少女と私と喫茶店
ワタシの日課は喫茶店に行くことだ。
年配の店主がやっている、いわゆる純喫茶というやつ。
落ち着いた店内に、フカフカとしたクッションのきいたソファ席。ひかえめな BGMに静けさの漂う店内。そんな落ち着いた雰囲気が気に入って、ワタシはこの喫茶店に通っている。
ワタシはいつもブレンドコーヒーを注文する。この喫茶店の売りは、昔ながらのパンケーキなのだが、あいにくと注文したこたおがなかった。
カバンから読みかけの文庫本を取り出して読み始めた。
やがて、コーヒーが運ばれてくる。
コーヒーをゆっくりと飲みながら小説を読むひとときを大切にしている。
そんなワタシの日課に、最近、加わったことがある。
あまり褒められた趣味ではないことはわかっているのだが、どうにも気になってしまうのだ。
それは、一人の少女を観察することだった。
いつの頃からだろう。ワタシの通う喫茶店に一人の美しい少女が来店するようになった。
いつ、店内に入ってくるのかわからない。
今日も気がついたら、いつもの窓側奥の席に座っていた。
今日こそは、店内に入ってくるところを見たいと思っていたのだが、また見逃してしまったらしい。
最近では、この少女は店の入り口からではなく、厨房から入ってきているのではないかと疑っているほどだった。
少女はいつも一人で窓側奥の席に座っている。連れを見たことはない。
その少女の美しさに惹かれて、ワタシは文庫本の影からついつい少女を盗み見てしまう。
今日も気をそぞろに文庫本を読むふりをして少女の顔を窺っていた。
我ながら、趣味がよろしくないと思う。
しかし、気になってしまうのだ。
そして、ふと視線を逸らした隙に、少女はいなくなってしまうのだった。
どこから、帰るというのだろう。
「ご主人、あの少女はお知り合いかい?」
ワタシは一塁の望みをかけて、店主に聞いてみた。
店主からの返答は奇妙なものだった。
「あの子が見えるのかね」
まるであの子が幽霊かのようではないか。
「そりゃ、あんなに綺麗な子ならみてしまうよ」
「……」 しばしの沈黙の後、店主はワタシにいい含めるように言った。
「あの子には関わらない方がいい。悪いことになるうよ」
その返答に面食らってしまった。
いままでも店主と話をしたことはあるのだが、こんなにも誰かを悪くいうような物言いをこの店主がしたことはなかった。
悪いことが起きるとは一体どういうことだろう。
「あの、」
「しばらく、ここには来ない方がいいよ」
と店主は真剣な表情でいった。
そして、店主の無言の圧力に負けて、ワタシは店を出ることにしたのだった。
あの少女は一体何なのだろうか。
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