少女とワタシと人形
ワタシは人形をいっぱい持っている。
自分の部屋には収まりきらなくて、リビングや玄関にも専用の棚を設置して置いているほどだ。
いい年をして人形を集めているだなんて。と言われることもあるが、ワタシにとって人形を集めることは人生そのものと言っても良かった。
ガラスのケースに入れられた人形を眺めらながら、紅茶を飲むことがワタシの至福の時間だった。
コレクションは、人形といっても幅広い。ビスクドールから子供の着せ替え人形。ぬいぐるみから、フィギアまでワタシのお眼鏡にかなった様々な人形を集めている。
これほどのコレクションを集めても、ワタシは寂しくてたまらない。ワタシの人形コレクションの中に、ワタシが本当に欲しい「あの子」はいないのだ。
ワタシの人形コレクションは、いつかまたあの子に巡り会うためにしているといっても過言ではないからだ。
あの子を見逃さないように。
あの子が寂しくないように。
あの子の仲間を集めるために。
あれは、ワタシが小学校二年生のころ。おばさんの家に遊びにいったときのことだ。おばさんもたくさんの人形コレクションを持っていた。
ビスクドールという種類だと後から聞いた。
ワタシはおばさんのコレクションを大好きだったので、その日もおばさんのコレクションを見るために学校から帰ってよったのだった。
母には「物好きね」「たまにはお友達と遊びなさい」と小言を言われていたが、ワタシにとって人形を眺めることに以上に楽しいことなんてなかった。
その日もおばさんのコレクションを眺めていた。ガラス玉のような瞳をじっと見ていると吸い込まれそうだと夢想していた。
人形が一体、ワタシに話しかけてきた。それはとても美しい少女だった。
「ねぇ、ここから連れ出してくださらない?」
ビスクドールよりも美しい少女は美しい声でワタシに話しかけてきた。
おばさんからは、絶対に触ってはいけないよと言われていたのだが、ワタシは少女を抱きしめてみたくて手を伸ばした。少女はワタシの手を掴むとひらりとコレクション棚から飛び降りた。
スカートがふわりと花弁のように広がる光景を今でもはっきりと覚えている。
少女は「ありがとう」と言って微笑んだ。
可憐な足取りでおばさんのコレクション部屋を抜け出していってしまった。
ワタシはぼーっとしてその後ろ姿を見送ったのだった。
そして、少女の人形がいなくなってしまったことに気がついたおばさんは半狂乱になって少女の人形を探したという。「あの子はどこ」「あの子がいないの! どこ」と繰り返し繰り返し。
ビスクドールを棚から漁って落として、少女を探したという。
誰の手にも負えず、おばさんは結局、病院に入院してしまったときいた。それ以来、ワタシはおばさんに会っていない。
おばさんは今でも「あの子を返して」と叫んでいると人伝に聞いた。
そしてワタシもあの少女を探している。いつかあの少女を探し出したいと思う。
ワタシのコレクションケースに収めるのだ。少女のために、コレクションケースの一番いい場所を開けてある。
今度は大丈夫。コレクションケースには、頑丈な鍵がついているのだから。
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