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【あっさじーん伝記】 ごちそうクラッシュ


【前回の話】

 6月2日 火曜日
 すごろくセットからの食事会を企画することになった。決行日は6月8日 月曜日だ。

 そこで、以前からエビスバーの食事代を半分出してほしいと懇願していたあさちゃんを誘ってみることに。当初は「遊図の本走で死んだから行けません」と宣っていたが、セット面子の森くんや稚児さんが会いたがっていることを伝えると「それならば」と重い腰を上げてくれた。

 その後もさまざまな理由で参加が怪しいことを匂わせてきたが、「飲み代はちゃんと半額ごちそうしますよ」「お金ないなら貸しますよ」「みんな会いたがっていますよ」「ギャンブルきついならすごろくは見ているだけでもいいですよ」とヒルのようなしつこさで食らいついた結果、「カネはないがみんなの気持ちを無駄にできないし、エビスバーを半額出してくれるのなら行く」と言ってくださった。
 ただちょっと体調が優れないとのことなので、前日に改めて確認するという約束になった。


 6月7日 日曜日 セット前日。
 当日の予定がほぼ定まったので、LINEにて詳細をお伝えした。

 しかし、既読は付くものの返事はまったくない

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 ツイッターを見ると普通にやりとりが行なわれていることからスマホは触っていると考えられる。これはおそらくSNSの低級テクニック「既読無視」というやつだろう。
 どう返事するのか迷っている可能性もあるが、すでに予定日は明日に迫っているので早めに返信していただかないと困る。

 そこですぐに返事をしてもらうのにとっておきの裏技がある。「返信しないならエビスバー半額サービスは代わりに澤田さんに差し上げます」これが最善手であり、これ以外はすべて頓死する。

 すると予想通り1分以内に返事がきた。現金な男である。

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 返信内容は「澤田さんも来るんですか」という意味不明なものだった。

 幹事の私はあさちゃんに参加できるかどうかを訊いているのだが、彼は質問の連打だけキメて回答に納得し、「わかりました」で会話を終わらせてしまった。コミュニケーションとは言い難いやりとりだろう。これではほぼ壁打ちである。

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 そもそもなぜ「澤田さんも来るんですか」という疑問が浮かんだのだろうか?
 遊図でセットしたあとはいつも澤田さんを誘って一緒に食事へ行っている。勤務しているあさちゃんの目の前で誘い、我々が一緒に店を出るところを何度も目撃しているはずなのだから、澤田さんが来ることはなんら不思議ではないはずだ。

 そう考えれば、これは疑問ではなく「澤田さんも来るのかよ」という文句に近いセリフだということがわかってくる。面子に不満を抱いており、それこそ「澤田さんには来てほしくない」というニュアンスが含まれているのだと私は直感した。

 しばらく前のことになるが、私と森くんがあさちゃんを誘って競艇場へ遊びに行っていたころ、彼は「澤田さんだけは絶対に誘わないでください」「仮に偶然でも、競艇場で澤田さんを見かけたら僕はすぐに帰らせていただきます」と宣言していたのを思い出した。それほどまでにプライべートで同じ空間にいたくないのだろう。

 スクショ下部の「それ以外は誰も来ません」と送ったすぐ後、タイムリーにも澤田さんから電話がかかってきた。あさちゃんから怪文書が送られてきたため、返事に困っているらしい。


その怪文書とは




あさ 「明日は自宅でゆっくりしませんか?」



 私はイスから転げ落ちた。



 澤田さんの相談内容はこうだ。

「あさじんくんからね、『明日は自宅でゆっくりしませんか?』というメッセージが来たんだけど、これってどういう意味だと思う?特にやりとりもしていないところで、なんの前置きもなくいきなりこう来たんだよ。誰かと間違えて送っちゃったのかな?対応をミスると地雷を踏んでしまいそうなので、アドバイスを願えませんか?」

 澤田さんが悩んでしまうのも無理はない。「明日は自宅でゆっくりしませんか?」なんてメッセージを送るのは通常は恋人相手くらいのものだろう。もしそうだとしたら、相手に恥をかかせずにやんわりと伝えるのはなかなか難しい。

 初見でこんなメッセージが来たら意味がわからない人が多いと思う。
 本人としては、遠回しに伝えているから自分の意図を悟られまいと思っているのだろうが、日本介護士会でただ一人SSS級ライセンスを保持している私には、彼の言葉の裏側が手に取るように理解できる。
 彼の意図とはすなわち、「澤田さんに来てほしくないから家に留まってもらおう」という魂胆だ。

 一般的なレベルで脳のシナプスが伝導しているなら、翌日に一緒に食事するメンバーの一人から「明日は自宅でゆっくりしませんか?」などと連絡されたら、それは「明日は来ないでくれ」という意味だとすぐにわかってしまう。そんなことにも気付けないくらい強い気持ちで澤田さんに来てほしくないのだろう。

 この怪文書が誤送信の場合は澤田さんには非はない。よって今回はマジ送信という前提で返事を考えた。マジ送信だとしたら「明日は来るな」ということで一点読みだ。しかし、いまはそれをわからないフリをしてメッセージの意味を問うてもらうことにした。

 「なんのこと?」

 澤田さんがこう返すと、あさちゃんは根掘り葉掘りと質問をぶつけてきた。

「関西に行かれているそうなので、明日の予定はどうなっているのかと思いました」
「東京に戻ったあとは?」
「遊図のシフトに入っているんですか?」
「遅番は?」


 澤田さんの電話相談は続く。

澤田 「すごく質問してくる。普段こんなに僕に興味持たないのにw
私 「本当にお会いしたくないんですね。とりあえずなにか予定があって行けるかわからないと濁してみては?」
澤田 「実際、暴君からセットに誘われていて、いま断るのに必死なんだよね
私 「じゃそれでええやん」
澤田 「そうします」

 澤田さんが「明日は暴君セットがあるから食事会は参加できるか怪しいです」と伝えると、あさちゃんはこれでもかと不自然な返事をかぶせる。

「暴君セットにはちゃんと出ましょう」
「セットはいつ確定するんですか?」

澤田 「いままでそんなの気にしたことないのに何言ってるんだよぉ。意味がわからないよぉ」

 さすがにこれは誰がみても「澤田さんに来てほしくないんです」というお気持ち表明が見え見えだ。一周まわって気づいてほしいまである
 普段は興味のないことには一切言及しないという彼の性格が完全に裏目に出てしまっている格好だ。

 しかし、あさちゃん本人の口から「澤田さんに来てほしくない」とは言われていないのだから、来れないかもしれない→やっぱり参加できましたという流れになっても文句は言えないはずだ。


 その後、私のほうにも根掘り葉掘りが飛んでくる。

「澤田さんはフィリアさんが誘ったんですか」

 ウミガメのスープ問題でヒントをもらっているような気分である。もう私の脳内では「俺は澤田に会いたくないのにお前が誘ったのか!」と変換されていた。そういうつもりでお返事をしてみた。

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 そろそろ回答する時間だ。私は問題の答えを率直にぶつけた。

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 「上司がいると気を使って疲れる」これは一般的なサラリーマンには当てはまるだろうが、麻雀遊図においては当てはまらない。
 上司に気を使っているなら深夜に発狂してLINE連投はしないし、たまにタメ口で「~しろや」などと暴力的な口調にはならない。
 勢いで返事する前に、自身の発言がいままでの行動と矛盾していないか少しくらい考えていただきたいものだ。

 彼は自分が周りからどう見えているのか認識する力が致命的に不足している。これはおそらく能力の問題ではなく何かしらの疾患が原因だろう。

 でも大丈夫!麻雀遊図はそういったスタッフがいても周りが助けてみんなで頑張ります



 「暴君セットの誘いがほんとにしつこい!生活できない!」と騒ぐ澤田さんから再び連絡があり、食事会に参加できる確率は20%くらいだということがわかった。あさちゃんにとっては嬉しい報告だ。喜ぶ彼の姿を想像し、私はすぐにその果報をお伝えした。

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 澤田さんの話はパーフェクトスルーされたが、返信までの7分の間に飛び跳ねて喜んでいたに違いない。そしてお金の話題に方向転換された。

 「エビスバーの金(半額なのか全額なのか)」という部分は、奢ってくれる相手にもう少し丁寧な言い方できないんかいと思わなくもないが、これが彼の平常運転であるし、もはや慣れすぎて一周まわって安心してくる。

 交通費が残るかどうかの瀬戸際までカツカツになるという経験は大学生ならあっても不思議ではない。ただ40歳をすぎても体験している人はどのくらいいるのだろうか。彼のこれまでの異常思考・異常行動はそういった苦しい状況に追い込まれていることも原因の一つなのかもしれない。


 それはさておき、彼は給付金目当てで外食を先打ちしたりフリー雀荘で遊戯しており、誰もが予想できたようにやはり深刻な金欠状態に陥っている。

 そんな財政状況の中で彼がエビスバーに来てくれたら、私は今回こそ本当に彼を説得し、無駄使いや豪遊をやめさせようと決心していた。このままでは同じことをくり返すだけで、泥沼から抜け出すことは一生できない。どこかでガマンして力を溜めて一気に上部へ噴射しなければ、下水道レベルの生活から抜け出すことはできないのだ。
 資産形成において資産マイナスからプラスにもっていくのは非常に難しい。ここを理解しなければ彼は一生このままだろう。それではあまりにも辛い。

 どんなにお先真っ暗でも、いくら彼の将来がベンタブラックのように暗くても、みんなで考えて支えてあげればなんとかなる。それが日本という国だ
 そして暗い話は5分ほどで終え、みんなでワイワイと明るく呑み、あさちゃんの決意表明の覚悟の度合いによっては、激励会ということで彼の食事代を全額出してあげてもいいかなとさえ思っていた。



 そして当日早朝、彼から決意表明が。



 

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どこか見覚えのあるメッセージだ。



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    このご時世なので、もし新型コロコロだったとしたら他の方にもうつしてしまう危険性がある。体調不良なら来れなくても仕方ない。



 セットを終えた私たち5人はあさちゃんを心配しながらエビスバーへ向かっていた。飲み会に来られないというほど体調が悪いのだろうか?新型コロコロだったらどうしようか?そう思いながらふとツイッターを開いてみると、彼のつぶやきが流れてくる。

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 お金あれば食べに行けたらしい。おまえさっき体調不良って言ってたやん。その日1日くらいは言い訳を統一してもらいたい。

 これは本当に大切なことなのだが、頭の悪い人は嘘をついてもあり得ない速度で自滅する。ただ信用を失うだけなので、本当にやめたほうが良い。素直が一番だ。

 (知能が低すぎて)あまりにも可哀想になってきたので、言い訳矛盾は見なかったことにして、彼を誘ってあげることにした。

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 「スペアリブがメニューにあるか確認して欲しいです」というセリフ。これは本当にすごい。「スペアリブがメニューになかったら半額でも飲み会には参加しません」という意味である。

 本当に恐ろしいことを言う男だなと思いながらも、仏のような心で彼を招くことに力を注いだ。メンバーの稚児さんも森くんも、あさちゃんにとても会いたがっているからだ。


 しかしそれから十数分後、彼からオワリの言葉が告げられる。




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 これじゃ日本でも生きていけません。 



(続)


このノートがあなたにとって有意義なものであったらとても幸いです。