついている。母がフライパンを扱うガチャガチャとした音とか。

音楽もそうだし、匂いとか、あるいは残された写真とかみんな、記憶を呼び覚ますスイッチになりえるのはまあ、当たり前のことだ。

だけど、いつまでもそのスイッチたちに抵抗できずに気持ちを持っていかれるのは、正直悔しい。何歩も未来に進んだつもりだったのに、まるでそれは思い込みだったみたいじゃないか。いつまでも終わったことにとらわれているみたい。

この曲たちは、悲しくなるからしばらく聞かなかったり、思い出に浸りたくてわざと聞いたり、いろんな接し方をしているけれど…

私の気持ちを揺さぶる曲たちが、過去に引き戻すスイッチじゃなくて、ただ自分が好きな曲として、自分の、自分だけのものになるようにしていきたい。すごーく抽象的で、何を言っているか意味不明かもしれないけれど。

そのためには、やっぱり昨日も書いた、自分の足で立ってると思える日々を一日でも増やしていかなきゃならないんだよね。

自分は確かに過去の上に成り立っているかもしれないけれど、過去を振り返ってひたっている時間なんて、本当は一ミリもない。私たちの時間は、あとどれくらいあるのか、だれにもわからないのだから。


大大大好きな(日本人の男性アーティストではいちばんかも?)小袋成彬さんの新作が出て改めて前作を聴いてるけど、ほんっとにいい。音、声、歌詞、全てがいい。ああ、私は音楽の良さを説明するのが一番苦手だ。伝えるのは聞いてもらうしかないと諦めている笑

↑が新譜。よかったら聴いてみてね。


あーあ。大好きな曲にかなしい想い出の染みをつけるのはやめよう。うん。



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