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焚き火の香りの部屋にて ~北海道からの沖縄移住記 2021年1月~

 四年ほど前に東川のモンベルで購入した夏用のジャケットに、焚き火の匂いが染みついて洗ってもとれず、ほのかにスモーキーな香りが漂う。朝そんな自分の部屋で起きると、テントで目覚めたような錯覚に陥る。新年最初のキャンプは、焚き火から離れられないような厳しい寒さの日だった。

 今年は特に冷え込む日が多く、県外の友達は、沖縄の冬がこんなに寒いとは思わなかったと驚いていた。夕陽もエメラルドブルーの海も見られない小雨と強風の日に初めて、練習と思ってキャンプをした。外で生活する上で一番大事なのは、風と雨を凌ぐこと。そして明かりと暖をとること。天気の良い日にばかりキャンプしていたので、状況によっての優先順位を肌で学べた今回のキャンプはいい経験になった。

 キャンプにはまって、テントやチェアなどベーシックなものを揃えてしまうと、もっと便利でオシャレで使い勝手のよい道具が欲しくなる。けれど、あるときハッと我に返った。私にとってのキャンプって、どんな環境でも生きていける術を楽しみながら学ぶもの。あればあるだけ便利なものに囲まれた優雅なキャンプをすることではなかった。例えばリュック一つで山に入って暮らせるような、身軽さとタフネスの両立を念頭に冷静に選ばなきゃと考え直した。

 道路の喧噪や街から離れ、一日中静かな自然の中にいて焚き火の炎を眺めていると、ニュースに映し出されるような「世間」など自分には無縁のように感じる。でも本当は違う。今までの生活も価値観も一瞬でひっくり返ってしまうような、目に見えない大きな力が働いている世界で、キャンプ、つまり自然の中で生活できるようになることは、私の希望のひとつだ。

 年は明けた。2020年が大変な年だったから、2021年はきっと良い年になる、なんて、ニュースなんか眺めてる限りはとても思えない。受け身でいる限りは。でも私の場合はこうだ。2020年は人生の記念になるような素晴らしい年にできたから、2021年も素晴らしくできるに違いない。これはコロナがどうなろうが、もっと大変なことが起ころうが、変わらないのだ。

あさひかわ新聞2021/1/19号「沖縄移住記27 果報(カフー)を探して」掲載

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