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俺は思っていたよ。透明人間は絶滅危惧種だと。#キナリ杯
それは、ある日の夕食前のことだった。
テレビのバラエティ番組で、街頭インタビューをしていた。
「透明人間に会ったら、あなたはどうします?」と。
「ばっかな質問しやがるぜ。」
妹のハルがげんなりした顔でつぶやく。
「しかも、その答えが『通り抜けてみる』だの『クレヨンぬる』だの『夫の素行調査を依頼する』だの…。」
「そうだよな。」俺も言う。
「だいたいさぁ、仮に透明人間に会ったとしてだな、」
「まさかの稀少な生物に出会えたんだ、もっと敬意をはらえよな。
そんでもって、彼らの生活や思考について、しこたま尋ねたいことだらけだよな。せっかくのチャンス、有意義に使えっちゅの。」
「え?」
ハルが、さっきまでテレビのインタビュアーに向けていたのと同じ顔で俺を見た。
「おにぃ、なんで透明人間が『稀少』だと思うわけ?」
「は? だって見たことねえもん。
稀少じゃなかったら、ちょいちょい見ていてもおかしくないだろ。
ありゃあ、言ってみれば、そう、絶滅危惧種だ。それともナニか、ハルは見たことあんのか?」
「うえー、『透明人間見たことありますか?』っていうヒトがここにいますよー。」ハルがソファからずるずると落ちながら変なダンスを踊る。ヤメロ。
しかし、
「あ、そうか、見えないから透明人間だよな。へへ。」
ワンゲーム落としたな、俺。
そして、もうワンゲームをハルはむしりとった。
「そもそも、」うん、
「見えていないおにぃに、なんで透明人間が少ないって言えるんでやんすか?」おい、語尾がオカシイぞ。
「どうせ見えていないなら、『うじゃうじゃいる』も想像したってよろしいんじゃなくって?」変なダンスヤメロ。
「それは、お盆過ぎの千葉の海水浴場でのことでございました。水を掻いたら指の間に、ほぼ透明にきらめくクラゲがごっそり引っ掛かっておりました。」
去年の水泳実習でヒドイめにあったことをねにもっているのだな。
「と、いうようなことが透明人間にもありえましょうぞ?」
妹よ、おまえ…。
ちょっとぐうの音が出たぜ。
もうワンゲームをやるさ。
「するってえと、たとえば俺が両手広げてぐるぐるーってすると、透明人間を5~6人捕まえられるってことでやんすね!」楽しくなってきちゃったよん。
「さようでございます。貴殿、物事の思考にコリがございますね、少々ほぐして差し上げましたことよ。」
「それと、語尾が可笑しゅうございます、お兄様。おほほほほ。」
晩ごはんの鯵のたたき、美味しゅうございました。
バカ兄妹のバカ話。たぶんね。
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