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【マンション麻雀】 後ろ見の女 解決編

これまでのあらすじ:【 後ろ見の女 前編 】

私の通うハウスは、40畳ほどの広いリビングに麻雀卓3卓とポーカーテーブルが1台、そして、それらを区切るようにソファやマッサージチェアが置かれている。
すべての席が埋まった光景はここ8年で一度も見たことがないが、オーナーは「このほうが見栄えがいいじゃん。パーティにも使えるし」と王のスタンスをとっている。

この日の麻雀は、窓からもっとも離れた壁側の卓で、私は壁を背に打っていた。
ヒトミは後ろ見のためのイスを設置し、キッチンにある冷蔵庫からドリンクを取ってゆっくりと戻ってきた。


彼女が私の後ろ見を始めたのは、1戦目の東3局、親番4巡目でドラ8m、ちょうど私の手がテンパイしたときだった。

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4巡目のハネマンというスピード違反を犯してはいるが、残り2枚しかないためダマテンを選択。
「見ている手牌がテンパイだと喘ぐ」というヒトミが後ろ見するタイミングとしては、そこそこ厳しい手牌と言える。

こういうとき、「さすがにこんな状況でテンパイを知らせないだろう」だとか「席についていきなり喘がないだろう」などと予断をするのは甘い
私はゴルゴ13並みに臆病な性格なので、こういった最悪のケースを回避することを一番に考えた。
ヒトミはまだドリンクに集中している。すぐに会話を投げかけまくることで手牌から意識をそらす作戦に出た。

私 「ヒトミさんは大学何年生なの?」
ヒトミ 「2年生です。」
私 「そうなんだ。麻雀は大学とかで覚え始めた感じ?」
ヒトミ 「いえ、友人に教えてもらいました」
私 「それは幸運だったね。麻雀は人とのつながりができるから、いろいろ役に立つと思うよ。大学に麻雀サークルはあるの?」
ヒトミ 「いえ、それがうちにはなくて・・・あっ!
黒沢 「・・・・・・」
初老A 「・・・・・・」
私 「・・・・・・」


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私の投げかけた質問が簡単すぎたせいか、あるいは話が退屈すぎたせいか、どうやらヒトミは私の手牌に気づいてしまったようだ。
しかし、喘いでしまったものは仕方がない。せめて残る社長Bにはこの ”法則” を気づかれないように注意するだけである。

捨て牌3段目に差しかかったころ。
ヒトミ 「ああっ」

またしてもヒトミが声を発したが、私の手牌は変わっていない。
つまり、黒沢がテンパイしたのだ。
リーチも仕掛けも入っていないのに、2人のテンパイを3人のプレイヤーが確信している。現代麻雀とは明らかにかけ離れている異様な光景がそこにはあった。
社長Bだけがこの優位性を持っていないが、勝負の世界は非情。これも仕方がないことなのである。
副露手で長考し手出し付近がロン牌になる、例えそんな暗黙の了解があっても、この世界では叩かれることはないのだ。

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